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哲学的な何か、あと数学とか(著者:飲茶)

数学にだって熱い血が通っている!フェルマーの最終定理という難攻不落な難問。それに取り組む学徒たちの姿を通して人間が生きる意味を探るテキスト。数学という学問の真に驚くべき「美しさ」「面白さ」は、この本の余白をすべて使いきっても書ききれるものではありませんが、数学がいかにロマンに満ちあふれた学問であるか、その一端を少しでものぞかせることができていれば幸いです。
(Amazon内容紹介)

「哲学的な何か、あと数学とか」というタイトルだが、本書は「フェルマーの最終定理」という350年もの間解かれる事のなかった問題が証明されるまでの軌跡を描いた物語である。

まず、フェルマー予想とは、17世紀の後半、(アマチュア)数学者のピエール・ド・フェルマーが「私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」という謎の言葉を書き残して去った以下のような問題である。

3以上の自然数 n について、xⁿ + yⁿ = zⁿ となる自然数の組(x, y, z)は存在しない。これを証明せよ。

このたった1行足らずの命題は、理解するだけなら恐らく小学生でもできるだろう。

しかし、この一見簡単そうに見える証明問題は、350年もの間、数多の天才数学者(オイラー、ガウス、ソフィーなど)を悩ませ、挙句の果ては、フェルマー予想に出会ってしまったが為に数多の数学者の人生を絶望の淵に追い込んできた。ところがある日、誰一人解けなかったこの難攻不落の難問は、学校帰りの10歳の少年が図書館でこの証明問題を見つけた事をきっかけに、事態が大きく転換する事になる。

本書は数学を題材にしたストーリーという事もあり、この内容紹介だけで嫌厭してしまう人がいるかと思う。しかし、フェルマー予想に人生をかけた数学者たちの人間ドラマは、数学に自信のない方でも読んでいてとても楽しめる作品となっており、数学をめぐる裏ドラマ(フェルマー予想に出会って自殺を止めた人の話や数学者同士の公開試合など)も詳しく取り上げているので非常に面白い。

最後は、本書の著者・飲茶さんのフェルマー予想という文学を読み解くにあたってのエピローグを紹介して話を締めたいと思う。

本当に大事なのは、「人間は、そんな何の役に立ちそうもない問題や謎に、その短い人生を賭けることができる」という事実のほうにある。
この世界には、知的に面白いと思える問題が存在し、それに人生を賭けられる人たちがいることを僕たちはもっと誇ってよい。そして、それらの問題に取り憑かれ、人生を奪われた人たちも含め、すべての知的探求者に敬意をはらうべきだ。
何千年もの間、人類がつちかってきた学問という世界は、不可能とさえ思える絶望的な問題に立ち向かおうという「人間の情熱」のうえに成り立っているということを忘れてはならない。
人類が滅亡するまでに、決して解かれることはないだろうと言われた難問に対して、おしげもなく、その人生を捧げ、果敢に立ち向かっていった人々の矜持を忘れてはならない。



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