こわもてファルスタッフ・ファミリーはみんな食いしん坊!


 日曜日の夜はMETライブビューイングで「ファルスタッフ」。
 いや、最高でした。演出も指揮も歌手も揃っています。歌手は個性的でチャーミングな面々が揃いました。
 
 まずロバート・カーセンの演出。これはスカラ座などとの共同制作で、日本でもスカラ座の来日公演で披露されましたが、実におしゃれで気が利いていて洗練されています。設定を1950年代に変え、テーマは「食」。みんないつも何か飲んだり食べたりしているんですね。第1幕第2場はレストラン。フェントンはレストランの給仕をしています。第2幕第2場のフォード邸でのアリーチェとファルスタッフの逢引き?のシーンはキッチン。メインディッシュのローストチキンをアリーチェが焼き、ファルスタッフはそれを取り出して切り分けますが、アリーチェにはほんの少し、自分がほとんどをせしめるという塩梅。最後の最後、フォードが「ファルスタッフさんと夕食に」というと、大きなダイニングテーブルが出てきて、みんな一斉に着席し、ファルスタッフがテーブルに上がって万歳!みんなハッピーで、後味がいいのです。そして音楽がすごく新しく聴こえます。130年くらい前の作品なんて思えません。
 楽しい。人間にとって「食」がいかに大事か、日常に欠かせないか、彩りを添えてくれているか、笑いながら感じていました。衣装もカラフルで素敵です。
 演技もとても細かいのですが、それが音楽にぴたりとあっている上に、音楽をさらに増幅するくらい付けられているので、いい意味で目が離せません。夢中になり、時間を忘れます。
 
 指揮のルスティオーニ。METのゲルブ総裁が「今METでとても愛されている指揮者」、「great v erdi conducter」だと語っていましたが、本当に巧いです。「時計みたいに精巧」だと歌手たちが口を揃えるこの難曲を捌き、表情豊かにハッピーに聴かせる。「ファルスタッフ」はほとんど演劇のようなオペラですが、「演劇」に到達するにはオーケストラが欠かせない。笑い声もしょげたポーズも全てオーケストラに書かれている。ルスティオーニはそれを美しく、時に大胆に前面に出て聴かせます。
 
 歌手はみんな溌剌として、すごく楽しんでいる雰囲気が伝わってきました。舞台に一体感がある。「ファルスタッフ」のようなアンサンブルオペラでは、この一体感はこの上なくプラスです。
 ファルスタッフ役ミヒャエル・フォレ。ドイツの名バリトン、ワーグナー歌いとして有名です。ずっとコワモテで、苦虫を噛み潰したようなファルスタッフを初めて見ました。笑。でもファルスタッフはイングランド人なんだから、これはこれでいいのかも。声は素晴らしく、ハリがあり、演技性豊かで引き込まれます。
 特に溌剌としていたのが女性陣。クイックリー夫人のマリー=ニコル・ルミューは初めてでしたが、いつも満面の笑みで声も明るく生き生きとして、とてもチャーミング。動きも敏捷。メグ役のジェニファー・ジョンソン・キャーノも同じ。で、この2人が普段より目立っていました。クイックリー夫人はともかくメグ役というのはあまり目立たないので、こんなに印象的なメグは初めてかもしれません。でもこれくらい存在感があった方が、「女房たち」(複数!)に相応しい。大体、アリーチェが目立つパターンが多いので。
 そのアリーチェ役アイリーン・ペレス。ベルカントからヴェリズモまで幅広いレパートリーで活躍中ですが、すごくハマっていて楽しそうでした。滑らかで、無理のない(ように聞こえる)、美しい声。派手な美貌!かっこいいです。そして女性陣、みんな演技達者でよく動く。ルミューなど結構歌手体型ですが、機敏でびっくり。それがまた喜劇のテンポとよくあっているのですね。
 フォード役クリストファー・モルトマンも俗物をそれらしく演じて痛快。「フォンターナ」氏に変装するところでは、「コジ・ファン・トウツテ」の、2人の若者が「アルバニア人」に変装する場面を思い出しました。それくらい、かっ飛んだ変装だったので。
 歌手や指揮者のインタビューもいつもながら楽しく、特に歌手たちの楽しそうな様子は印象的。ルスティオーニが作品の魅力をピアノを弾きながら語るインタビューも圧巻でした。
 残念ながら一般の公開期間は過ぎてしまいましたが、東劇ではまだやっています!未見の方、お時間があればぜひ!
 https://www.shochiku.co.jp/met/program/4676/

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