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噓日記 7/31 エゴサーチ

長かった7月にもとうとう別れを告げる日がやってきた。
それと同時に長い8月を受け入れなければならない心構えができないままにこの日を迎えたことに少し戦々恐々としている。
暑さにやられてどうにかなりそうな頭を振り回しながらまた一月、この夏を過ごさねばならない。
そんな辛い夏を振り切るためにも仕事が終わってエアコンの効いた室内でエゴサーチをする。
なんというか手慰みのようなものだ。
有名な検索エンジンで俺の名前を入力するとそこそこの件数がヒットするのだ。
俺は自分で言うのもなんだが界隈ではなかなか顔が知れているし、言いようによってはまぁ有名人と言えるかもしれない。
俺はこうして時折エゴサーチをして、界隈から集めた注目を実際に感じ取るようにしている。
それは俺がその界隈の空気感から乖離しないように、自分の感性を世界に擦り合わせるためだ。
自分という存在が受け入れられている限り、自分がいる理由になる。
自分がいていい理由になるのだ。
これはただ安直な慰めでもなく、自分を奮い立たせるものでもない。
自分の存在理由であり、存在証明なのだ。
言うなれば自分の存在価値は全てこの作業で見つける。
見つけられなくなった時、それは俺が正しく無価値になった時なのだろう。
さて、検索の一番上に出てきたページにアクセスする。
夜の街に関する情報サイトだ。
自分で名乗った覚えはないが俺はよく夜の帝王と呼ばれる。
夜の街を往けば自然と注目が集まる立場となってしまった。
なるほどこのサイトに名前が載るのも納得だ。
このサイトも最近では多くの人が書き込み、情報を交換し、交流の場として賑わっている。
さて、俺の名前はどう表示されているだろうか。
書かれたのはつい先週のようだ。
見たところ風俗嬢にメチャクチャ悪口を書き込まれている。
身体中毛だらけでファービーみたいだった、高い声で喋るから鼓膜を通り越して内耳炎になった、スーパーの2階で買ったような靴を履いている、本番を強要してくる、不快、腐海、黒海、猿とチンパンジーのハーフ、汗っかきだから首に常に死んだタオルを巻いている、おじいちゃんが死んだ時と同じ匂いがした、中華食ってから来るな、手作りの漬物を食べさせようとしてくる、寄港記念の謎帽子を被っていて常に脱がない、などなど俺のプライベートに関わることが事細かく綴られている。
本名も住所も電話番号も顔写真も。
全部全部、載っていた。
俺にはまだいていい理由がある。
8月、頑張れそうだ。
復讐のための刃は今も研がれ続けている。

どりゃあ!