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猫   ───8


虹のかかるキャベツ畑
春の土の匂いがする
その上を ひらひらと舞う
モンシロチョウを追っていると
遠くにぽつんと 黒い猫が見えた
まるで あなたの髪のような
ちがう
あれはあなただ
あなた 猫になっても背が高いのね
よかった
よかった
待ってて すぐ そこへ行くから

「ただいま」

目覚めるとそこは いつものリビングだった

「いいよ、寝てなよ」

ごめんなさい
わたし 最近 すごく眠い
それで 気づいたんだけれど

わたし
あなたより先に死ぬのね

あなたも 知っているのよね
だからそんなに優しいのよね
となると
わたしの問題は いっそう深刻だわ
つまり
もう時間がないということよ

どれだけ あげることができるか
それが愛のあり方だというなら
わたしはもう
競走するみたいにやらなきゃならないわ

でも
今のところ 勝ち目なんかなさそうなの
だって あなたって
相変わらず私にくれてばかりで
何もさせてくれないもの
そりゃ まだ
お湯ひとつ沸かせませんけれど

ああ もっと あなたを愛さなければ
目に見えるほどに
手に取れるほどに

困ったわ
八方塞がりだわ
出口が
出口が
見当たらない


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