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こんなお酒も楽しいじゃないの、と思った日

週末4日間、娘のオランダ留学時の友達でフランス人のアナエ(ANAELLE)が遊びに来ていた。

留学時代の友達同士でお互いの家に泊まりに行くのはごく普通で、彼らは、「ちょっとソコまで」の感覚で国境に関係なく、バックパック片手に行ったり来たりしている。

我が家には、最近、息子たちの彼女たちも週末になると遊びに来るので、この年代の子たちがやって来るのは、「はい、また、お一人様ご案内」程度の緊張感。

「こまんたれぶー」

文字通り、日本語にしか聞こえないフランス語で挨拶してみたら、フランス語の返事が槍になって降ってきた。言わんこっちゃない。出来ないものは出来ないと言おうよ。

娘より一つ年上のアナエルは、今まで遊びに来た子たちの中でも郡を抜いて気さくな子。笑うとニイィっと口元が大きく上がるのに、真面目な顔をすると美人で知的。

子どもたちだけで、適当に、その辺にあるもので朝ごはんを済ませ、勝手に遊びに行って、勝手に戻ってきて昼寝。ベットがあるのに居間で寝ている。居間のほうが涼しいらしい。タンクトップに、おパンツが丸見え。

娘が同じような感じなので、我が家のメンズは慣れっこなのだけど、22歳のスタイル抜群ピチピチ金髪女性が、無防備な姿で転がっているのだから、慣れないメンズには拷問だろう。

到着翌日は、朝からオムレツを焼き、生ハムをサンドしたバゲットを持って、娘と共に初海水浴に出かけて行った。

夜7時頃になって戻ってきた彼女たち。
案の定、ビキニで隠れていた部分だけ真っ白で、残りの部分は真っ赤。まるで、茹で上がったブラックタイガー。

「アナエル、エビみたいやん!」

と言ったら、エビになってピクンピクンと跳ねてくれた。

なんてノリの良い子なの!

背中も肩も真っ赤だったので、アフター・サンバームを塗ってあげたら、肌が一気に冷却されたのか、はぁ~と、蕩けていた。

魚介類が食べたいというリクエストに応えて、ウェルカムディナーはムール貝の蒸し煮、大アサリのグリーンソース仕上げ、エビの塩茹でなどを準備。食べ始めると間も無く、アナエルが爆弾発言。

「ワイン、少~~しだけ飲んでもいい?」

フランス語で言ったので、正確に何と言ったのかわからないのだけど、内容だけは確実に理解した。そう、「水なんかじゃなくて、ワインを次いでよ」とおっしゃった。

家でワインを飲むのは私たち夫婦。息子たちも成人しているけれど学生でもあるの、家では特別の日に乾杯するぐらいしか飲まない。第一、家に遊びにきた子がワインを飲みたいだなんて全く予測の外れ。みんな水かソフトドリンクなのに。

でも、驚きよりも、それだけリラックスしてくれているのだと思うと嬉しくなった。

「もちろん、いいよ!一緒に飲もう!」

彼女と娘のグラスをワイングラスに取替えて白ワインを注ぐ。一口、ワインを飲むと、アナエルの大きな目がさらにクルミのように大きくなった。

「コレ、大好き~! バレンシアのワイン、美味しい!」

マズイ。この子は飲むタイプ。
夫は慌てて追加のワインをもう一本、冷凍庫に冷やしに行った。

それからは、彼女の両親もワインが好きで、いつも家で飲んでるという話にはじまって、「バレンシアに来る前はポルトガルに寄ってきた」「たくさん歩いて靴擦れが痛いの」とか、「パリの空港から15分の場所に家があるからいつでも来てね」「そうだ、フランスにもアリ・オリがあるんだよ」とテーマが次から次へと変わる。ちょっと酔っ払った娘も騒がしく参加して、完全な飲み会。

トロンとした目つきのワイン初心者二人。何故か、手で殻を外したエビの塩茹でを、わざわざ箸を使って醤油と山葵で食べるのが好きな夫の真似をして、エビを箸で掴みあげたら醤油の中へ急落下。テーブル、醤油だらけ。

「エビ、生きてる」

ちがうやろ……。
負けずに今度は箸でポテトチップスを摘まんでいるアナエル。

彼女が、お土産に持ってきてくれたミニ・フィナンシェもテーブルに出してみた。プレーン、チョコ、ピスタッチョ、いちご味の4種類。
んまい!

「とれびやん」

と、凝りもせずに言ってみた。
飲んでいようがいまいが、やっぱり「おてもやん」くらいにしか聞こえない。アナエルに軽くスルーされた。

もう、何をしても楽しい。箸が転んでもおかしい年頃が再来したみたいに。彼女たちのピュアでパワフルなエネルギーは、そんな年頃があったことすら風化してしまったオジサンとオバサンにも伝染してくる。

そんな彼女たちをみて思う。

お酒にはいろんな楽しみ方がある。
大人同士で静かに飲むお酒も、昔の同級生と集まって世間話に花を咲かせながら飲むお酒も、料理をしながらキッチンで飲むお酒も美味しい。

でも、こうして世代を超えて飲めるお酒も、想像以上に楽しい。

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