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二人の愛を証明してよ


by 37℃



高校に、とても仲の良いカップルがいた。


女の子は破天荒で、目立つタイプ。男の子は野球部のエースでいつも丸坊主だった。

良くも悪くも注目を浴びて、なにかと話題になる二人だったが、私はこの二人が大好きだった。


いつも昼休みになると、二人は空いている教室を見つけて、二人だけのランチの時間を楽しんでいた。私はそこにわざわざ出向いて、二人に話しかけたりした。
私の中では「二人の愛を証明するゲーム」が流行っていて、たとえば、男の子の方が、デザートに大福を持っていた時、

その大福で、二人の愛を証明してよ

なんて無茶振りをしたものだった。すると男の子が迷うことなく、口に大福を咥えて、女の子の口元に持っていった。女の子の方は、戸惑う様子もなくその大福の半分を咥えた。それぞれがゆっくりと頭を離すように動かすと、大福はびよーんと伸びて、のびて、のびた。
そして、ブチリ、とちぎれてだらしなく垂れた。
私はそれを見て、なぜか、おおー、なんていって手を叩いたりしていた。



二人の両親は、そんな二人をよく思っていない様子で、お互いに会ったり一緒に勉強するのをやめさせたいらしかった。女の子の方は、よく心配していた。でも、もっと歳を重ねれば、きっと、認めてもらえる。わかってもらえるときがくる、と言い聞かせていた。私も、そう思うよ、と言った。本当にそう思ったからだ。



この二人ほど似た者同士はいない。この二人を見ていると、ずっと探していたパズルのピースがぴったりはまるようだった。いつかこの二人の結婚式に呼ばれて、スピーチを頼まれるかもしれない。子供を見せられて、私も小さい靴下なんかをプレゼントするんだろうな。なんとなくそう思っているとき、不思議と楽しい気持ちがするのだった。



もちろん、そんなに単純じゃない。その関係はうまくいかなかった。
二人は、大学生になって別れた。それぞれが他の男の子、他の女の子と付き合った。そのころに、女の子の方と、一度会って話したことがある。

いまは別れたことが正解と思っている。でも、きっとこの先も、あんなに好きになる人なんていないんだろうな。
いつか別れたことを、本格的に後悔して苦しむ時があると、覚悟している。

そう言っていた。私はその時の、その子の潤んだ目がとても美しかったことや、その若さでそんな表情ができることをどこか羨んだと思う。それでも、その子と同じように心から残念な気持ちでいた。



それから2年ほどして、たまたま地元のスタバで二人の姿を見かけた。二人は私におそらく気づいていたと思う。少しニヤニヤしながら、私の座るテーブルの横をわざとらしく歩き去っていった。
でも、私は、なんだろう。女の直感って言うのかな。そのときの二人は付き合ってないだろうと思った。そしてこの先も、この二人は一緒になることはないんだろう。



きっと今も、どこかでそれぞれが、それぞれの愛する人と一緒にいるんだと思う。たまに、すずしい風が通る夜なんかに目を覚まして、ものすごく退屈で、ふと、お互いことを思い出すことがあるんだろう。


むかし、あんな人がいたな。あんな関係があったな。


離れていても、もう一生会わなくても、二人のその関係は「気持ち」と書かれた玉手箱の中で生きていく。あの時出会ってしまって、お互いに触れてしまったから、気持ちは終われないんだろう。これからも記憶の中でお互いに会いにいくんだろう。


同じ記憶を、何度もなんども焼き直して、現実みたいな色を帯びるまでずっと。


どんな形でも構わない。二人にできる、二人だけのやり方で。
二人の愛を証明してよ。


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