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宮城県高総体サッカー決勝 聖和学園vs仙台三高

狼煙は上がり

宮城県高校総体サッカー県大会
決勝に駒を進めたのは、聖和学園と仙台三高。

2003年に女子校から共学化した聖和。
2009年に男子校から共学化した三高。
今年の決勝は真逆からのベクトルの共通項を持つ2チームの組み合わせとなった。

聖和学園は高校女子サッカーでは言わずと知れた名門。男子サッカー部もドリブルサッカーを武器に仙台育英・東北の2強時代が続いた宮城の高校サッカー界を切り開く存在になっている。
昨年の冬の選手権予選は決勝で育英に敗れたものの、今大会その育英を準決勝で破り8年ぶり3度目の優勝を目指す。

対する仙台三高はべスト8の常連。こちらも過去2度のインターハイ出場がある。
今大会では準々決勝で仙台二高を8-0で下し波に乗ると、準決勝で新人戦優勝の東北学院をPK戦の末に破る。昨年冬の選手権予選準決勝で敗れた聖和に決勝の舞台で雪辱を誓う。


三高は受験のために夏を最後に部活を引退する3年生も少なくない。自分達で選ぶ道であり冬の言い訳にはできないが、夏に向けてチームがピークを迎えるのは事実。

冬の借りは夏に返す。

その姿を見るべく、三高の応援席にも多くの人が駆けつけている。
冒頭で三高の2度のインターハイ出場に触れたがそれは昭和の時代まで遡る。優勝経験校ということを実感値として持つOBは正直少ないだろう。
つまり、ただのリベンジではない。
悲願に近いのである。


スタジアム前の広場を進む中で聞こえてきた印象的な言葉があった。

「これ同窓会だな。」

手には、緑色のユニフォームが握られている。
鶴ケ谷の坂を登った仲間との再会を懐かみながら歩を進める様は、力強さと高揚感に溢れていた。

機はいたった。

三高応援席から狼煙が上がる。


両校が組んできた布陣はこちら。


聖和の布陣は451。中盤だけでなく各ポジションにテクニックのある選手を揃える。
時に最終ラインでのビルドアップに加わり、時には前で自ら仕掛ける7番山下はドリブルもパスも高いレベルでこなす。
仲間にとってありがたく敵にとって嫌らしい局面で顔を出す6番キャプテン金子のオーバーラップが攻撃に厚みを増す。
前線には卓越したパスセンスで決定機を演出する14番古賀、どんなボールでもなんとかしてしまう9番柴田。タレントをあげたらキリがない。

三高の布陣は343が基本布陣。ただしこの試合は352と442を織り交ぜてきていた。
守備時は基本的に352。2番内野を高めに配置し、代わりに左サイドを下がり気味に。中盤を密集させ聖和のスペースを断つ狙い。
ボールを奪った選手はまずトップに早く当てることを狙う。そこからサイドに展開し、中へ折り返されるラストパスにトップの二枚が走りこむのが三高の形。ビルドアップ時には内野を加えた4枚でサイドの出口を探す。

前半がキックオフ。
試合の入りは、三高が掴んだ。

ライン際で三人がかりでボールを奪い、9番虹川と18番檜山が繋ぎ7番宮崎へ。宮崎は倒れながらも「胸で」ボールを止めてラインを割らせない。

開始早々に生まれたこのシーンは、この日の三高を象徴するシーンとなった。是が非でもボールを奪う。そしてマイボールを大事にしようという気持ちが伝わってくるプレーだった。

三高は聖和の攻撃に耐え、カウンターからチャンスを作りだす。

前半14分。18番檜山が聖和のビルドアップのミスを見逃さずカット。単独で持ち込み放ったシュートはポストを10センチかすめる。

前半21分、7番宮崎が斜めに速いボールをトップに当て、逆サイドの10番に展開。最後は枠を外れてしまうも、この試合でどう点を取るかの狙いが見える連動性だった。

前半23分には左サイド深くへのロングフィードからコーナーキックを得る。
宮崎の蹴るボールは高い弾道を描き、4番大槻が合わせるもボールは惜しくも右にそれる。

聖和の個人技でいくつかピンチも招いたが、決定機を作り出していたのは三高の方が多い印象の前半だった。
戦前の予想を覆す健闘に大きな拍手の応援席。見送られロッカールームに戻る選手達自身が誰より手応えを感じていただろう。


ただ、聖和は流石だった。
後半、先にピッチに入ってきたのは聖和。やることはもう決まっていると思わせる不気味さがあった。
最初のスルーパスは三高GK我妻の飛び出しで難を逃れるも、聖和のギアが上がったことを示すには充分なシーンだった。
そして聖和の猛攻が始まる。

後半0分。
11番局田が右サイドを突破。2番中新井と10番梅田を経由し左サイドに走り込んだ14古賀に狙われる。

後半1分。
9番柴田に前を向かせてシュートを許してしまうがこれは三高はポストに助けられる。

後半2分。
6番金子から出たボールを受けた梅田がペナルティエリア深くに侵入。これはなんとかクリアするも、再度金子が左サイドから3人を交わしバイタルを突破。ペナルティエリアの9番柴田に当てられあわやPKというシーンも。

後半3分。
11番局田が右サイドを突破しゴール前に流し込んだボールは三高ディフェンスがなんとか掻き出す。

立ち上がり4分で4つの決定機を作る聖和。

聖和は明らかに後半開始から戦い方を変え、いや、徹してきた。
左右のウイングを張らせ、1対1の勝負のシーンを増やしてきたのだ。当然これにより中盤の選手の負担も上がるはずだが、それは中の選手がボールを失わないことへの信頼だろう。

徐々に三高のプレスが後手に回るようになりペナルティーエリアへの侵入を許すようになってしまう。当然のことながら同じ走るでも自分達が主導権をかけてプレスをするのと、追わされるのでは疲労が変わってくる。前日は延長も戦っての3連戦目。疲労が思考を次第に蝕んでいく。
それでも三高は耐えていた。最後はGK我妻とディフェンス陣全員がクロスに対して体を投げうち掻き出していた。

しかし、ついに聖和の波状攻撃が身を結ぶ。

先制は後半18分。
中盤でボールを持った14番古賀が一人かわす。
あえて狭い隙間を通し10番梅田に。
梅田はワンタッチで前を向き、ワンツーで抜け出した古賀に。古賀は中に低いボールを選択する。
ボールが転がった先に走り込んだのは11番局田。ここまでサイドでチャンスを演出していた彼が鶴翼の陣の翼をたたむかのように満を持して中にしぼってきた。
左足で落ち着いて流し込み先制。

聖和の凄さはここだろう。まずどこからでもゴールを目指してドリブルで進める。サイドをあくまで手段で使う。
最後はどこからでもゴールを狙える個がある。

さらに追加点は後半28分。
キーパーからのフィードをディフェンスを背負いながらコントロールした梅田が左サイドを突破し中へ。途中出場の伊勢本がワンタッチではたいた先に「再度いた局田」が左足で振り抜いたボールがゴール左上隅に突き刺さる。


三高も何度かゴール前に攻め入るも試合はそのまま聖和がリードを保ち2-0で勝利。
8年ぶり3度目の優勝となった。

自分達のサッカーに徹した聖和は流石だった。
ボールに触るというサッカーの楽しさを大事にすること自体にも大きな意味があるが、そのスタイルを強さに昇華していることへの賛辞はなかなか言葉で言い表すのは難しい。


その聖和相手に三高は充分に健闘した。

テクニックがある相手からなんとかボールを奪おうと足を伸ばし続けた。
抜かれても自分の責任でくらいつき続けた。
チャンスは偶発的なものではなく意図して作り上げたものだった。

なにより走った。

試合の後、ユニフォームの緑色と黒のグラデーションは彼らの汗でいつも以上に黒く見えた。

素晴らしい戦いだった。
この試合そしてこれまでの日々は、仲間とうま酒を汲みていつまでも讃いあえるものだろう。



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