プロデュース

アナザーストーリー:人と本と旅編~その③~

人は変われる。誰でもいつでもいつからでも。「こうでなければならない」「こうあるもんだ」っていう思考停止フレーズをパッと捨てて、本当に望むイメージを形にしてみることを、もっと楽しんでいいんだって、思って欲しい。
  
伊川のcafeは、そんな自由な空気にいつも満ちている。誰にとっても、いつでも。

中岩 浩二さん 56歳/営業課長

目を覚ますと時計は8:00を回っていた。すでにかみさんと娘は出かけたみたいだ。土曜の朝を一人で満喫といきたいが、どうやら昨日の酒が残っていてすっきりしない。昨日は坂上や藤崎など大学の同期の集まりで終電近くまで飲んでいた。

いや、実はすっきりしないのはそれだけではなかった。昨日坂上がおもむろに俺に言った一言が引っかかっていたんだ。

「ところ中岩さ、お前、生涯現役でいるためのプランって持っているか?」

坂上は、俺と同じ業界で、職種も営業。会社こそ違えど同じような道を辿ってきた。時にはライバルとしてしのぎを削りながらも、ともにわかりあえる大事な仲間でもあった。

その坂上が、とつぜんあんなことを言うなんて驚きだった。

どうやら坂上は最近会社勤めの傍ら、NPOのボランティアと、後はずっと趣味だった書道と絵を組み合わせて、水墨アート教室を開いて週末1日をつかって教えはじめたらしい。


「俺さ、この頃思うんだ。俺がこの先の人生をどう生きたいのか?この命をどう使っていきたいのかってさ。ずっと疑いもなく目の前の仕事をこなしてきたけどさ、それでいいのかなって?ふと疑問に思っちまってな…」

確かに最近、「新しいはたらき方」とか「今の仕事の半分はAIにとってかわられる」とか、言われているが、正直俺には関係ないし、別にあと10年も現役でいることはないわけだしと、あまり関心がなかった。

でも人生100年時代なんて書かれている本なんかも最近目にして、坂上との話も相まって、あらためて自分の「この先」を思った。

今は、会社でも役割があり、部下もいて、必要とされている実感も、世の中に対して貢献しているという実感も少なからず感じてはいる。でもそれは今「与えられている」ものであって、今の会社や役割がポッとなくなったらどうなるのか? 

俺の周りでも役職定年になった元上司や、再雇用で残った先輩たちもいるが、何かどこか覇気もなく、日々淡々と過ぎていっているように見える。自分と重ねて考えることなどあまりしていなかったが、それはもしかしたらいつかくる自分の姿だと想像すると、とたんに不安が襲ってきた。

「まさか、56歳で自分のこれからのキャリアを考えるなんてな」そんなことを思いながら、今までにないような漠然としたモヤモヤした気持ちを感じた。

そういえば坂上から面白いカフェがあるからと紹介されたのが「人と本と旅」というカフェだ。本屋も兼ねたカフェ型本屋といっているらしい。どうせ休みといってもやることもないのでちょっと行ってみよう。何かこの妙なモヤモヤが解消されるかもしれないし。

最近改装された木組みの美しい駅を降りて、5分ほど歩くと、そのカフェはあった。俺は事前に連絡をいれて、坂上の紹介ということを伝え、可能ならばオーナーの伊川さんと話が出来ないかと訊いていた。ちょうどタイミングよくいるらしく快諾してくれた。

カフェにつくと、壁いっぱいの本棚がまず目に付いた。カフェというより本屋のようだ。面白いことに、ここの本棚はいろんな人の自分のビジョンづくりに影響を与えた10冊が並んでいて、彼のワークショップを受けた人は希望すればここに自分の10冊を並べることが出来る。蔵書としてではなく同じものを仕入れて売り物として置いてあるので買いたければ買うこともできる。

それがまた誰かの人生が変わるきっかけになるかもしれないという意図でそんな仕組みをつくったらしい。そういう仕組みもユニークで、これを考えた伊川さんにますます興味を持った。

「あっ中岩さんですか?どうもこんにちは、伊川です。」そういうと、長身で気さくな感じの男性が近づいてきた。自分より一回り若く、穏やかだがエネルギーを感じるでも威圧感の無い自然体な佇まいになんか惹かれるものがあった。

坂上は彼のワークショップを受けてからだいぶ考え方が変わったと言っていた。またその副産物と言っていたが、ビジョンやそれを形にするプロデュース思考を学ぶことで、自部署の活性化にも成功したらしい。ずっと不振で雰囲気もよくなかったチームが今は生まれ変わったようだと言っていた。

そんなにも変わるものなのか半信半疑だったが伊川さんと話ながらなんとなくその意味がわかったような気がする。


彼と話していて印象的だったのが、ビジョンという言葉だ。もちろん会社ではビジョンという言葉を聞かないわけではないが、彼がいうのは「自分自身のビジョン」だ。

仕事を通じて何が実現できたら本望だと思うか? 自分の人生を通じてこれをしてみたいと思うことは何か?といったことを問われたが、正直パッと言葉には出来なかった。

彼は、笑顔で、今すぐ言葉にならなくとも、必ず自分の中にあるので、それを問うてみてほしいと言っていた。さらに自分のなんとなくイメージしているビジョンと近い人の本を読んでみることも勧められた。

1時間あまり彼と話しながら、この空間にいると、不思議と、最近感じていた漠然とした不安感はやわらぎ、むしろなんか俺も50半ばにして人生変わるかもしれないというワクワク感にわずかながら心踊っている自分がそこにはいた。

考えてみたら、俺はこの何十年も自分が何をしたいのか?なんて考えたこともなかった。そして常に待っていれば、もしくは所定の場所にいけば、仕事は当たり前のようにあり、それをこなすこと以外の世界に目を向けてこなかったように思う。

それを思った時、正直愕然として、もう今更遅いんじゃないかとも思った。でも今日伊川さんは、誰でもいつでもいつからでも人生は変えられると言っていた。その言葉に勇気をもらった気がした。


不思議と、こうやって対話していると、いつもとは違うことがどんどん浮かんでくる。そしてちょっと面白いことを思いついた。

うちの会社では、毎年「新規ビジネスアイデア提案」のコンテストを行っている。応募するのは若手が多く、過去にはいくつか実際のサービスや事業に発展したものもあった。
  
実は、なんとなくやりたいと思っているプランがあったのだが、そんな夢みたいなこと今更やる歳でもないしとずっとあきらめていた。でも何が実現できたら本望かと問われ考えた時に、それがフッと浮かんだんだ。

「もし、今俺が会社の中で、新規事業提案をしたら、みんなどんな顔するだろう?きっと驚くだろうな…」そう思うとなんか不思議なエネルギーが湧いてきた。

何かが動き出すかもしれない。今までと違う何かが。

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■その①:今井 航さん 33歳/システムエンジニア
■その②:山下 有希乃さん 46歳/メディア編集会社経営


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鵜川洋明

一人でも多くの人がビジョナリー・ワークを生きる世界をつくるというビジョンを持って生き、はたらいています。代々木八幡のVisionaryWorkGarageという未来デザイン工房でワークショップやら何やらいろいろ実験しています。詳しくは→ https://www.meraq.net
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