範疇

 昨日リストカットをした。それ以上でもそれ以下でもない事実だった。切っているときに耳にかけていた髪がパラリと落ちてきた。腕に生理用ナプキンを当てている姿は滑稽だろうなあとぼんやり思っていた。結局なぜ切ったかはハッキリしないけれどきっかけは初めて行ったバイトでの失敗だろう。

 夏休みの間、部活にも行かずにずっとスマホを見て好きなことをしていた。私は高校に入ってすぐに壊れた。念願の美術系学校、四十人という限られた枠の中にどうにか滑り込んで安堵と期待を持って笑顔を作っていた。

 思ったようにいかなかった。気付けば休みがちになった。自己嫌悪が募って初めてリストカットをした。今までは爪でガリガリやるだけだった真っ白い腕の内側に赤黒い傷ができた。切った直後は気分が晴れて、それが心地よかった。

 学校が嫌なんじゃない。多分そうだ。私が嫌っているのは昔から自分自身だけで、周囲に問題がある訳ではないと思う(ただ母親にはよく殴られたり蹴られたりしたからそれは嫌だったけど、今思えば自分にも非があった気がしている)。それなのに学校に辿り着けなくなった。絵が好きで描くことに幸せを見出しているはずなのにその幸せから逃げていた。そのうち電車から降りられなくなった。心臓がバクバクしてハァハァいいながら座るのみだった。

 休んでいることが親にバレて精神科に行った。薬を貰った。飲んだら気分が良くなる気がした。でもまた行けなくなった。腕の傷は多く深くなる。憧れた制服のポケットにはずっとカッターを入れっぱなしだった。

 色々あって今。病院を変えようとして、新しい病院に電話するのを先延ばしにし続けていたら夏が終わりそうになっている。部活には一回も行っていなくてデッサンのやり方も忘れた。

 私はデッサンだけはそれなりに上手い方だった。でもデザインは苦手だった。ゼロから一を生み出せないから。周りの人と比べられるのが恐ろしくて授業に出るのが憂鬱だった。自分の頭で考えることがむずかしい。お手本がないと何もできない、正解がないと何もできない。そんな人間だった。

 いつも誰かが行動してからじゃないと動けない。自分だけ失敗をして笑われるのが怖いから、おかしいと思われないように誰かの真似をすることに必死で、ビクビクと挙動不審になる。知らない場所で一人になるとパニックになる(友達と行ったバイトの休憩で一人になった途端息が上手くできなくなって早退した)。性格の問題だろうか。

 夏休み、あと数日で終わる。終われば学校がある。私は絵が嫌いなわけじゃないから、ちゃんとこの学校を卒業したい。できるかな。どうだろう。頑張れるかな。頑張るしか道はない。こんなに休んだんだから。今頑張らないでどうする。そう。頑張れよ。ダメ人間なりに努力しろ。

 不安です。将来が全部まっくらで、希望がない。良いイメージの一つもありゃしない。それでも、好きなダンスグループのライブがもっと見たいからどうにか生きていたい。どれだけ死にたくっても、どれだけ腕が血まみれでも、彼らが引退するまではヒエラルキーの底で、唇を噛んで、まともなふりをして息をしていたい。

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