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新型コロナウイルス感染症治療薬候補④ケブザラ(サリルマブ)・アクテムラ(トシリズマブ)について 薬剤・臨床試験解説

【この記事は新型コロナウイルス感染症治療薬候補の臨床試験を紹介・解説するものであり、特定の医薬品を推奨するものではありません。現在、新型コロナウイルス感染症に有効であるという確かな知見が確立された薬剤はありません。

 今回はサリルマブ(商品名:ケブザラ)とトシリズマブ(商品名:アクテムラ)について書きたいと思います。尚、より詳しい臨床試験情報は、
https://www.clinicaltrials.jp/cti-user/trial/ShowDirect.jsp?clinicalTrialId=30338(サリルマブ)
https://www.clinicaltrials.jp/cti-user/trial/ShowDirect.jsp?clinicalTrialId=30447(トシリズマブ)をご参照ください。

サリルマブとトシリズマブの解説
 サリルマブとトシリズマブは関節リウマチの治療薬として使用されています。(トシリズマブにはリウマチ以外にもキャッスルマン病やサイトカイン放出症候群にも適応があります。)

関節リウマチは自己免疫疾患の一つです。ヒトには、身体を守るため免疫を備えているのですが、それが環境や遺伝などの因子によって異常をきたし手指・関節に炎症が生じた結果、骨・軟骨が破壊されるというのが自己免疫疾患の仕組みです。

 コロナの場合も関節リウマチと同様、何らかの機序で本来ヒトを守るはずの免疫機構が異常をきたす(サイトカインストーム)ことが指摘されています。コロナの場合は肺以外にも腎臓、肝臓、心臓等全身の臓器を傷つけてしまうという厄介な性質があることが指摘されています。

サイトカインストームとは?
 ヒトは、ウイルスと戦う際に免疫を活性化するためにサイトカインというタンパク質を放出するのですが、この感染症は何らかの機序でサイトカインを過剰に放出させることで、本来人を守るはずの免疫機構が暴走し肺や腎臓、肝臓、心臓等全身の臓器を傷つけてしまうという厄介な性質があることが指摘されています。

 そのサイトカインの一つであるインターロイキン-6(IL-6)の過剰な働きを抑える薬剤が今回解説する二つの薬剤です。

現在進行中の臨床試験について
・サリルマブ(サノフィ株式会社
試験名称:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を有する入院患者におけるサリルマブ(ケブザラ)の有効性及び安全性を検討するアダプティブ第II/III相、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照試験

 試験の対象者は
・18歳以上
・肺炎に罹患し、かつ下記のうち1つを満たし入院中
 : 重症の疾患、多臓器不全、致死的な疾患
・検査機関等によりSARS-CoV-2感染が確認
上記を全て満たした患者となり、初日にサリルマブまたはプラセボを1回静脈内投与します。目標症例は300例としています。

主要目的
第II相:重症のCOVID-19で入院している成人患者において、対照群と比較したサリルマブの臨床的有効性を評価することとされています。
有効性は、解熱剤を使用せずに48時間以上発熱が改善した状態、又は退院のいずれか早い方までの時間とされています。
発熱の改善とは、36.6度以下(腋窩)、又は37.2度以下(口腔)又は37.8度以下(直腸又は耳)に改善することを指します。

第III相:重症又は致死的なCOVID-19で入院している成人患者において、対照群と比較したサリルマブの臨床的有効性を評価することとされています。
第Ⅱ相と比較し、致死的な状態の患者が対象となっています。
有効性は、段階の順序尺度による各重症度の患者の割合により判断されます。
順序尺度とは、
①死亡
②入院しており、侵襲的機械的人工換気またはECMOを装着
③入院しており、非侵襲的換気装置または高流量酸素供給装置を装着
④入院しており、低流量の酸素補給を必要
⑤入院しており、酸素補給を必要としないが、継続的な治療を必要
⑥入院しており、酸素補給を必要としない。継続的な治療はもはや不要
⑦退院
の7段階で、小さい数字ほど悪い状態であると言えます。
薬剤またはプラセボ投与後に状態がどう変化したかを評価します。

その他に副次目的として
・National Early Warning Score 2(NEWS2)の変化(急性疾患の重症度の評価を標準化し、患者の臨床状態を追跡、医療スタッフに患者の悪化を警告するために使用される。スコアの範囲は0-20で、スコアが高いほど悪い。)
・治験期間中の新たな機械的人工換気の使用率・使用期間
・28日の期間においてレスキュー薬を必要とする患者の割合
・集中治療室(ICU)への入院の必要性を
・入院期間(日)
・28日間の死亡率
なども解析の対象となっています。

・アクテムラ(中外製薬株式会社)
試験名称:重症COVID-19肺炎患者を対象としたトシリズマブ(アクテムラ)の第III相臨床試験
こちらはランダム化比較試験ではなく、非盲検単群試験にて実施されます。症例数は10例を予定しており小規模の試験設計となっています。
試験の対象者は
・18 歳以上
・ PCR検査陽性及び胸部X線又はCTスキャン所見によって確認されたCOVID-19肺炎で入院中
3)酸素飽和度の低下(SpO2 <= 93%)又は低酸素血症(PaO2/FiO2 < 300 mmHg)を認めた患者
となっています。

主要目的
有効性は上記のサリルマブでも取り上げた、段階の順序尺度による各重症度の患者の割合により判断されます。
また、安全性は有害事象の発現率及び重症度,臨床検査値の変化により評価します。

その他に副次目的として、
臨床的改善までの期間やトシリズマブがコロナウイルス患者においてどのような薬物動態を示すか(プロファイル)、PDバイオマーカー濃度(IL-6,sIL-6R,CRP等)が同変化するかといったものも解析の対象となります。

まとめ
 サリルマブの臨床試験はプラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)でありこの試験により得られる結果はこのタイプの治療薬の有効性の有無を示す強力なエビデンスとなると考えられます。一方トシリズマブについては例数も少なく、単群試験であるため結果の解釈には慎重さが求められるでしょう。