溢れる人間味、二期会公演宮本亜門演出「魔笛」

 昨日は二期会「魔笛」の初日に行ってきました。

 2015年に初演されて大好評、大盛況だった宮本亜門演出の再演です。人気演目だけあって、緊急事態宣言中にしてはよく入っていました。
 

 (もうあちこちで書かれていることなので今更ですが)宮本演出は、現代のサラリーマン一家がゲームの世界に入り込み、成長を遂げてハッピーエンド、というストーリー。リストラされて帰ってきたお父さんがやけのやん八になり、奥さんは怒って出て行こうとする。お父さんはそこでブラウン管の向こうに飛び込んで物語が始まります。ゲームの世界ではお父さんはタミーノ、お母さんはパミーナ、子供たちは3人の童子、同居しているお父さんは弁者になりかわります。
 

 いろんな対立がテンポよく、ビジュアル的にも楽しく描かれているのも宮本演出の特徴。ザラストロとその仲間は頭でっかちなので脳みそを模した帽子を被り、夜の女王と侍女たちは肉体派なので胸を強調したフィギュアの衣装。わかりやすい。最後にザラストロと夜の女王が仲直り?するのもいいですね。パパゲーノはチャップリン風の道化になっています。終始プロジェクションマッピングが使われ、転換がスピーディで飽きさせません。 
 宮本さんや、最近METで活躍しているバートレット・シャーのように、ミュージカルでの実績がある演出家は、展開をスピーディにして飽きさせないコツを掴んでいるように思いますが、どうでしょうか。シャーの「セヴィリアの理髪師」なんて、ベルカントオペラとは思えないスピード感がありました。
 

 音楽的には、初日だということもあるのでしょう、第1幕は不安定な部分も散見されましたが、第二幕はかなり改善されました。夜の女王役安井陽子さん、パミーナ役嘉目真木子さん、ともに第二幕のアリアで本領発揮。モノスタトス役高橋淳さん、悲哀感とユーモアある演技、堂々とした美声の歌でbravo。とっても人間的なモノスタトス。タミーノ役金山京介さんもリリカルな美声と真面目さを前に出した演技で好演。ザラストロ役妻屋秀和さんは包容力と人間味。そうですね、宮本演出では皆人間味たっぷりです。悪人はいません。モーツァルトの望んだ世界かもしれません。
 

 指揮は若手女流指揮者のギエドレ・シュレキエーテさん。ある方が今ヨーロッパで注目されていると書かれていたのですが、いわゆるピリオド風の、ヴィヴラートをおさえ、薄手でドライで透明感のある演奏。急速なテンポ。第1幕ではしばしば走りすぎていたような。確かに、今時の受けるタイプの一つのパターンなのでしょう。かなり器楽的なので、もうすこし「歌」が欲しいですね。オケは読響。
 

 一つ注文。これは「タンホイザー」の時にも感じたのですが、ドイツ語の発声をなんとかしてほしい。「魔笛」はジングシュピールなのですから、セリフは日本語でいいんじゃないでしょうか。リンツ州立歌劇場との共同制作だからドイツ語のままなのかもしれませんが、二期会では実相寺演出初めこれまでたびたび日本語でやってますから、出来ない相談ではないと思います。

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