【判決】青汁王子の反社裁判、敗訴し「反社との関係」が認定、なぜ?

 青汁王子こと三崎優太氏が日刊ゲンダイの記事を事実無根の名誉毀損であるとして訴え、7月14日に地裁判決があった。内容は三崎氏の請求棄却、驚くべきことに「完全敗訴」と言うべきものであった。

「日刊ゲンダイ」が青汁王子との訴訟に勝訴 ライバル企業に右翼の街宣車は「真実」と認定
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/308331

この日刊ゲンダイとの判決に至るまで多くの裁判が重なり、その重要なほとんどで三崎氏は勝訴を重ねていた。敵対する週刊誌とYouTuberからの誹謗中傷に悩み、挫折を告白しながらも立ち上がって勝利を確信していた矢先、まさかの「反社判決」が下されたのだ。判決の前日には余裕の表情を浮かべた動画を投稿していたが、返り討ちにあったと表現してもよいほどに、むしろ三崎氏の名誉は地に落ちた。

まずはじめにこれまでの経緯を簡単に振り返り、それから本件訴訟の重要なポイントを解説する。中でも重要な裁判3件だけでも本来は1冊の書籍に相当するほど複雑怪奇な経緯だが、本件判決から騒動を知った初心者にとってもわかりやすくするため、かなり大きく捨象する。時間、事件、内容の正確性の判断は留保していただきたい。また原告と被告の主張もかなり圧縮しているため、原文通りではない。あくまで当記事は速報的な役割であるため、後日訂正と補足を行うつもりである。

また、三崎氏には控訴からの逆転勝訴を狙っていただきたいと個人的には願っている。

1.三崎優太氏の戦いダイジェスト

<第一部 越山戦>

2019年2月 三崎氏、約1億8000万円を脱税し逮捕
2019年9月 懲役2年執行猶予4年、罰金4600万円の判決

2020年4月 越山晃次VS.三崎優太 仮処分判決、三崎氏の勝訴

 健康食品等の通販会社アスクレピオス社をめぐり経営者の越山氏とオーナーの三崎氏が対立。悪質な脱税事件で逮捕され執行猶予4年の三崎氏の議決権行使を停止する仮処分を越山氏が申し立て。その理由の一つは「三崎氏は反社との付き合いがあり、街宣車をライバル企業に送り付けた」と。
しかし裁判では三崎氏の勝訴。街宣車と反社の認定はなされず、越山氏の申し立ては却下。

<第二部 新潮社戦>

2020年8月 雑誌「週刊新潮」で三崎優太氏の反社記事が掲載
2020年9月 新潮社はほぼ同内容の記事をネットに掲載
2020年9月 日刊ゲンダイが反社記事を紙面とネットに掲載

記事掲載からすぐ三崎優太氏がYouTubeで反論
「事実無根なのに人のことを反社呼ばわりするなんて“反社ハラスメント”だ」
「日刊ゲンダイは金をもらってでっち上げの反社記事を書いている」
などと主張

新潮社は掲載中止、日刊ゲンダイは反論記事を掲載

そして名誉毀損訴訟へ……
(並行し、会社の乗っ取りを企てたとされる越山晃次氏と種々の裁判は継続)

2022年3月 三崎優太VS.新潮社 名誉毀損訴訟、三崎氏の勝訴
 記事内容は越山氏の証言を基にし「三崎氏は△◇組金融企業舎弟との付き合いがあり、街宣車をライバル企業に送り付けた」とする内容。裁判では真実性が認められず新潮社に220万円の賠償命令。なお、新潮社は控訴せず終了。

<第三部 YouTuber・日刊ゲンダイ戦>

2022年3月 三崎氏、某YouTuberと週刊誌を許さないと宣言、戦い激化

2022年6月 三崎氏、誹謗中傷で悩み、薬のODで緊急搬送
2022年7月 三崎氏を追い込んだとされる脅迫犯がTwitterに登場
2022年7月 三崎優太氏、復活。ヒカル氏、宮迫氏が回復を祝う。

2022年7月 三崎氏、ドバイのガーシーに当選証書を渡しに行くと宣言
2022年7月 三崎氏初出演のテレビCM放送(麻生泰氏のAGAクリニック)
2022年7月 三崎氏、勝利を確信したため、週刊誌を許す発言

2022年7月 三崎優太VS.日刊ゲンダイ 名誉毀損訴訟、三崎氏の敗訴
「三崎優太氏は、右翼街宣車をライバル企業2社に送り付けた」
「依頼は威力業務妨害罪になり得る。実現した者は反社会的な存在である」
「反社記事の内容は、その重要な部分は真実」
よって日刊ゲンダイの記事は名誉毀損にあたらず、三崎氏の請求は全て棄却するという判決文が公表された。
→現時点ではまだ控訴など発表なし(7/15 18:00)

2.日刊ゲンダイ側の主張

・主張の概要

<問題となっている日刊ゲンダイの反社記事>
ド派手実業家「青汁王子」のマズイ素顔…反社との関係発覚
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/278063

 越山証言と証拠に基づき記事は作成した。三崎氏が反社会的勢力と繋がり、右翼団体街宣車をライバル企業2社(シエル社・S社)に送り付けた。状況証拠から判断して、三崎氏が行ったものである。

・ポイント①「和解契約書」

 三崎氏のメディアハーツ社とシエル社の間で結ばれた「和解契約書」が存在している。その内容を一言にすると「ステマ、スパムメール、街宣車など不正行為によってシエル社を妨害したことを認める」というものであった。

現在、その書面はTwitter上に流出している。

この書面を文字通り読めば、三崎氏(メディアハーツ社)側が街宣車を送ったことを自供しているに等しい。

・ポイント②「越山証言と街宣車」

 越山氏は「三崎氏から直接、街宣車を押しかけさせたと聞いた。特定の検索キーワードを教えられ、その通り検索するとたしかに街宣車の動画がYouTubeにアップロードされていた」と証言している。そして当該動画の内容はこの証言を裏付けている。

・三崎氏の会社(メディアハーツ社)のライバル企業2社に対して、遠く離れた土地にもかかわらず同じ街宣車が押しかけている
・アップロードした者は、わざわざ見やすく字幕までつけるなど工夫している上に、まるで先回りして待ち構えていたかのように定点から撮影している
・各アカウントはこの動画しかアップロードしていない

など、明らかに特定の目的でアップロードされていて、一致する特徴がある。そして越山氏が動画を発見した経緯も偶然とは言い難い。

・当時、越山氏はS社が三崎氏と経営権で争っている事情を知る立場になかった。それにもかかわらず、たまたま街宣車の動画を探していて、上記の一致する特徴を持つ2つの動画を発見することは通常考えられない。

渋谷シエル社へ押しかけたとされる街宣車(元動画は削除済み)


福島S社へ押しかけたとされる街宣車(https://www.youtube.com/watch?v=PLVnVLeNl6Y)


3.三崎氏側の主張

・主張の概要

 越山氏は係争中の相手なので信用すべきでない。「和解契約書」は国税庁の追及を逃れるために捏造したもので、内容は嘘である。

・ポイント①「和解契約書」

 三崎氏のメディアハーツ社とシエル社との間で作成された「和解契約書」は、脱税事件の際に国税からの追及を逃れるため捏造したものである。架空経費にあたかも実態があるかのように見せるため、妨害工作の委託外注費としてシエル社に協力してもらい、嘘の和解契約書を作成した。

・ポイント②「越山証言と街宣車」

 三崎氏が越山氏に街宣車の話をしたことはない。三崎氏と右翼団体を仲介したとされる反社会的勢力は実在しない。また右翼団体はいわゆる反社会的勢力に該当しない。

係争中の相手である越山氏の主張は信じるべきではない。

4.裁判所の判断

・①「和解契約書」について

 三崎氏のメディアハーツ社とシエル社との間で作成された「和解契約書」は、三崎氏が主張するように信用性の高い文書ではない。

しかし、ライバル関係にある企業への妨害工作という犯罪行為を自ら認める文書を作成し、第三者の国税庁に提出することは、とてもリスクが高い。

また架空の文書を作成するのであれば、証拠を捏造するリスクも考えると、まったく無関係な架空のものよりも、経費の支出により直接的に関係し証明する文書を作成する方が合理的なので、「和解契約書」を作る必要性はない。

よって、裏付けとなる事実があるものとして考える方が合理的であって、後付けの証拠として作成されたという経緯のみで、本件の和解契約書に全くの信用性がないというわけではない。

・②「越山証言と街宣車」について

 越山氏の供述は一貫している。三崎氏から聞いたとされる特定の検索キーワードで、偶然にしては一致しすぎる動画を見つけることができる。

2つの動画はどちらも偶然を装って撮影されたものである。越山氏はメディアハーツ社と関わっておらず、経営権で争いが起きていることも知らないのだから、このような同一の右翼団体の動画をたまたま見つけてしまったとは考えられない。

よって、越山氏に街宣車の話をしたことはないという三崎氏の主張は採用できない。

・「判決」

 三崎氏は、街宣活動を実現できるような人脈を有し、何らかの方法で第三者に対しライバル企業への街宣活動を依頼した。その結果としての2つの街宣車の動画の存在を認識していたと認められる。

街宣車を押しかけさせる行為は不正不当であり、威力業務妨害に該当する可能性もあるところ、実現させる者は反社会的な存在であるということができる。

三崎氏側は、右翼団体が街宣行為で経済的利益を得た形跡がないため反社会的勢力ではないと主張しているが、しかし法律上決まった定義のない一般的に広く使われる用語であるため、第三者の利益のために街宣行為を行う団体を「反社会的勢力と表現することが不当である」ということはできない。

これらによれば本件記事の内容は、その重要部分において真実と認められる。

5.新潮社裁判との違いは?

・①「和解契約書」の評価

 裁判所は、重要な争点である「和解契約書」について、新潮社裁判では大きく異なる評価を行っている。

要約:三崎氏は当初、国税庁に対して妨害工作を認めていたが、後に脱税のための架空の話であると説明を変更した。またシエル社側は警察に対し「スパムメールは誰が行ったのかわからない」と述べている通り、三崎氏側が妨害工作を行ったという確証を持っておらず、そのため、犯人でもない相手と和解契約書を結ぶのはおかしい。国税庁の追及を逃れるために、妨害工作を行った事実がないのに捏造したものである可能性が相当程度あると言える。

・②「越山証言と街宣車」について

 新潮社裁判においては街宣車の特徴の一致は重視されておらず、立証には足りていないと評価されている。逆に日刊ゲンダイでは無視されている「右翼団体構成員」の「依頼は受けていない」という主張が採用されている。

・「判決」

 上記事実認定が大きく異なるため、当然ながら判決もまるで異なる。新潮社の主張はほとんど採用されずに敗訴し、220万円の賠償命令。また控訴しなかったため地裁判決で確定している。

・表現の若干の差が影響?

 現在は新潮の記事が消えてしまっているためネット上で比較することはできないが、日刊ゲンダイと新潮の記事はほとんど同内容でも、わずかに異なる点がある。

新潮記事は、三崎氏から右翼団体への依頼プロセスを事細かに記載していた。△◇組系金融企業が仲介したとされている。対して日刊ゲンダイ記事は、この△◇組のことまでは記載していない。

もしかすると、この差が「真実相当性もない」(新潮)と「記事の大部分は真実」(日刊ゲンダイ)の裁判結果の差に多少は影響したのかもしれない。

6.筆者感想と他の解説

・やっぱり「和解契約書」?

 決定的な証拠は双方乏しいが、最も有力な証拠はやはり「和解契約書」になるだろうと思われる。

裁判ウォッチャーの山口三尊氏はシエル社側から提出された「陳述書」と「確認書」、また越山氏とシエル社間で作成された5000万円の「合意書」の存在を指摘し、和解契約書の信ぴょう性は低いと判断している。三崎優太VS.越山晃次の別件の裁判ではあるが、共通する指摘だと考える。

220706青汁王子尋問
https://www.youtube.com/watch?v=K9wxtqqivbU

しかしながら、本件の日刊ゲンダイ訴訟において、「街宣車を押しかけさせたことを自白する犯罪リスク」、「全く無関係な架空の書類を作る合理性のなさとリスク」を指摘する今回の判決は、これはこれで正しいとも感じる。むしろ個人的には、お金で動くシエル社の人間の話はあまり信用できないのではないか、と感じられる。

・「個人的な試案」

以下は事実の整理ではなく、あくまで可能性を考える余談である。

(A案)シエル社側は三崎氏が妨害工作を行ったものと本当に確証があったため和解契約書を作成したが、何らかの理由で翻意し、三崎氏の主張に沿うような各種書類作りを手伝った、または単にスパムメールについては本当にわからなかっただけ説 → 失礼かもしれないが、筋は通る。事実、シエル社側は令和2年1月10日、同日中に180度見解を変えるなど、信憑性が低いのではないかと思える。

(B案)本当に完全に捏造。尋問で三崎氏が主張していたように某ジャーナリストから街宣車を送った疑惑を向けられたため、上手くこの疑惑を利用し、真実らしく見せたかった説 → リスクは相変わらず高い。街宣車を送ったことを認めて反社、犯罪者と言われるリスクと、ただの脱税であればどちらかというと脱税の方がマシでは?と個人的には考える。反社会的勢力と反市場勢力は、後者のがまだ良い可能性がある。急に国税庁が来たので、とっさに変な言い訳を思いついてしまった可能性?

(懐疑論)あのショボい街宣車を1台東京福島間の移動と撮影手間賃、他スパムメールやステマなどで1億8000万円もかかるのだろうか?そしてその金額を国税庁が根拠ありと判断するのだろうか?となると、やっぱり脱税逃れとは関係なく街宣車は送っていて、その事実を膨らませるため国税庁に嘘をつき、途中で脱税逮捕を諦めてむしろ街宣車逃れのために動くことはありえるか?

end.原文ママ判決文

 本件の判決は極めて多大な影響を持つと思われるため、最後に判決文の「反社会的勢力」に関する部のみ抜粋し、一字一句原文ママでここに転載する。

*本件団体→右翼団体
*本件街宣車事案1→シエル社への街宣車
*本件街宣車事案2→S社への街宣車

 以上の認定判断及び前記認定事実を総合すれば、原告は、何らかの方法で、第三者に対し、■■■及び■■に対して街宣活動が行われるように依頼したこと、原告が、本件団体による本件街宣車事案1及び本件街宣車事案2について、上記依頼の結果と認識していたことがそれぞれ認められる。これらの事実からすれば、原告は、特定の相手方に対し、本件団体による街宣活動を実現するよう求めることが可能な人脈を有しており、原告が依頼した結果、本件街宣事案1及び本件街宣事案2が行われるに至ったということができる。また、原告の依頼内容は不正不当なものであり、威力業務妨害罪等に該当する可能性もあるところ、こうした依頼を受け、これを実現させる者は、反社会的集団の関係者であるなど、反社会的な存在であるということができる。原告は、本件団体は政治団体であって反社会的勢力でない、反社会的勢力とは、暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人を指し、本件団体が街宣行為を行って経済的利益を得た形跡がないことからしても反社会的勢力ではない旨を主張する。しかし、反社会的勢力との用語は法律上決まった定義があるものではなく、広く一般に用いられている用語であって、上記のとおり、第三者からの依頼を受けて、その第三者の利益を図るために街宣行為を行う団体について、反社会的勢力と表現することが不当であるということはできず、原告の主張は採用できない。
 これらによれば、本件記事の内容は、その重要部分において真実であると認められる。

令和2年(ワ)第24162号 損害賠償等請求事件

<参考にさせていただいた方々>


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