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第四次産業革命に向けて

某所のために文章を書いたので、こちらにも投稿します。
(全約一万文字なので、よほどご関心がおありの方以外はご無理をなさらず)

1. 人類の発展史(頭の体操)

酷暑とも言われた夏において「昔はエアコンが〜」とか、音楽ストリーミングが増えた中で「昔はLPを擦り切れるまで〜」というような意見が発生することがあります。こういった意見に対して進歩と堕落といった二元論で対立になることも見聞きします。

人類は進歩したのでしょうか、あるいは堕落したのでしょうか。
このような無意味な命題に対して、ベンチャースピリッツと中央集権化という切り口で見てみます。あくまでも頭の体操で、学術的な裏付けはありません。

A) 人類が孤立する個体であった頃、主に狩猟採集で生きていたと考えられています。このときに生存にあたって必要な行動は「食う」ことで、生存にあたっての課題は偶然性に依存するがゆえの「不安定」ということとします。

B) その不安定を回避するため、偶然に依存せずに「育てる」というスキルを発揮して、孤立していた個人が群を形成し、農耕によって生存を図るようになります。この段階での課題は、例えば「天災」が考えられます。

C) 天災による被害をできるだけ小さくするため、「道具を作る」というスキルが重要になってきました。その結果、群れの全員が農耕という同一行動に従事するのではなく、専ら道具を作る個体と農耕に従事する個体との共生の群集が形成されます。すると、道具を作るための「資源」が課題となります。

D) 資源を確保するため、道具を作るための資源が豊富な地域と、農耕に適した地域の間での交易が広まります。これによって異なる地域の群集間での食い分けが定着します。今度は地域間の移動の「時間」が課題となります。

E) 交易に要する時間をできるだけ短くするため、動力が発展します。これによって地域ごとの群集間で、早いもの勝ちという競争が生じます。従って動力に必要な「エネルギー」の確保が課題となります。

F) エネルギーを確保するため、必要となった行動は奪い合いと支配です。生物学的には生物群集間の捕食被食の関係が人類において広まったということになります。この場合のエネルギーとは、天然資源もあれば、動物もあれば、ヒトということもあったでしょう。当然の帰結として課題となったのは「戦争」という事象です。

G) 「戦争」という課題を解決するために必要となったのは、制度やルールを守るという行動です。ルールを守る手段として、国と企業と通貨という技術を用いて、生息空間が単純化されました。この段階で、課題として自覚されているかどうかはともかく、「過剰依存」という状態が生じます。

「過剰依存」、すなわち自らが属している何らかの組織や領域に生存を全面的に依存することによって、個々人がそれぞれ属している組織や領域と自らを同一視することになり、その他に対して不寛容となります。

H) 「過剰依存」の状態になりますと、人類の生存を維持する手段としての富の再分配が困難となります。それを解決しようとする一つの手段として、富に加えて、あるいは富を表現する手段として「共感」という技術で繋がりを求めていこうとしています。

「共感」というのは美しい言葉でありながら、内心の自由を束縛しかねない方法です。ある考え方に共感するかしないかで対立が起こったり、ある共感の対象、具体的には自分が属している国、企業、その他の属性と、あたかも自分自身が同一人格であるかのような同一視が過剰になったりし、かえって多様性に対して不寛容な環境になりかねません。

実際、財政破綻や、パナマ文書や一部の政治的な動きに象徴されるような国と実際の市場の不一致、相対的貧困や社会的排除などなど多くの問題がここのところ急激に増加して、必ずしもうまく運用されていないという問題が顕在化してきました。
今まさに、中央集権システムに加えて、補完するような、場合によっては代替するようなシステムが必要となってきました。具体的には中央集権システムを一々経由するのをバイパスして、世界中の多様な個人と個人が直接繋がるような生態系です。

この生態系では、個体同士が、国や貨幣だけでなくあらゆる活動で相互連結すること、中央集権システムとは離れたところで個体の成長を図ること、そのような複雑な生息空間が必要とされます。
この複雑系を支える技術として、IoT、ビッグデータ、AI、ブロックチェーンなどが象徴的にあらわれていると考えられます。

以上の頭の体操では、人類の生存をいかに維持するかという課題に直面するたびに、新しい「ベンチャースピリッツ」が発揮されてきたというシナリオを表現しました。
それが普及、事業化されると、今度はその環境が人類の生存のために不可欠なものとなり、その環境に合致するように人類の生存形態が変容していきます。

あらゆる革命は、成功した瞬間に体制になります。あらゆるイノベーションは、普及した瞬間に規範になります。そして人類にとって所与の、疎外する客観的事実になります。そして新しい規範、新しい環境における課題が発生するという繰り返しになり、到達するということがありません。

この認識では、人類は進歩したのでも堕落したのでもない、まして段々便利になっていったのでもなく、人類が生存し続けるプロセスの現在進行系として、たまたま今があるということになります。

2. プラットフォーマーおよびデータ

その時代に生きている者にとっては太古の昔から存在するかのように見える社会的インフラも、もともとは人類の生存における課題を解決しようとした、その時々のベンチャースピリッツが事業化されたものと言えます。

このような重要なインフラの規格・基盤は、当初はあたかも熾烈な競争に見えるかも知れません。確かに始まりにおいてはWinner takes allの様相を示すことも多いかと思います。
しかしながら、そのインフラが重要であれば重要であるほど、超過収益を獲得する機会よりも人類の生態系に対する所与の環境となっていくというのが、人類の生存維持の流れだったのではないかと認識しています。

A) 世界中の発電および送電は、交流でなされています。黎明期において直流送電を主張するトーマス・エジソンとの熾烈な争いを経て、交流の地位を確固たるものにしたのはウェスティングハウスです。ウェスティングハウスは電力網、鉄道、放送、原子炉と今日の重要な社会的インフラにおいてイノベーションを興すとともに、独占的な地位を占めてきました。その後、売却や分離が相次ぎ、1999年に事実上消滅しました。

B) 複写機、レーザープリンタ、今日のPCやスマートフォンに必要不可欠なGUI、LANに必要なイーサネットを商用可したゼロックスは、次々とシェアを落とし、富士フィルムホールディングスからの買収提案を受けている状況です。

C) ウェブブラウザにおいて一時世界シェア9割を誇り、RSS、SSL、Java Scriptなど今日のインターネットにおいて必要不可欠な技術を産み続けたネットスケープコミュニケーションズは、その後AOLに買収され、大量レイオフによって事実上消滅しています。

D) 世界中の人々をつなげるという手段において、圧倒的な地位を占めたフェイスブックは現在、信頼性の回復に追われています。これはフェイスブック固有の問題、企業統治だけの問題ではありません。世界中の個人と個人をつなげるというプラットフォームが、あまりにも人類にとって重要になり、必要不可欠となってきたからこそ、一私企業の倫理観や超過収益が許されなくなったという必然的なプロセスです。

時折、「官民挙げて規格や基盤で勝ち組になって、その結果デバイスやコンテンツで勝利を納めるべき」というような論調を見聞きします。規格・基盤はもちろん重要であるものの、これらはいずれにせよ非競争領域になりますので、ここで超過収益を獲得しようというのは大きな勘違いで、巨額な損失を被る恐れがあります。

重要なのは、世界的にどの規格・基盤が最終的な共通インフラになるかという動きを把握し、そこに出遅れないように貢献することです。
規格にせよ、具体的用途にせよ「いいものが勝つに決まっている」というようにケンカを売りに行くのでは、逆に排除される結果となります。

さらに言えば、仮に規格・基盤を何らかの意味で獲得した場合、人類の生存に必要不可欠なインフラとして、超過収益を獲得することができなくなり、極めて重い責任を負うことになり、いずれにせよビジネスという観点ではあまり意味がありません。

現在においてもてはやされているIoT、ビッグデータ、AI、ブロックチェーンといった流れはどうでしょうか。
これらの流れは、第四次産業革命における重要な構成要素として言及されます。

まずIoTは、従来のようにわざわざ人間が必要なデータを入力して、わざわざ人間が必要な情報を取り出すのが面倒だ。身も蓋もない言い方をすればこのように整理できます。
RFIDによるトレーサビリティや、ヘルスケアや、自動運転や、工場など色々あるものの、突き詰めれば面倒くさい、あるいは人手では限界、ということでしょう。

IoTで入力されたデータをどう使うのかというところで次にビッグデータ、これも一方においては相手にささるような的確な情報を届けたい、片方では必要な情報だけ欲しいと整理できるかと思います。
人の動きとか、マーケティングとか、自然現象とか、犯罪や医薬品開発など、色々な用途はあるものの、つまるところ無駄玉を撃ちたくない、役に立たない情報は欲しくない、ということでしょう。

そのビッグデータの解析について出てきているのがAI、これはデータ側ではちまちまと単純作業はしたくない、利用者にとっては安く効果を受けたいということになるかと思います。

こうして見ると、どれだけ楽をしたいのかというように見えますが、実際中央集権システムではなく、多様な個人が世界中で複雑に相互連携する世界では、このように楽をせざるを得ないという要求と考えられます。

そしてこういったデータのやり取り、相互連携の過程で、旧来の中央集権システムを経由していては意味がありません。もはやどこかで取りまとめられた情報は信頼性の観点からもコストの観点からも使われなくなる傾向にあります。ブロックチェーンという技術は、正にこの点で意味を持つものと考えられます。

こういった分散型の、複雑系のインフラでは、当然ながら世界中のあらゆるものがつながっていなければ全く意味がありません。この世界観では、誰かが囲い込む、誰かと競争するという価値観は排除されます。

従って、現在覇権を握っているかのように見えるプレイヤーに対して過剰に対抗する、あるいは過剰に絶対視することの双方とも正解とは思えません。
あくまでもビジネス、事業という観点では、規格・基盤のうえでいかに面白い研究やアイディアを生み出すかということが重要かと思います。
GoogleでさえSNSの領域においてGoogle+の廃止、タブレット領域においてAndroidの撤退を余儀なくされています。

3. スマート○○の最終形

人類の生存形態の変遷における中央集権から分散への流れ、プラットフォームの急速なインフラ化のプロセスにおいて、「第四次産業革命」と呼ばれるような思考の整理が行われるのは必然と言えます。

内閣府における第四次産業革命の骨子は、以下の通りとなっており、概ね世界的にも共有されている理解事項と考えられます。

ICTの発達により、様々な経済活動等を逐一データ化し、そうしたビッグデータを、インターネット等を通じて集約した上で分析・活用することにより、新たな経済価値が生まれている。また、AIにビッグデータを与えることにより、単なる情報解析だけでなく、複雑な判断を伴う労働やサービスの機械による提供が可能となるとともに、様々な社会問題等の解決に資することが期待されている。

この理解の通り、ポイントは以下の5点と考えられます。
a. 「データ化」
b. 「インターネット等の利用」
c. 「集約」
d. 「分析」
e. 「活用」

上記のうちa〜dは手段(規格・基盤)であり、eの「活用」が具体的な目的と区分できます。
手段に関しては前述の通り、いずれにせよ独占や囲い込みが排除される運命と想定しますので、主として「活用」において様々な事業、政策、思想などの展望や期待が語られています

このような第四次産業革命において実現が期待される「活用」を表現する用語として「スマート○○」が使われています。
特に日本においては、「超スマート社会」が好まれている印象があります。

内閣府の説明を箇条書きに直すと以下の通りとなります。
A) 企業
- 様々な情報をデータ化して管理
- 生産効率の改善、需要予測の精緻化、取引相手を含むサプライ・チェーンの効率的運用
- データの解析を利用した新たなサービスの提供
- AIを活用した事務の効率化や新たなサービス提供
B) 消費者
- 個人のニーズに合った財やサービスを必要な時に必要なだけ消費
- シェアリング・サービスの普及により、財や資産を所有せずとも好きな時にレンタルして利用することが可能
- デジタル・エコノミーの進展により、ネット上でのコンテンツ提供が増加しており、好きな時に好きなだけコンテンツを楽しむ
- 費用については、基本的にはネット配信は限界費用がゼロであるために、アクセス料金は安価ないし無料
- スマート家電等の普及は、電力使用の効率化
C) 金融
- 金融のデジタル化による資産運用や決済、融資にかかる手間や費用の削減
- 金融サービスから排除されていた人々や企業も金融サービスを受けられる
D) 仕事
- ICTの活用によるテレワークの更なる普及や、シェアリング・サービスによる個人の役務提供の機会の増加などにより、好きな時に好きな時間だけ働くというスタイル
- AIやロボットの活用により、労働が機械に代替
- 人事管理、資産運用、健康診断などのハイスキルの仕事についても、その一部が代替
E) 社会全体
- ウェアラブルによる健康管理
- 見守りサービスによる安心の提供
- 自動運転による配車サービスなど公共交通以外の移動手段の普及
- 高齢者も活き活きと生活できる環境の整備

価値評価を度外視したうえで、このような社会を構成する要素を抽出すると、以下の通りとなります。
a. あらゆる物理的現象、精神的事象のデータ化
b. 所有という概念の絶滅
c. 時間的、空間的制約を超えてあらゆる個人の端末化
d. AIによる全体最適化
e. 全ての社会インフラのコストがゼロへ近似

この社会の形態においては、いかなる逸脱、例外、想定外であれ、不便、事故、コスト、エラーの要因となります。
従って、例外を認めないで個体を規格に合致させるか、あるいは、あらゆる個体のあらゆる言動、内心の動きをもデータ化することによって、例外を作らないことが最終的な目標となります。

多くの者が明示的あるいは暗黙のもとに気づいているように、このためには例外なきウェットウェアの義務化が終着点となります。

● 全ての個体(人類はもちろん少なくとも家畜も)は誕生の瞬間からマイクロチップを体内に埋め込むことになります。
内心もデータ化する必要がありますので、脳への接続が実施されます。
● 中央集権、特権、管理者権限などは例外を招く可能性がありますので排除されます。
● 従って、現在のブロックチェーンそのままか類似するような、中央集権的存在なしに人類全体の台帳化、相互監視、データ交換を直接実現するような仕組みが導入されます。
● 個体間における対立の解決策の提示のためには、政治的手段ではなく、自己学習型のAIに委ねられます。
与信、決済、受信、通貨といった金融機能は、本質的にはデータ交換の手段に過ぎないため、ビジネス、政策、概念の全てにおいて絶滅します
法定通貨が存在しない以上、「国」という仕組みも概念もなくなります
人類という種には個体という概念がなくなり、人類総体で一つの生き物となります。一つの生き物だから矛盾もありませんし、けんかもしませんし、格差もありませんし、働く必要もありません。
全ての「社会」問題がなくなります

これは昔懐かしいSFの世界ではなく、論理的な帰結となります。
既に今も、「拡散」「友達」「規則」「為替」「神」「いいね」「平和」「政治」「尊敬」「科学」「スキ」「思いやり」「同期」「主義」「交換」「言葉」「規格」「共感」「標準」「報道」「愛」「権利」といった呼称で人類の統合プロセスが進んでいるところです。

もちろんこの終着点においては「多様性」というものは存在しません。全ての多様さが統合されますので、もはや個体の特別性はなくなります。

これは極論でしょうか。
でも「超スマート社会」の概念から論理的に導き出されるものです。
例えば自動運転の倫理問題があります。

猛スピードで走っている自動運転の車の先に5人倒れている。
ブレーキは壊れており避けるためには切り替えるしかない。
ハンドルを切った先には1人が倒れている。
AIとしてどのようにプログラミングするべきか。

上記のように全ての個体を接続すると何も悩む必要はありません。
A) 強制:そもそも自動運転の車が通りそうなあらゆる空間へ、いかなる個体も入り込まないように内心を操作する。
B) 人道:いかなる個体のいかなる内心の動きも完璧に補足し、全ての行動を完全に予知することを通じ、自動運転の車がそのような道路を通らないように操作する。

前者は、(勝手に命名すれば)「メフィストフェレス型の解決」、後者は「ラプラスの悪魔型の解決」とでも呼べるかと思います。
そのいずれにせよ、全ての個体の内心をデータ化しなければ実現できません。

4. 政府の役割

このような終着点のイメージに対して、直感的に抵抗を覚える向きは多いかと思われます。
現実はこのような短絡的な方向ではなく、より可能性に満ちているものと期待しております。

未だ体験したことがないような芸術、人体の新たな能力、人類未踏の空間、これまで考えられたことがないようなコミュニケーション手段、従来の価値観を転換させるような思考などなど。

その多くの可能性を、できるだけ多く発芽させ、成長させるために機能するのが政府の役割と理解しています。いわゆる大企業の役割でもありません。

● 大企業に代表されるような既存事業の存在意義というのは、営利団体であっても公共団体であっても、とにかく人類の「日常」を責任もって守って、維持し続けることにあります。

● 大企業が最も優先しなければならない責務とは、「納税」です。とにかく事業そのもので収益を挙げ、確実に納税し、人類内の富の再分配に貢献することです。

● 大企業にとって重要な機能とは、従業員やその世帯から税金や社会保険料などを確実に徴求して、個人の代わりに国に納めることです。本来国が担うべき徴税コストを引き受け、国に代わってきめ細かくやってあげることです。

● 同時に、個々人では極めて煩雑な納税や社会保険料の支払いについて、個々人に代わってやってあげることです。企業が間にいるからこそ、国は徴税という極めて高コストな業務から免れることができて、個人や世帯は自分で計算して直接納税するという面倒やミスから免れることができます。

● このような大企業にとっての成長とは、あくまでも国を基盤とした従来の中央集権的なシステムを維持させたうえで、効率化によって生産性を向上させるということになります。従来のシステムを破壊するようなイノベーションは、日常を守るという重大な使命に反する無責任な行動を意味します。

◆ これに対してベンチャーの存在意義というのは、そういった日常的な、中央集権的な営みから離れたところの活動にあります。一見すると無駄に見えても、稼働中の人類の生存システムがうまく行かなくなったときに備えて、その後の人類の生存に貢献するかも知れない活動と考えられます。

◆ ベンチャーが最も優先しなければならない責務とは、一見役に立ちそうもない活動を多様に続けることです。この活動に対して役に立たないとか、例えばあくまでも生命の解析がテーマであるうなぎの稚魚の研究について、養殖うなぎを早く安く食えるようにしろなどと注文することは筋違いです。

◆ そのためにベンチャーは、とにかく個々人の多様で自由な発想を最大限実現させる、ということが最優先の機能となります。既存事業からの不当な介入を防ぐと同時に、当然の見返りとして雇用や収入は保障されません

◆ ベンチャーにおける成長とは、従来の中央集権的なシステムが持つ限界を突破するとともに、既存のシステムが崩壊した後の代替案を提示し続けることになります。現時点で存在する事業の収益を追求することは、限界の突破とは矛盾してしまいます。

既存事業、つまり企業や官公庁に所属している個人というのは、その組織に最適化されていきます。
仕事のやり方はもちろん、納税、医療も組織に依存し、ひいては衣食住、趣味や社会生活も含めた生存権自体、組織に依存する部分が少なくありません。
給与天引き、健康保険、社内人脈、業務フロー、職務権限、住宅ローン、子供の入学面接と、組織に属していること自体で、個人および世帯が受ける恩恵は相当大きいと考えられます。
それと引き換えに、組織に帰属する個人が一人で実践できる能力は、限りなく細分化、特殊化、枝葉末節化してゆきます。

これに対してベンチャーの個人は、一人で納税も医療もこなして、当然に組織のバックアップなしに育児や衣食住も実践し続けるわけですから、人間としての価値観自体が変わってくるのは当然です。

もちろん、どちらが優れているというようなことではありません。
問題となりがちなのは、富の再分配の観点です。

大企業とベンチャーとの対話においてよく見られる光景です。

【大企業】
✔︎ 自分達でやろうと思ったらできる
✔︎ 金にならない技術は技術ではない
✔︎ 組織に属していない者はフリーライダー

【ベンチャー側】
✔︎ 大企業は動きが悪い
✔︎ お勉強ばかりで全く実現しない
✔︎ 一人では何もできない

このような対立ではなく、大企業側としては謙虚に自分たちでは様々な束縛によって研究できない、そもそも発想できないということを自覚することが必要となります。
ベンチャーにおいても反感を持つのではなく、日々自分たちが生きて生活して研究や創作できるのは、大企業が正に日々の生存維持システムを堅固に運営し続けているおかげ、という理解・感謝の姿勢が重要です。
大企業が破壊的イノベーションと真顔で言い出したら、人類の生存維持システムが崩壊してしまいます。

だからこそ、最近増えているようなフリーランサーか企業人かという対立を煽るような言説は、全てまがいものと断言できます。

このような意識を持つのは非常に困難です。人類の生存の仕組みとして、富の再分配がなされている以上、どうしても不公平感や不平等感、反感や対立は生じます
富の再分配機構としての国、政府の宿命として、いずれかの個体へ分配するためには別の個体から徴収しなければなりません。個体の犠牲なくして再分配はできません。

本質的に大企業や既存産業に所属するヒトと、ベンチャーや研究者あるいはフリーランサーなどと呼ばれているようなヒトとの間の対立は、このような再分配をめぐる不公平感、端的に言えば「税金の無駄遣い」と言われるような感覚が多いと理解しています。

ここを調整するのが、政府の役割と理解しています。
大企業側に対しては、ベンチャー活動に必要な基盤や資金は出しても過剰に方向性に介入しないこと。
ベンチャー側には、ベンチャー「企業」になったからには、もはや発散型は許されず、ひたすら事業化に向けて邁進すること。
これを自己責任の「意識」のみならず、制度として確立することが人類の生存に向けて重要な政府の機能と考えます。

折しも、財務省が発表した2017年度の法人企業統計において労働分配率が66.2%とバブル期にも及ばない43年ぶりの下落となりました。企業の内部留保や利益水準が高水準であっても、労働者へ分配されず、個人消費の活性化が困難な状況が続いています。
合わせて株価が27年ぶりの高値をつけた一方で、国内株式市場の時価総額とGDPの比率(いわゆるバフェット指数)は9月末で1.26となっております。1985年からの日本のバフェット指数の長期平均は0.85です。
これは、企業の利益水準が高まって株価を押し上げている一方、国内の消費との乖離がますます拡大しているということで、やはり富の再分配において何らかの問題があると考えられます。

このような事態に対して企業の内部留保や富裕層に対する課税強化を求める声も増えております。以前であれば有効であったかも知れませんが、現時点でそのような施策を採ると、ますます企業や富裕層は海外へ離散し、少子高齢化との合わせ技で早晩の破綻が見えています

政府の役割としては、エンジェル税制をもっと柔軟にしたり、企業のベンチャー投資に関わる税制優遇を強化したり、大企業側としてもベンチャーの成長を企業業績と直結できるような制度を用意することが有効かと考えます。

個別技術においては、前述の「終着点シナリオ」に備えて、最重要課題としてサイバーセキュリティの育成が重要になってきます。たとえ終着点シナリオに行かないとしても、ちょうど現在の様々な技術がインターネットに代表されるように、「国防」「軍」における必要性から開発されたものと同様に、様々なサイバーセキュリティをめぐる技術開発、コンクール、ゲーム、用途開発から、思いもつかなかったような新たな産業や芸術が派生する可能性も否定できません

なぜなら、サイバーセキュリティにおいて重要な「攻撃」(ホワイトハッカー)とは、現在の最高水準の産業、技術の「裏をかく」「抜け穴を見つける」ことが本質であり、それはすなわち「終着点シナリオ」に向けた論理的な一本道に対して「代替案」を提示する可能性があるためです。