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【短編小説】カーゴ・カルトの罠 ある起業家の哀しい物語

Kは「世界でもトップのIT 起業家になるという夢を持っていた。そして大成功しあらゆるメディアに出演して大金持ちになるといつも口にしていた。

アップル社の前CEOでiPhoneおよびiPadを世に送り出したスティーブ・ジョブズが彼のお気に入りだった。それ自体全く悪くないお手本だし夢を持つことも大切なことだ。

スティーブ・ジョブズは余計なことを考えるエネルギーを減らすために毎日同じ服を着て、一切の妥協を許さず部下に対して非常な決断をする、俗に言う「いい人」ではないということを正月セールの中古本で買った自己啓発本を読んだKは「最初は形からだ」と考え早速真似をすることにした。
そしてデニムにセーターというスタイルで毎日出社し自分の部下を毎日怒鳴りつけた愛猫を仕事場に連れてきては社員の迷惑顧みず自由に遊ばせていた。およそ考えられる限りの自己中心的な行動をしていたんだ。
それがスティーブ・ジョブズに近づくやり方だと信じて疑わなかったのだ。

あるよく晴れた朝、いつものようにデニムにセーターという出立と激怒するためのボイストレーニングをしながらで颯爽と出社した日のことだ。社内に誰もいないことに気づき、おかしいなと思いつつ自分のデスクに向かうとそこには大量の封筒がうず高く積まれてあった。表紙に「退職届」と書かれた天井のライトにも届くかもしれないほど高く積まれた封筒、ここに入居して部屋のライトを見たのはこの時が初めてだと気がついたことも併せてその場に茫然と立ち尽くした。
そして唯一のパートナーの猫がのそのそと出てきて「ニャー」と泣いた。
哀しい泣き声だった。

カーゴ・カルトの罠


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