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猫   ───6


なぜかときどき
わざと悪さをしたくなる

気に入らないことなどないのに
むしろ 満ち足り過ぎているほどなのに

いいえ、だから

愛情 信頼 安全
その崖っぷちに立ってみるの

試すなんて 贅沢ね
そのうち ばちが当たるわね
失わないと知っていて 甘えているのね

でも
今のはわざとじゃなかったの
窓辺の額(フレーム)が落ちたのは
わたしのしっぽが当たったせい

けれど
彼は怒らなかった
割れる物音に驚いただけで
しばらく それを眺めたあと

「まあ、いいきっかけだったかもな」

そうつぶやいて
わたしの頭をなでたのだった

わたしは 彼の手の下から飛びのくなり
ソファの下目がけて 一目散に突っ込んだ

「あはは、何だよしっぽだけ出して」

しっぽの先を指でなでられ
わたしが ばしんとはねのけると
彼はそっと離れて行った

あなたは いつだってそうだ
わたしに何も求めない
まるでみそっかすの子供みたい
何もしなくていいからね
何を言ってもわからないでしょ

あなたは 何でも許してくれるけれど
そんな優しさよりも わたしは
あなたを傷つけて責められたい
あなたを怒らせてなじられたい

そのほうが ずっとましだ


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