台本を知るとオペラの見方が変わる!〜日本ヴェルディ協会主催 演出家岩田達宗講演会より

 所属している日本ヴェルディ協会の主催で、人気オペラ演出家、、岩田達宗さんの講演会を行いました。
 題して「オペラ 台本の妙」。
 むちゃくちゃ面白く、勉強になる講演会でした。目から鱗、の1時間半。

 まず、日本人とヨーロッパ人の芝居には、根本的な違いがある。ヨーロッパの芝居の作り方は「行為」の積み重ねであり、油絵に似ているが、日本の芝居は「筋」が大事で、書道に似ている。ここがどうしようもなく違う!
 「あらすじじゃないんです シノプシスなんです」
 「幕、じゃないんです、行為(action)なんです」
 「その時人物がどう思っているか、より、何をしているか、が大事。「「フィガロの結婚」の伯爵夫人がアリアを歌うとき何をしているのか。スザンナを待っているんです、それが大事」
 それと、その「行為」は、主語、動詞(他動詞)、目的語1、目的語2 からなっている。誰に向かっていっているのか、それが大事。
 そういう、「行為」というものの存在を理解すると、人物の性格まで理解が深まる。
 例えば、「フィガロの結婚」の伯爵夫人が、結婚前の「セヴィリアの理髪師」の活発なロジーナから、すっかりおとなしく様変わりしてしまったのは、主人に浮気されて落ち込んで性格が変わったというより「伯爵夫人になったので、(小間使いのように)自分で動くことができないから」
 そうだったのか!
 
 今回、特に「フィガロの結婚」と「椿姫(トラヴィアータ)」を中心にしてくださったのですが、「フィガロ」の台本作家のダ・ポンテは名手の誉れ高いですが、「椿姫」の台本作家のピアーヴェは、多分一般的にはそれほど評価が高いとは言えません。ヴェルディの台本作家というと「オテッロ」や「ファルスタッフ」を書いたボーイトの方が才人と評価されます。
 けれど岩田さん曰く、「オペラの台本は、歌うために短縮しなければならない」「ピアーヴェは、「短縮する」ということでは素晴らしい名手」だと。なるほどです。いや、ピアーヴェが書いた「リゴレット」や「椿姫」の台本て、よくできていると思うんですよ。
 台本を読むという点でいうと、言葉だけではなくて、!や?といった記号にも意味がある。それを知らなければならない。
 例えば「椿姫」、第2幕第2場、アルフレードがフローラのパーティに現れる場面。一同が「Alfredo ! voi !」(アルフレード!君か!)という。
 ここは台本に ! と書いてある。だが日本人は往々にして ?としてしまう。「なんで?」という疑問にしてしまうのだが、そうじゃない、「!」なんだと。!の意味は、「一人でこんなところに来るもんじゃない!」ということ。ここはカップルでくるところなのだ(ヨーロッパはカップル社会)。ここを?にしてしまったら全然違う意味になる。 
 そういう背景を知らないと、オペラは、ほんとうは、できないんですね。

 あと、オペラの台本は短くするため、いろいろな「キーワード」がたくさんある、という話も面白かった。 

 例えば「椿姫」のキーワードの一つは「gioia」喜び。.
 初めの方では享楽的な生活を複数形で表し、だが最後にはアルフレードによって「愛」を知った、その喜びgioia を知った人生だと言って死んでいく。そしてその時も目的語、相手がいる。その相手とは「神」なのだ。
 うーん、深いです。が、いいお話です。 

 一方「フィガロの結婚」の重要なキーワードに、「contento 満足する」そして「amore 愛」がある。この2つはドラマが進むにつれ増えていく。最後では「みんな満足する tutti contenti」にまで至る。
 ああ、だから「フィガロの結婚」て幸せなオペラなんですね!
 
 こういうお話を、稽古場で、全ての役の歌手に対して、歌いながら身振り手振りを交えながら説明していくのが岩田さんのやり方なんだそうです。すごいな。
 「行列のできる演出家」、120%納得です。岩田さん、ありがとうございました!

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