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「自己」と「非自己」の境界

 「自己」とは何か、の問いは、つい最近まで哲学の問題でした。

 人間は考える葦である(パスカル)、我思う故に我あり(デカルト)

 哲学では、人の意識の中に自己があり、意識を決定する大脳に自己を決定する機能があると思われていたのです。

 しかし最近の生命科学によって、この問題が解決されました。
 あらゆる自己でないものから自己を区別し、人のアイデンティティを決定しているのは大脳ではなく、免疫系だったのです。
 大脳は意識によって免疫系を拒絶することが出来ませんが、免疫系は大脳であっても自己でないと判断すれば脳細胞を異物として拒絶することが出来るのです。

 それぞれの人の全ての細胞表面には、自己であることを区別するそれぞれの旗印(HLA抗原)が掲げられています。免疫細胞の司令官といわれる「T細胞」が自分と異なった旗印の細胞を発見すると、様々な手段を用いて攻撃を開始し排除します。
 おかげで自己はバイ菌やウィルスの侵入から守られ、ガンや寄生虫を攻撃して、命が守られるのです。

 臓器移植などの治療において、移植を成功させるためには、強力な免疫抑制剤を投与し続けて「T細胞」に発見されないように「T細胞」の活動を抑えなければなりません。
 臓器移植の成功は、生涯「自己を否定すること」であり、本来的にありえないことかもしれません。
 しかし、医学はどんどん良い方向に進歩します。例えば自分自身の臓器を再生する「再生医学」があります。

 人が生まれる瞬間、受精し分化を始めた時の細胞は「未分化細胞」といわれ、人体を構成するあらゆる臓器骨格に変性することが出来るのです。この未分化細胞を胎児から取り出し、凍結保存しておいて、将来臓器(心臓)に欠陥が出た時、保存していた未分化細胞を、ある誘導物質の条件設定で培養すると、必要な臓器(心臓)が形成されるというのです。

 この臓器を移植すれば免疫反応は起こりません。臓器細胞には自己の旗印が掲げられており「T細胞」が自己の臓器として認識するからです。

 皮膚は自己と非自己の境界にあって、自己という命を守る大切なバリア機能を担っています。
 バリア機能の衰えは、自己の老化であり、死を意味します。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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