そんな人生を送っているな、と、そのバーガーにかぶりつきながら思ったのだった。

土曜日。何の変哲もない週末。特に用事もない私と夫は、二人して下町にある図書館に出かけていった。夫は哲学書を探すため。お目当ては、『意味がない無意味』という本らしい。見つけて、嬉々として借りていた。

私は、雑誌を見るため。最近、TURNSという季刊誌にハマっている。日本の地方での暮らしをテーマにして、地方でのビジネス、ネットワーク、文化交流なんかを特集している。それが読みたかった。

私と夫は本を買わない。よっぽどのことがあれば買うけど。かなり選ぶ。理由としては、夫は「引っ越すときに面倒だから」。もうすぐマイホーム購入を視野に入れているし、いずれはドイツにも行く予定だから、あまり荷物を増やしておきたくない、という。

私は、買ってもいいのだけれど、いざ、買うと読まないから。本棚に入れておくだけで、なんでこれ買ったんだっけ、という本が沢山あった。今はすべて、古本屋に売ってしまって、本棚は選りすぐりの海外コミックスか、写真集か、画集しかない。

それでも、家にあって、すぐに見られるのは魅力と感じるときもある。本を買いたい、そばに置いておきたい、という気持ちと、借りるだけでいい、身軽に生活したいという気持ちと言ったり来たりしている。服はあれだけ買い込むのに。

そういうわけで図書館に行く。私はTURNSをよみながら、FUDGEも何冊かみた。そろそろ、古着屋を回りたい。おもいきりビンテージに浸かって、迷いたい。

夫に「帰ろうか、そろそろ」というと、変な哲学書をたくさん見ていたら頭が痛くなった、というので急いで帰ろうとする。トイレへ行って、外へ出た。

帰り道、下町の中を通って帰ろうとすると、フェスティバルをやっていた。子供のために大人が全力を出そう、というコンセプトらしく、基本的には子供が安く楽しく射的とか、投げ輪とか、ミニバスとかゴーカートとかができる祭典らしい。でも、食べ物はしっかりある、というのがなんだかおかしくなってしまう。

いろいろなフードトラックが停まっている。こんな事を言うのはあれだけれど、なかなかどれも値段がすごい。手のひらに乗るようなピザが一枚１６００円で売っているのだから、なんだかこれを平気な顔で買うのが正しいのか、我慢するのが正しいのかわからなくなる。祭りの売り物っていうのはそういう値段である。子供がいれば、子供のために、と買ってやるのがいいのだろうが、大人２人では我慢も簡単にできてしまうのだ。

まあ、見るだけ見てみよう、と１周する。どうやら、全体像が見えてきた。フードトラックやテントで売っている人たちは、県外から来た人と、地元の人とブースが別れている。県外から来た人のほうが圧倒的に、おしゃれなものをバエるパッケージで売り出している。店員さんもイケてる感じだ。

地元の人たちのフードトラックは、見ると、良心的な値段。子供は半額、とか書いてあったり、地元の人はこの町の好きなスポットを言うと、オレンジジュースがもらえる、とかいろいろサービスしているようである。

地元の人達がやっているなら、と買うことにした。地元の人達には頑張ってほしいし、何かとお金を使ってあげたい。ふとみると、地鶏バーガーというのがある。長野県産のハーブ鳥をかりかりに揚げて、特製ソースでキメているそうだ。８５０円。これはお手頃だと思う。それにフライドポテト３００円もつけた。それぞれ２つずつ注文する。

なにかドリンクを、と頼もうとすると、「これ、見て」と店員のおじさん（おじいさん？）が言うので、見てみる。手が震えている。「去年からこんなふうになっちゃったの。バーガー作るのめちゃくちゃ遅いから、そのへんウロウロしててくれる？」という。寒いから、といってホットコーヒーを２杯くれる。

言われた通り、コーヒーを飲みながらウロウロする。いろいろな店がある。ケバブとか、チョコバナナとか、クレープとか、ピザとかもつ煮とか、串焼きとかいろいろ。でも、この店を選んでよかったな、となんとなく思った。おじさんは方言で、「できたよ、こっちへおいで」と私達にいう。受け取り、公園に向かう。

受け取るときに「いただきます」と言って受け取ったけれど、「ありがとう」のほうが良かったかな、と考えながら歩いた。

公園で食べる。このバーガーが、それはそれは美味しいものだった。地鶏がうまく揚げられていてさくさく。そこに、醤油ベースのタレが絡んでいた。さらにたっぷりの特製マスタードソース。新鮮なレタスにトマト。そして、すごく大きい。

ポテトのはいった箱を開けてみると、冷凍品じゃなくて、きちんとじゃがいもを揚げたポテトが入っていた。ハニーマスタードと、トリュフ塩という味をそれぞれ頼んだのだけれど、どちらもすごくおいしい。削りたてのブラックペッパーがかかっていて、食欲をそそる。二人とも、おいしい美味しい、と言って食べた。

その公園からは日本アルプスがよく見えて、こんなに素晴らしい景色の中で、こんなに美味しい物が食べられるなんて、ラッキーだ。陽の光を存分に浴びながら、なんだか人生が簡単に変わったような気がした。

そのことを夫にいったら、１１５０円で人生が変わるなんて、私達はほんとうにラッキーな人生を歩んでいる、という。そのとおりだと思った。

帰り、坂を登りながらお互いが見つけた本について話した。家に着いたらコーヒーをもう一杯のんで、少し昼寝をした。