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まさかこんな未来が待っているとは

この間、になるのかな、ミッシェルガンエレファントのチバユウスケが亡くなった。

ミッシェル、何回かライブ行ったりしたっけな。好きと周りには言っていた割にはそこまで聞いてなかった。どのアルバムも一回くらいさらっと聞いて終わりだった。亡くなったという記事を見て、どの曲が、どう、こう、という話にはあまりついていけなくて、「そこまで聴き込んでなかった」自分を発見した。

しかし、ミッシェルのお陰で、古い英国の音楽には手を出すようになった。ドクターフィールグッドとか聴いていたが、一番聞き込んでいたのはたぶんキンクスである。その次、たぶんザフー、ブライアンジョーンズがいたころのストーンズあたりで、あと、よく聴いていたのがダムド、ジェスロタル、キャラバンだったかな。パブロックよりなぜかパンクやらプログレッシブ系が好きだったみたいで、まあ、そんな感じだった。

そういう意味ではミッシェルは水先案内人だった。なんとはなく、もっとイギリスの音楽を知りたいとか、こういう音楽を生み出した国はどうなんだろうとか、もっと英語を勉強してそういう文化に触れたい、そんなことを考えるようになり、お金をやりくりしてイギリスにようようたどり着いた。

あれだけ音楽が好きで、お金を投資したのに、恐ろしいことに、イギリスについたその日あたりから音楽はほとんど聴かなくなった。別にCDを再生しなくても、ラジオにダイヤルを合わせなくても、何をしなくても、音楽が流れてくるのである。コーヒー屋、空港のラウンジ、スーパー、タクシー、駅の待合室、レストラン、パブ、どこへ行っても音楽は流れてくるし、最悪バスなどの公共交通機関に乗っていても、今はまずみかけなくなったが、ギターを持って歌いながら電車に乗り込んでくるバスカーと呼ばれる人達もいたし、どこへ行ってもとにかく音楽はあった。別にお金かけなくても、聴けるのである。(わたしが通勤で乗っていた電車によくいたバスカーの人はダイアーストレーツ専門のバスカーで、彼のお陰で曲、かなり覚えた。)

それに、だ、私が「xxが好きで、そこからイギリスに興味を持って」などと言うと、イギリス人は「マジか?」という顔をするのが常だった。そんなかび臭い音楽聴くより、もっといい音楽あるよ、という人もいれば、「xxというバンドだったら、ドラマーがそこの教会の裏に住んでるから紹介してやる。」という返事も結構あった。まあ、私の好きな音楽はもう歴史の向こうの音楽で、よっぽど好きな人しか聴かない音楽のようだった。

まあ、音楽も過渡期にあったのかもしれない。日本では歌番組やランキングの番組がなくなり、歌手がテレビに出なくなったように、イギリスもだいたいそんな感じになっていたと思う。歌手はテレビに出て歌うよりも、民放などによくあった、一定の時間(朝の8時から9時一時間みたいな感じ)にPVをずっと流す番組が多かったような気がする。歌手はテレビには出てきたが、トーク番組の添え物として歌う程度で、歌がメインの番組はほとんどなかったような気がする。(そういう意味ではラジオの方がまだ元気があったような気がする。BBCは何個かラジオ局を持っているが、ラジオ2というのがポップス、ロック、流行歌を流していたので、本当に音楽が好きな人はそちらに流れていたような気がする。)

そんな中、一つだけ踏んばっていたのが、BBCでやっていたトップオブザポップス(TOTP)である、30分番組で、3人くらい司会がいて、音楽チャートを紹介し、チャートインした曲をミュージシャンが演奏するという番組だった。時々、チャートインしていても、歌手が出るわけではなく、カラオケみたいな音楽が流れ、女の子たちが出てきて踊ってるだけ、みたいな曲もあった。1964年から2007年まで約42年間、続いた国民的歌番組だった。

ただし、この番組、私がイギリス来てすぐに「あと半年で最終回にしまーす」みたいな告知が行われ、正直、私がイギリス来てからはほとんど番組としてワークしている感じではなく、みんなお付き合いで出てきてる感じだったし、司会も常駐でだれかというよりはお祭りモードでゲストが、という感じだった。もう番組としては死に体だったのは明らかだった。

昔、いろんなバンドがTOTPに出て大暴れしたというエピソードや、なかなか動いているところを見られなかったバンドやら歌手が見られる、なんというか、日本にいたころは文献などを読んでいると「伝説的な番組」だったのに、現地に行ってみれば、なんというか周りの反応にはギャップがあった。「親父とじーさんがよく踊っている女の子の足ばっかり見ててさ、いやらしいなって思った」くらいな感想しか現地の人から出て来なくて「うーん」という感じだった。日本ではこう思ってるみたいなことを言ってみると「え、そうなん?」というのが現地の反応だった。

TOTPはあっさり終わった。時々、特番で1時間フォーマットの番組が出て来たり、大物ミュージシャンが亡くなったあとは、追悼番組であの頃の映像が出て来たりした。

終わってから、だいぶたってるのに、テレビを見て居れば、TOTPのフォーマットの番組が出て来たり、映像が使われたりしていることが多かったので、それなりに親しみはある。あと、毎年、必ずTOTPを思い出すシーズンがあり、それはなんとクリスマスシーズンだった。なんでかというと、だいたい2時間ー3時間で、クリスマスソングを50曲くらい紹介する特集番組には必ずTOTPの名場面が切り抜かれることが多かった。

結構、この手の番組は見て居る。なぜかというと、クリスマスにお呼ばれされていつも行く家はこの手の番組をかけっぱなしにしていたので、だいたいまあ、集中して見てはいないが、見ている。一緒になって歌ってる時もあれば、「あらこの人相当若い時の映像ね」なんていう話を聞きながら見ていた。

ある年から、TOTPから切り抜かれた場面に、不自然なモザイクなどが施されるようになった。それは一緒に見て居るみんなが割に早く気がついて「あら」などと言っていたが、どうしてかはすぐわかった。ジミーサヴィルが映っている箇所だったからである。

サヴィルは、TOTPの初代司会者であり、64年から84年まで20年司会をやっていた。国民的なテレビタレントであり、DJ、司会者だったが、裏の顔は被害者が500人以上いると言われている性犯罪者である。(それも被害者は主に少年少女。)亡くなったのは2011年。亡くなった時も覚えているが、ベテランのテレビ司会者であり、長年慈善活動に携わって寄付金集めをして、という人だったからBBCではちゃんと追悼番組をやっていたのも覚えている。亡くなった直後のニュースでは彼の地元リーズの教会で、かなり趣味の悪い金色の棺に入った彼に地元の人がお別れを告げてます、みたいな映像も流れ、イギリスの昔のテレビのことなんか知らない人間にとっては「えらい人だったんだね」という感じだった。

まあ、彼の全盛は知らないが、なんとなく覚えているのは、2006年に放映されたセレブリティビッグブラザーという番組にゲストで出てきたのは覚えている。かなり大物面して出て来て、出演者は「ジミーよ、きゃー」みたいな反応していて、それをまんざらでもなさそうな反応しているのをみて「すげーお調子ものだな」と思ったくらいである。

そして、1周忌立たないうちにあっと言う間に彼がやばい人だった、そして彼が主に職場にしていたBBCはそれを隠蔽していた、被害者がたくさんいたのに、放っておいた、BBCの中でも彼を告発する番組を作ろうとしたプロデューサーがいて、そのプロジェクトが進んでいたのに、途中で取りやめになってどうこうという話になり、国の肝いりで彼の犯罪を調査するプロジェクトができ、余罪を追及したところ、彼と同世代のかなりのテレビセレブリティがセクハラをしていたという事実が出てきた。もちろんそのセレブたちは、過去の罪で裁判所にしょっ引かれ、実刑を食らった。

ま、一時、テレビのニュースはこの話題ばっかりだった。そして、私の周りにいるイギリス人たちが結構な割合で「まあ、昔からやばいやつという感じはした」ということを言いだした。サヴィルはあの頃では珍しく生涯独身で女性と大っぴらに付き合っているという話もなく、テレビに出てきて私生活の話をすると必ずお母さんの話をして、涙ぐむというのが定番だったらしく、それを見てみんな「?」と思っていたという話はよくしていた。あと、これも何名からか聞いた話だが、「自分の町にラジオだかテレビの公開録音番組で来た時、街で一番のかわいい女の子が楽屋を表敬訪問したが、何かのスキを狙って彼女のパンツに手を入れた」「自分の親が勤めていた病院にボランティアか何かで表敬訪問に来たが、女性用の更衣室に忍び込もうとして大ごとになりそうになった」などという話はちらほら聞いた。あと、何回か聞いた噂話も「周りに必ずテレビ局の人がついていて、勝手なことさせないようにしている感じがした」という話もあった。

彼の悪行が明らかにされていくにつれ、彼が生前もらった勲章やら学位やら名誉と言ったものははく奪され、お墓は荒らされた。そして、生前放送されていた番組はすべて凍結され、再放送はなしとなった。TOTPの再放送やら切り取りもやらない方針になり、64年から84年まで彼が司会をしていた回のものはテレビでは放送されなくなった。被害者を考慮したら当たり前の話になるのだが。

それにしても、である。彼のお陰で、彼の犯罪を見逃してないことにしていた人達のお陰で、大きな番組の遺産というかコンテンツという宝がぶっ飛んでいる。ひどい話である。

(xx年x月の放送分のxxの出番だけ、という探し方なら何かしら見ることは可能かもしれません。)

結局、TOTPは口に出すのもちょっとはばかられるコンテンツになってしまった。もちろん、彼が司会を辞めた84年以降の番組は今でも再放送やらxx特集と言った切り抜き動画特集などで見ることができるが、完全に味噌がついてしまった感は否めない。

イギリスの音楽にあこがれ、現地の人と音楽の話がしたかったし、ライブも行ってみたかったし、現地のレコードショップも行ってみたかった。そしてイギリスを代表するTOTPをリアルタイムで見てみたかったし、昔のTOTPをリアルタイムで見て、「あの人たちはすごかったんだよ」みたいな話をリアルタイムで体験した人の話もどんどん聴いてみたかった。なのに口に出すのもちょっと気を遣うような番組になってしまったとは。

まさかこんな未来が待っているとはあの頃の私は全然想像できなかった。クリスマスのシーズンになって、クリスマス音楽特集の番組を見る度に、そう思う。







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