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製造原価と管理会計

こんにちは
ベトナムアンカーです。

財務諸表の売上原価算出の為に、主に工場などの製造原価というものを算出しなければいけません。

製品一つを製造するのに、どれくらいのコストがかかったかを計算し、売上から製造原価などの費用を差し引きしていって、

利益を算出していくというプロセスです。


中小であれ零細であれ、製造原価の把握は必須で、意図的に会計ツールなどで計算していない零細企業の社長さんとかでも

製品一つあたりのコストなんかは必ず把握しています。

と同時に時間賃率も必ず把握しているので、中小・零細企業なんかでは、

親会社から加工受注した製品が例えば1個あたり150円とすれば、何分で加工すれば利益が出るとか

漠然と把握してます。要は製品一つあたりの損益分岐点ですね。

零細企業などは、こういった製品受注単価と時間賃率との単純比較で儲かる儲からないという判定で良いと思います。

その積み重ねがそのまま利益となりますから。


しかし、ある程度の中小企業や大企業となると労務費や経費などを正確に算出し、尚且つ間接費の配賦等も適切に配分しなければならないので、

製造原価の算出がかなり猥雑になります。

で、折角予算管理を含めて、正確に製造原価を算出するなら、それを*管理会計にも応用しようと考えるのが普通でしょう。

*管理会計・・・企業が内部管理のために行う会計。一般的には管理会計を元に意思決定や原価低減に活用する。


しかし、ここで落とし穴があることに気付かない経営者や上位管理層も多いです。

というのは、製造原価の算出を元にした管理会計となると、標準原価計算を元にしたコスト会計となります。

標準原価計算を要約すると、予め製品一つあたりの標準時間を算定しておき、標準原価を定めておきます。

製造指図等に製品一つあたりの標準時間が記載されている企業もあります。

そして、実際に製造指図を元に作業員が加工し、作業員1人あたり1工数(人時計算なら8時間で480分)として工数計算を行います。

例えば20人の工員が作業するチームなら投入工数は20となり、1日あたり20×480分=9600分の標準時間分の製品を加工すれば、生産性が100%となります。

予算管理で、当該チームの労務費や経費、間接配賦費用を算出し、その費用分と標準時間を元に目標生産性を設定するのが一般的です。

この予算管理を各セクションにて行い、目標生産性に対しての実際生産性でセクションを評価し、意思決定に繋げるというのが、

製造原価を元にした管理会計の流れです。


この管理手法は、各セクションが目標生産性以上の生産性を達成すれば、おのずと工場は黒字になるという考え方です。

しかし、実際は各セクションが目標生産性を達成したとしても、工場が必ず黒字となるとは限らないのです。

セクション別の標準原価計算による管理会計にはいくつかの弊害があるので解説していきます。


1.セクショナリズムの誘発

セクション別に標準原価計算による管理会計、すなわち標準時間を基準とした生産性で個別管理すると、

各セクションは投入した工数分は必ずものを作らなければ、目標生産性を下回ってしまいます。

という事は原材料がある限り、内示での生産量の上限までものを作り続けてしまいます。

後工程で仕掛かりになろうが、保管スペースがなかろうが御構い無しです。

なぜなら、ものを作り続けて目標生産性を達成しないと評価されないからです。

工程を細分化して、個々の製品の製造原価を正確に評価するための標準原価計算による管理会計だと、セクションを細分化して目標生産性を定めてしまうようになるので、

細分化すればするほど、個別の設備やラインが全体最適ではなく部分最適に陥り、数字に縛られて柔軟なセクション間の対応を拒絶してしまいます。

すなわちセクショナリズムが誘発されてしまうという訳です。


2.在庫増により財務諸表上の売上原価が下がる

売上原価の算出方法は

期首製品在庫金額+製品製造原価−期末製品在庫金額となります。

という事は個別セクションが我先にと、ものを作りまくり、保管スペースがないので仕方なく製品として完成させて、

販売計画の見通しがまだ立っていないにもかかわらず、製品在庫過多となってしまったとします。

次期の売上となるかわからないような製品在庫を抱えているのに、

財務諸表上では期末製品在庫金額が増大し、売上原価が下がります。

売上原価が下がるという事は

売上総利益=売上高−売上原価ですので、驚く事に、売れるか見通しが立たない製品在庫を抱えても今期の売上総利益は数字上は上がります。

よって財務諸表上の利益が上がる方向に寄与してしまうのです。


しかし、この状態では適正な企業運営とは言えません。

無理に積み上げた製品在庫は来期に売上げれるかはわかりませんし、在庫陳腐化のリスク、在庫管理のコスト、保管スペースの賃料コストを考えると明らかにマイナスとなる行為です。


3.ボトルネック工程の品質や工員のモチベーションが著しく低下する

個別セクションがものを作りまくると、必ずと言って良いほど、ボトルネック工程が発生します。

つまりは仕掛かり品が大量に荷受場に置かれているような工程が生まれてしまうという事です。

一貫生産を売りにする製造メーカー等なら、だいたいボトルネック工程は塗装ラインかメッキラインとなるはずです。

なぜなら、一般にプレス機やマシニング、NC加工機などの設備は、法的な制約もそれほど厳しくはないので、

資金力さえあればかなりの台数を導入する事も可能です。

しかし、塗装ラインやメッキラインは法令での制約が非常に厳しく、安易に4ライン、5ラインと増設する事は困難です。

ですので、塗装ラインやメッキラインは限られた設備と人員で対応しなければならず、尚且つ様々な工程を経た部品はそのほとんどが塗装ラインやメッキラインを通ります。

故に、塗装ラインやメッキラインは各社慢性的に能力不足となっており、ボトルネック工程となっている企業が多いのです。

そして、ボトルネック工程で仕掛かり品が大量に仕掛かり品置き場にあるようなラインは、

ライン作業員への心理的な圧迫感と実際に仕事に追われているという現実、そして個別最適が正であると信じ込む管理者からのプレッシャーに追われています。

そのような状況ですと、当然品質確認が疎かになりがちで、とにかく仕掛かりを早くはかなければと焦ってしまう心理状態に陥ります。

と同時にライン作業員のモチベーションは徐々に低下し、職長や上司に状況改善を依頼しようが、一向に状況は良くならないので、やがて退職という選択をする作業員まで出てくるでしょう。

個別セクションの標準原価計算による管理会計をやめさせるなど、一職長や管理者に到底出来る事ではないのですから。

長くなりましたが、次回noteで標準原価計算による管理会計に変わる、全体最適思考に最適な管理会計について書きたいと思います。

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