ふと思い出した昔話

奇妙な噂

 夜な夜な、廊下で鍋をやっている先輩たちが居るらしい。という噂。

 大学の消灯時間は21時。音大なので夜遅くまで練習や合わせをしている学生は珍しくないわけで。でもそんなこと一切お構いなしに電気は消える。一度目は消灯合図のようなもので、すぐ元に戻る。二度目が本格的な消灯だ。幸い暗くなるのは教室内だけで廊下の電気は点いているから、廊下の灯りを頼りに楽器をケースにしまい、帰り支度をする。
 3号館はそんな状態だが、4号館の方は電気が消えないらしい。その廊下で先輩たちは鍋をしているのだという。
 学生時代聞いた噂。真偽のほどは定かならず。もし実際にやっていたとしても、何も驚かない(大学祭のとき、廊下で模擬店用の唐揚げやら豚キムチやら調理していたし)。

大学入学後の衝撃

 大学に入って一番衝撃だったのは、ホルンの人達が廊下で練習していたことだった。今はどうだかわからないが当時は練習室に暗黙の了解というか専攻別の棲み分けのようなものがあって、管楽器と弦楽器の練習場所も4階と3階に分かれていた。弦楽器は3階。たまたま用事があって4階への階段を上がると、ホルンの先輩たちが椅子を並べて廊下で練習中。階段上がって1秒でホルンのお兄さまたち。真正面でホルンが吠えている。怖い。
 思い返せばチェロ・コントラバス・管楽器の男性陣は、見た目が怖い人たちが多かった。身体は大きいし、声も低いし大きいし。演奏すると上手いし。実際話してみたら皆様優しかったのだけれど。
 大学校舎の改築とご近所からの苦情もあったのか、その後ホルンの練習場所は地下へ移り、ホルンの音が校舎内に響き渡ることはなくなった。
 静かなのは悪いことではないけれど、少し寂しい。


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