色が違えば、模様があれば、形が違えば。
見るからにはっきり周りと違うとわかれば、あんまん自身もすぐに気づいていたかもしれない。
でもあんまんは気づいていなかった。また食べられるまでは。

第１夜

季節は少し肌寒くなってきたようだ。
人間は寒くなると温かいものを求める。カウンター前でソワソワしている。見ていればわかる、そろそろ自分の出番が来る。
 
自分のホカホカは、人を温める。
ホカホカのおかげで温まり、顔が緩んでいく人をよく見る。
ホカホカした人の身体の震えが止まるのが見える。
人が温まっていることが、こちらにも伝わってくるので嬉しくなる。
嬉しいことはもう1つ。村田商店の包子（ぱおず）であること。
 
　　　　　　　　　　　　　　　＊
 
ある日の夜、黒い服を着た疲れ切った顔の男が村田商店にやってきた。
 
「肉まん、1つ」
「はい、200円ね」
「SHOPPay使えますか」
「使えるよ。レシート..？」
「大丈夫です」
「はい。熱いから気をつけて」
「…」
「ありがとうございましたー」
 
あつあつの包子は、これから肉まんを食べるつもりの男の手に取られる。
互いに顔を突き合わせる。がぶり。
その時、包子は気づく。その人の戸惑いの表情に。
同じ頃、男も気づく。自分が食べたものは肉まんでないことに。
それでも男は気にしてないようだった。
 
「最近食べてなかったけど、これも美味しいな。お店の人間違えちゃったのか、俺が頼み間違えたのか、まあいっか。美味かったし。はぁ、俺も疲れてどっち頼んだか忘れたなー、よっぽど疲れてんだなー。」と一人ぶつぶつ何かいいながら、口元が綻んでいた。

包子には男の戸惑いの理由がよくわからなかった。
人間の言葉はわからないが、顔の表情から読み取れる情報は多い。
温まったら顔が緩むという、いつも見る光景とは違った。
顔が緩むというより、いろんな形に歪んでいた。
疲れていた顔から困った顔に、そして嬉しそうになって、最後は満足した顔になった。
観察好きの包子は最後まで彼を見上げ続けた。不思議な男だと思った。
お疲れさまです。