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噓日記 2/8 社内制度による生殺与奪

社会人は皆、働く環境が違う。
それぞれの環境にそれぞれの制度。
社内制度とはそんな環境の違いを少しでもフラットにして過ごしやすくするためのものだ。
私の会社にもそんな社内制度がある。
しかもとびきり変わった制度。
私の働く会社では一年に一度、二月八日、会社にエアガンを持ち込んでもいい。
背広の内ポケットに皆がハンドガンのエアガンを忍ばせて働く。
ただ持ち込んでいいだけならば特段大したことがない制度だ。
だが、ここからがこの制度の奇異な部分。
仕事上で誰かのミスがあった場合、銃を抜いてもいいのだ。
脅しの道具じゃない。
撃っていい。
そう、我が社では狩り(ハント)を許可する日があるのだ。
当日は社内に緊張が走る。
ちょっとしたミスでも平気で風穴を開けられる。
コピー用紙を落とすだとか、電話対応の遅れだとか、その程度の小さなミスでも皆が銃を抜く。
それは何故か。
銃を撃ちたいから。
あと、皆互いに憎しみ合っているから。
緊張感が漂うオフィスで皆が内ポケットの銃身を服の上からさすりつつ、その時を待つ。
全ては汝の敵を穿つため。
と、ここまではこの制度における一般社員の楽しみ方。
ここからが肝になってくる。
以下、今日起きたことの顛末を記す。
今日は一年ぶりの制度実施日。
私は前日から社長室に隠れて角待ちし、今朝入室してきた社長にワンマガジン撃ちきった。
全ては憎しみを込めて。
ミスとか関係ない。
生まれてきたことがミスじゃ。
憎しみを込めた弾丸は社長の肉体を容易に貫通し、社長室に飾られている野球選手のサイン色紙に小さな穴をいくつも開けた。
濱中のサイン。
そう、この社長。
彼こそが昨年の狩り(ハント)を生き延びた生存者。
そして、私を社長の座から引きずりおろした張本人だ。
そう、実はこの制度、管理職同士の狩りでは狩った人物と役職を交換するという下剋上ルールが設定されている。
粛清の弾丸が貫いた彼の肉体はどどめ色の小汚い小さな玉へと変貌する。
私はそれを拾い上げて、頬張り、飲み下す。
社長職、継承完了。
エアガンによってキルされた社員はその年のスポーツの日に、会社から一番近いマックスバリュでリスポーンするので好き放題キルしていい。
私も去年のスポーツの日、マックスバリュのお菓子コーナーの煎餅の棚でリスポーンした。
味ごのみの下、雪の宿とソフトサラダの間でリスポーンした。
昨年の雪辱をやっとこさ果たしたのだ。
その後、課長の田中くんにワンマガジン分全て撃ちきられ今年も私の社長職は奪われた。
私を貫通した弾は部屋のサイン色紙に小穴を開けていく。
関本のサイン。

どりゃあ!