さあ、太陽が昇ってきた
太陽
ビートルズに
Here comes the sun
という曲がある。「さあ、太陽が見えてきたよ」みたいな感じだろうか。あまり翻訳は得意じゃない。
この曲も、あまり得意じゃない。なんかわざとらしいっていうか。
みんなを励まそうとしたのか、人気を得ようとしたのか。
トラブルだらけの伝説のバンドが歌うには、きれいすぎるというか。
だから自分では再生しない。
それを久しぶりに聞いたのは、意外な場所だった。
ブックオフ
都会に行くと、大きなブックオフがある。
ブックオフ、ブックオフプラス、ブックオフバザールの順に大きくなる。わからない、ほかにも種類があるかも。私が知っているのはその3つだ。
その日、たまたまクリアランスセールに出くわした私は、なぜかパズルを一生懸命見ていた。実はパズルがとても好きである。得意でもある。
私のパズルのはめ方はかなり直感的で、それが当たるととても気持ちいい。まあ、その程度だ。でも好きだ。
次に服を見た。半額の半額の半額になっており、半額シールが積み重なっていてまぶしい。どんどん選んでも1200円だった。どれもとても状態が良く、すばらしい。
そんな時にビートルズのHere comes the sun。
この時初めて「いい曲だったんだな」なんて思ったくらいだから、私の脳みそはほんとうに半額が好きだ。
たぶん、億万長者になっても半額のものに飛びついているだろう。
アナウンス
そろそろ出ようか、と思った時に音楽が途切れた。
ブックオフでは専用のラジオ番組?のようなものがあり、それがずっと流れている。
買い物の間もずっと流れていた。それが急に途切れて、店内が一瞬、しんとした。突然、
こんにちは、店長の〇〇です。本日はご来店ありがとうございます。
というものだから、なにかあったのか、と天井を見た。こういうときはなぜか、天井を見る。天井に店長が張り付いているわけでもないのに。
見渡すと、他の人もまた、天井を見ていた。
お買い物をお楽しみ中のところ、失礼いたします。本日は、私店長の〇〇が個人的にお勧めしたいものがあり、こうしてご案内させていただいています。
という、なーんだ。緊急連絡じゃないのか。
本棚が崩壊してお客さんが下敷きになったから逃げろ、とか1階が火事だから非常階段から逃げろ、とかそういうのじゃないのか。
そのアナウンスはこんな風に続いた。
放送が終わり、音楽がかかるようになる。
みんなぽかん、としていたがまた時間が動き出した。
レコード売り場に行ったかって?
私は行かなかった。きっと混んでいるだろう。相変わらずカーディガン売り場で古着に顔を埋めていたのである。
大金
なんだか元気がない弟に、そりゃ、何があれば回復するの?と聞けば、
大金。
と即答する。こりゃあ資本主義が弟を蝕んでくれたな、なんて感慨深く思ったりする。
ミルクレープ
さあ、弟よ。台所に来てくれ。
手を洗って泡立て器を持ち、泡立たない程度にゆっくりと優しくかき混ぜてくれ。
私ができることは今、彼とミルクレープを弟と作ることくらいしかない。弟がかき混ぜている間、私は溶き卵を静かに入れた。
釈迦シャカシャカ。
あわ立ててはいけないよ、もっとゆっくり優しく、と言うと弟は動きを少し緩やかにした。
溶けたバター。「いい匂いがする」と弟。そりゃあ、いい匂いだよ。溶けたバターほどいい匂いのものはこの世にないんじゃないかな。
1枚ずつ、フライパンに流し入れて焼いていく。
フライパンを回し、生地がトロッと表面を覆う。
その様子を横で見ている弟。1枚焼けて、また生地を流し入れ、焼けて、生地。
1枚1枚、やるしかないんだね。
そうだよ。
料理は、面白そうだ。
そう?
亀の速さだけどね。でも、やれば確実に出来上がっていく。
そうだね。
そして答えがある。美味しいか、どうか。すごくシンプルで直感的。
そうだね。
最後には必ず全部なくなる。それは血肉になったり、時間になったりする。
いいね、その言い回し。ブログで使っていい?
できた。
ご近所さんからもらった熟れすぎたキウイと、スライスしたバナナ、手作りのイチゴソースを固くあわ立てたチーズクリームで埋めていった。
塗って、重ねる。塗って重ねる。生地がなくなるまでそれを続ける。重ね続けると真ん中がこんもりと盛り上がって、ちょっとした丘のようになる。
クレープの丘。
これって、今すぐ食べられるんだよね。
いや。一晩おくよ
なんで?
そうしないとクリームが生地と馴染まなくてうまく切れないからだよ。
そんなあ!
じゃあ、見せないでよ、とぶつぶつ言う。
明日になれば食べられるよ。明日になれば万事解決する。
それっていいことだよ。
YES
YESと繰り返せば、全てのことは好転する、と言っている人がいた。
YES、YES、YES、YES、YES、YES。
YES、YES、YES、YES、YES、YES、YES、YES、YES、YES、YES、YES。
変わらない空。
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