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アメリカで出会った100の光景 No.38(大自然の絶景)アラスカ・デナリ国立公園、自然の厳しさ・人の優しさ

9月中旬のアラスカというのは、観光には中途半端な時期だ。大自然を遊ぶには遅く、オーロラを期待するには早い。

一番有名なアラスカの国立公園といえばデナリ。けれど、ガイドブックによれば9月の中旬でクローズしてしまうという。公園に向かうアラスカ鉄道も9月の中旬から運行の本数がグッと減る。
わたしたちが向かったのは、そのはっきりしない時期。入れるのか入れないのか、確実な情報がつかめないまま、アンカレッジからデナリへ向かった。
とりあえず自分たちの車で行けるところまで行ってみようという魂胆だ。

どんよりとした空の下、デナリ国立公園の看板を発見。

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黄色く色づいた木々に囲まれた道を延々走ってきたが、いつの間にか周りは茶色い山々に変わっていた。
山の上の方は雲に隠れて見えないので、雄大ながら、なだらかな山々はどこか牧歌的な感じで、アラスカよりも阿蘇にいるかのよう。ちなみに、阿蘇にはまだ行ったことはない。

聞いた話では、正面にドーンと6,190メートルの高さを誇る北米最高峰のデナリ(以前の呼び名はマッキンリー)が見えて、オオーッ!と感嘆の声を上げずにはおれない場所があるということだったのだけれど、残念ながら厚い雲に覆われていてその場所がどこかさえわからない。
仕方がないので、見える範囲で一番高い山を”my denali"と名付ける。my denaliは車で移動する毎に変わっていく都合のいい山だ。

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結局、問題なく公園の中に入ることができた。特にゲートはなかったので、入園料も払わないまま、車を走らせる。
ときどき車とすれ違うので、他にも人がいることがわかって安心する。

走っているアラスカ鉄道にも出くわした。背が高くて勇壮。アラスカの移動は本当にスケールが違って、走っても走ってもずっと同じ景色が続く。タイミングが合えばここまで運んでもらいたかった。

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園内をしばらく走っていると、川が流れていた。川にかかっている橋の向こうにはレンジャーステーションがあって、その先に行くには許可証が必要とのこと。キャンプの人やバスツアーの人じゃないと入れないらしい。

川沿いのトレイルを歩いてみることにする。時折小雨がぱらつき、きれいだけどなんとなくパッとしない。青空の下だったら違う感想をもったんだろうけれど、これが9月のアラスカ。

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翌日、再び公園内へ。
相変わらずのぐずついた天気ではあるけれど、少し山を上るトレイルを歩くことにする。
駐車場で身支度を調え、さて出発、というとき。ちょっと待って、トイレ。さっき行ったばかりなのに、また行きたい。
そう、アラスカで印象に残っていることといえば、トイレが近くなること。気温は4,5度くらいだったか。いつもの倍くらいはトイレに行った。

トイレから戻ってきて、さて本当に出発しようと歩き出したとき、ナイスガイに話かけられた。
「もし時間があるんだったら、これをあげる。」
「これ」と言って彼が差し出したのは、赤い紙。何をかくそうそれは、「Road Lottery」に当たった、スペシャルなチケットだった。
ちょうど、わたしたちが行ったときは年に数日、普通の車でも公園の奥まで行けるという抽選があったときで、その人が持っているのがその当たり券だったのだ。
その人は「もう行ってきたので、よかったらあげる。こんな景色が見れるよ」と携帯の画面を見せてくれた。そこには山の斜面のグリズリーが映っていた。
即決。何も天気が悪い中、無理して歩く必要なんてないない。こんな機会ない、ドライブを楽しもう。わたしたちは精一杯のお礼を言い、彼からチケットをもらった。
要するに、スキー場のリフト券のようなものか。しかし、まだ朝の10時。彼はどれだけ早くから行動していたんだろう。

前日に歩いた川を渡る橋にレンジャーステーションがあった。昨日は、その先に行くバスをうらやましく見ていた場所。
そこを今日わたしたちは通り抜けることができる、はず。
ドキドキしながらその関所にさしかかる。レンジャーがフロントガラスに貼ったパスを確認する。日付とナンバーがふってある。
何を聞かれるのか、と緊張マックス。もうこのナンバーは通ったはず。怪しく思われて詳しくいろいろ聞かれちゃうんだろうか。若干のうしろめたさが緊張をますます高める。いやここは聞かれたら素直に本当のことを言った方がいいんじゃない。はるばる地球の彼方からやってきた日本人だ、きっと無下にはされないだろう。しかし、なんて言えばいいんだ、英語で。
ええい、人間どうにかなる。
で、どうなったかというと結果は、案ずるより産むが易し、ということで、わたしたちの車は人数を聞かれて、動物に近寄らないようにと言われただけであっけなく通された。

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そこから未舗装路の魅惑的なドライブが始まった。
雄大なところは、それまでの景色と一緒だが、周りを囲む山の高さは違っていた。それまでより一回り高い雪をかぶったとがった山々がそこにあった。
時折雲の切れ間から、白く輝く山肌が見えると興奮する。
相変わらず、どれがデナリ山なのかさっぱりわからないが、もう白いギザギザが見えた山はわたしにとってはみんなデナリだ。
道はガケ沿いの狭い道を進む。ぱらついていた雨は雪に変わった。山を覆っている茶色い草木も白くなっている。
すると前方に車が数台止まっているのが見えた。もちろん、後ろに止まる。国立公園で車が止まっていたら、それはもう120%野生動物がいるということなのだ。
50mほどの距離だったろうか。山の斜面にいたのはグリズリーだった。茶色い大きな体を揺らしながら、山の上の方に歩いて行く。以外と早い。
みんな車から降りてカメラを向けている。わたしも・・・と走って行こうとすると「自分の車から離れるな!」レンジャーの車から制された。
なんとなく公園内だし人が大勢いるから、と油断しがちだけれど、数年前には殺されてしまった人もいたとのことで、やはりそこは緊張感を忘れないようにしなければいけないのだった。

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ほかにはムースにも遭遇。変な鳴き声が聞こえるので、必死にその声の主を探してみると、それはムースの気を引こうと一生懸命に鳴いているおじさんだった。

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さて、大自然を満喫した充実のドライブは行って戻って6時間。
高揚感を抱いたまま宿に向かった。充足感と、触るのもいやなくらいドロで真っ白になった車が残った。

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しかし、こんな経験ができたのも、すべてはチケットをくれたお兄さんのおかげ。これからわたしはぜったい外国人旅行者に親切にしよう。そう思う旅になった。

デナリ国立公園(Alaska)
Denali National Park


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