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#宅録お母さん 1stアルバム「Desktop Mother」超非公式ライナーノーツ

かつて、矢野顕子はすっぴんで「ごはんができたよ」と言った。
名曲「ひとつだけ」を収録されていることでも知られるが、かの有名な童謡をアレンジしまくった「げんこつやまのおにぎりさま」を収録と、当時産まれたばかりの坂本美雨との暮らしが反映されたかのような、母性をのぞかせる一面もある、名盤。

そして、世紀を越えて、
また1つ、感性に母性を織り交ぜ、どのジャンルにも例えようがない音楽が、#宅録お母さんによって世界へ届けられる。

1stアルバム「Desktop Mother」。

今年初頭、突然1人の主婦がDTMをやると言い出し、更に3ヶ月で100曲作ると宣言。そして達成された。
3児の母が、時間を捻出してこの目標を達成する事の大変さは、想像に難くない。お子様がいる方々は、皆同意するだろう。

しかしこの100曲によって、SNSを中心に彼女のファンは増殖していった。感情を揺さぶる、予測不能のコード進行とメロディーが、幅広いアレンジ力とユーモアを持って、この世に無かった唯一無比の音楽として昇華。「場所がないのでキッチンで作曲する」というスタイルは雑誌「サンレコ」にも取材され、Twitterのフォロワーは間もなく1,000人に到達する。

そして満を持してリリースされた、このファースト・アルバム。
polcaのクラウドファンディングで制作費用を募り、目標金額まで達成する過程は、もはや、ネット時代で自分も活躍したいと思っているお母さん達へ勇気を与え、素晴らしいロールモデルになったのではないだろうか。

このアルバムを一通り聴いた感想。
様々な音楽のスタイルがカラフルに展開していく様は、Radiohead「OK Computer」の聴後感に似ていた。何だか凄い音楽が鳴っていることはわかるが、脳がまだ付いていっていない。しかし、繰返し聴くうちに、自分の脳細胞が各曲の"色"を次第に認識していく。

1曲目、柔らかなパッド・シンセがオープニングに相応しい「マジカルツーブロック」。ツーブロックの万能オシャレぶりをテーマにし、最初から彼女の世界観全開。Ableton Liveのオーディオ・ワープ機能を逆手に取った、デジタル・ジャンクな手触りのラップ部分もまた、らしさを感じさせる。

一転、2曲目はEDMオペラ「海苔波作ろう」。やたらリズム・パートがファットで歪み気味なのは、やはり本曲自体も海苔波形にするという、一部DTMマニアを喜ばせるための演出と思われる。
海苔波形:とは | 偏ったDTM用語辞典
https://www.g200kg.com/jp/docs/dic/norihakei.html

息子さん?のリコーダーをフィーチャーしたコズミック・バラード「永久の古」を挟み、4曲目は「高田馬場は私の庭」。この曲、まさに#宅録お母さんの真骨頂。ハイブランドのバッグや洋服を売ったお金でお寿司を食べる女性の話だが、それを何故この激情型の歌謡曲アレンジで歌う必要があるのか。初めて彼女の曲を聴いた方には全く理解出来ないだろうが、これが#宅録お母さんの魅力なのである。
この辺りから、ある種の変態性を帯びた世界へと突入していく。

5曲目は、既に発表されていた「Point of No Rewash」のフルバージョン。このアルバムにおいて、彼女の卓越したメロディー・センスをじっくり堪能出来る曲がいくつかあるが、こちらもその1つ。なお、歌詞のテーマは、セスキ炭酸ソーダの洗浄力。多分次作にはウタマロ石鹸の洗浄力が取り上げられると推測する。

6曲目、小生VSXがリミックスを担当させて頂いた、「DO・RI・A~VSX's Alternative Electro for Berlin Extended Mix~」。収録にあたり、改めて御礼申し上げます。なお、裏話として、Ableton Live 10を使いたいがために、30日だけ使える、トライアル版で完成させました。

7曲目、間違いなく本アルバムのキートラックの1つと言える、「ねがい」。印象的、且つ軽快なピアノの旋律から始まり、ドラマティックなメロディーと途中転調を挟み、より劇的に展開していく。こんなに感動的な1曲だけど、じっくり歌詞を聞いてみたら、子供達がお菓子をめっちゃ迷う様を情感たっぷりに歌い上げているというオチ...はやはり #宅録お母さん ブランドのものなのだろうと、改めて認識するのであった。

8曲目、「合理的回答」。歌もの然とした「ねがい」に続いて、このエキセントリックなトライバル・トラックを持ってくるセンス。めちゃ語弊のある例えで言えば、ナードコア(アーティストで言えばレオパルドン等)、もしくはネット黎明期に盛り上がりを見せた、ニコニコMADの正しく進化した姿か。100曲制作チャレンジ時にも思ったことだが、こういうタイプの曲を、私的に「睡眠時間を確保したい時に作るインタールード」と命名した(失礼極まりない)。

さて終盤。9曲目は「DeskTop Market」歌詞の通り、DTMerが働くsupermarketの世界を描いた1曲。Twitter発祥で生まれた記憶有り。#宅録お母さんの曲は一見普遍的にように見えて、この曲のようにtrapとかfuture bassだとかドラムンベースの要素をシレっと取り入れたりしてるから、私のようにクラブ・ミュージックしか作れない者にとっては、浅めのジェラシーを感じさせる。

ラストの10曲目「右手の中指」。「ねがい」に並ぶ、夕焼け系ピアノ・バラード。本人にコード進行の妙を突っ込んでも、いつもとぼけられるばかりだが、イントロの「目立つからって〜」以降の展開は、何度聴いても、腕に覚えのある作曲家しか成し得なる事が出来ないと思うのだが。しかし、坂本龍一矢野顕子に初めて会った際の話で、「ものすごく色んなこと知ってるだろうと。ジャズとかロックとかだけじゃなくて、印象派とか現代音楽とかわかった上でやってるのかと思ってたら、全然わかってないんだね。」と言っていたので#宅録お母さんも、もし同じ類の天才だとしたら、それはそれで末恐ろしさを感じる。

という全10曲。
未完成の部分もまた魅力、と言えるこのアルバムだが、CDプレス前、#宅録お母さんとのやり取りで、ちゃんとマスタリングしたほうが良いという私の提案に、「そこまで本気出すと主婦の範疇超えてしまうのでは...」という彼女の葛藤が垣間見えた。「未完成の部分もまた魅力」を本人が意識しているかどうかは分からないが、改めて、私のような普通の思考の人間の意見を取り入れる事なく、このまま自由な発想で、自由な感性で、また2ndアルバムを作って欲しいと、この1stアルバムを聴いた後に、改めて思った次第である。

最後に。Hell ふみおさん @bous_an のアートワーク、最初見て気絶するぐらい素晴らしく感じた。ツイートもしたが、大英博物館に寄贈されるべき、歴史に残る美しさを放っている。

本アルバムの購入はこちら!
https://oka3nd.theshop.jp/items/12619080

2018年9月吉日
VSX

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