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【短編小説】 ガーディアンエンジェル(守護天使)との再会3

住み慣れた街、北青山。あらためて歩いてみるといい所だなと思う。普段せせこましく動き回っていると全く気にかけないようなことも新鮮に写る。
なにしろ全く余裕のない生活をしていたからな。クライアントの信頼を損ねないためにかなり無理をして仕事を期日までにやり遂げ、明らかに理不尽と思われる要求も飲んできた。期待されたこと以上の結果を出し、その分のギャラも要求するというスタイルはプロとして当たり前だと思ってきた。そしてそれを実現した。客は喜んでいたのかどうかは口に出すことはない。彼らサラリーマンにとっては与えられた仕事をこなすだけでいいのだ。それでも時々「良かったよ」と言ってもらえること、また仕事も継続していくことがKを評価してくれていると信じ何年もハードに仕事をしてきたんだ。大きなことを成し遂げた達成感を味わいたいという思いもあったしそれなりに充実はしていたんだ。
順調とは言えないかもしれないが、なんとかここまでやってきたのはそれなりに努力もしたし運にも恵まれてきたと言えるだろう。
それがある日、つまり親戚の事業の失敗という全く予想もしていなかった災難が降りかかりKは自死を考えるほど追い詰められた。
事業をやっていれば何が起きるかわからないのはもちろんだし、叔父の事業だっていつ何が起きるかわからないのは心の片隅に置いておいたのはもちろんのことだが、あえて「そんなことがあるはずがない」と決めつけていたんだ。

人間ネガティブなことを考えてばかりいると気が滅入ってくるからな。多少は無理であっても「なんとかなるだろう」的に楽天的にものごとを考えていないとやってられないものだ。

だいたい親戚といえ他人のことなんか考えてられるほど余裕はない。自分のことで精一杯なんだ。そもそも面倒くさいしな。そう、面倒臭いんだよ。他人のことを思いやるなんてことはな。
Kが結婚もせずにひたすら仕事に打ち込んできたのは不器用だったとも言えるが、他人のことなど考えるのがこの面倒臭いのが嫌だったんだ。
そのせいで女を随分ひどい目にあわせたかもしれない。それも一人や二人のことではなくだ。
それがどうだ。Kが生きるか死ぬかどうしようかと考えている時に、街を歩き、道行く人を改めて眺めてみると何とも彼らが愛おしくなってきたんだ。何てことだ、これは不思議なことだ。
「こんな悲惨な状況になって初めて他人のことを考えられる余裕ができたなんて全く皮肉なことじゃないか。なあ、おい」

Kは通り沿いに広がる広い霊園の木にとまっているカラスに向かって思わず声をかけた。奴は不敵な笑みを浮かべながらひとこと「カァ」と鳴いた。「そんなこと、やっと今わかったのか」
「Too Lateだ!」
どことなく昨年メンタルをやられて行方不明になってしまった親友、エディに奴は似ていた。エディは完璧にバカにした目つきでKの頭に排泄物を落とし去っていった。Kはブランドもののハンカチを取り出し丁寧に拭いたあと、そのハンカチを振り奴を見送った。「アディオス!さようなら。運がよければまた何処かで会おう。エディ、それまで元気で!」
死に方を考えようとしているKが「また会おう!元気で!」と言うのもおかしな話だがその時は何も考えずそう言った。
(続く)


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