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ソウル親子留学@10「明るいミセス・ジェニファ」

今日は会話と筆記テストがあった。
筆記は例文からと聞いていたので丸暗記。

問題は会話テストだ。

誰もまだまともに話せないってのに。先生と教室で1対1で会話テストだなんて緊張するー。

筆記試験が終わると全員廊下に出され順番待ち。1人ずつ教室に。ドキドキ。

先に終わったミセス・ジェニファが出てきた。

彼女はイギリスからやって来てソウルに家族で住んでいる黒人女性だ。私より若いが、メロン(4歳)と同年代の娘が1人いる。同じママ同士カタコト英語、韓国語でよく会話した。


彼女が教室から出てくるや、残りの者たちが予防接種を待つ小学生のように群がった。

どうだったどうだった痛かった?
チャウチャウ

今日の自分の服装を説明しなさい、と言われたらしい。

目の前が暗くなった。色ときたかー。挨拶や気候の単語は必死で覚えたけど色はノーマークやった。

私は自分のコートを見た、何色やこれ。茶色や赤やベージュが混ざっとるがな!今日に限って、なんとややこし色の着てきてしもたんや。

慌てて電子手帳出すが、狼狽が激しくカチャカチャするだけだ。

するとジェニファが言う。

「分からないならコート脱いで行けば? そしたら説明しなくて済むわ、急いで!」


「おおグッドアイディア! ジェニファ!」

私は彼女に手伝ってもらい、急いでコートを脱いだ。

お?

でも、この中の縞々カーディガンは何て言うの、これも分からないよー

「それも脱ぎな!」

「オーイエェ!」
カーディガンも脱いだ。

「カバン、あー分からん、エエイッ!」
廊下に投げ捨てた。

ジェニファーが私の帽子を指差して
「その帽子もよ、急いで!」

わぁ、このズボンも分からない、このさい?

と、そこで私たちは顔を見合わせ大爆笑。

ジェニファが泣きながら
「パンツ一枚がいちばん簡単よ」
私も涙ちょちょぎれながら
「眼鏡と靴は言えるから、それだけは付けていくわ」

「あー先生、今日は暑うございますわねーホッホッホ」
ジェニファが手で顔を仰ぐ。
完璧コント状態だ。

バカ笑いが止まらなくなった頃、私は名前を呼ばれた。

廊下の大声は、教室の中にも聞こえていたのだろう。私は早々と先生から「はい、お疲れ様」と、退室させられた。

ジェニファは本当に面白い女性だった。

学校近くの定食屋の中に穴場かつ最高のランチ店があった。なんと日本円にして400円ほどでご飯、白菜キムチ炒め、炒じゃこ、厚揚げ辛煮、ほうれん草ナムル、イカ塩辛、韓国海苔、魚の香味焼き、韓国の茶碗蒸し、豆腐チゲが付いている。

この店を見つけてきたのもジェニファだ。

大学周辺にいる客引きおばちゃんを捕まえて
「この辺で安くておいしい食堂はどこ?」
と聞き出したらしい。

客引きおばちゃんというのは、女学生に話しかけては美容院や化粧品店に連れていく勧誘の人たち。店からバックマージンをもらうのだろう。門の外にいつもズラっと並ぶ。そんな勧誘おばちゃんを反対に捕まえるのだからすごい。

ジェニファ曰く

「世界中どこでもそうよ。安くて美味しい店を知ってるのは、こういったおばさんたち」

先日、韓国中が大フィーバーとなったロト6当選金が跳ね上がったときもそうだ。私たちランチタイムではその話題で持ちきりとなり後でみなで買いに行こうとなった。

でもどこに売ってるんだろうねと話したときには、ジェニファはもう隣席の男子2人に場所を聞いていた。彼らは大きな目をクリクリさせる黒人女性に詰め寄られ、顔を背け気味に答えていた。笑ってはいけないがおかしい。

ジェニファは若干、わざとやってる感もある。想像だが、ソウルの限られた地区以外で黒人を見かけるのは珍しいから、おおかたの人がジェニファの容姿にまず驚くのだろう。嫌な思いもしたかもしれない。けど彼女はいつも明るかった。

この前も朝、教室入ってくるなり
「あー面白かったタクシー運転手」
と笑う。

聞くと、遅れそうなので朝ごはんが食べられず、りんごを持ってタクシーに。走り始めてから小型ナイフを出して、皮をむきながら食べたという。

運転手はチラチラ見えるナイフに気が気で無かったのだろう。恐怖にひきつった顔で、何度もバックミラー越し様子を伺う。

「よっぽど怖かったみたい、黒い顔がナイフ持ってるしね。アッハッハ」

ミセス・ジェニファ。面白くて明るくて魅力的な女性だった。

続く

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