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ニンニクとオリーブオイルを使ったソース(伊)アーリオ・オーリオと(西)アリ・オリをDNA鑑定してみる

ショッキングな出来事があった。

今さらながら、パスタ料理の 『ペペロンチーノ』の正式名称が、アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノであると知った。無知が丸出しで恥ずかしいのだけれど、この際、開き直ることにする。

パスタ料理の代表ともいえるニンニクと唐辛子を効かせたオリーブオイルソースのシンプルパスタ『ぺペロンチーノ』。

何度となく食べているのに、まさか正式名があったとは知らず、おまけに、普段から食べ親しんでいるアリ・オリ・ソースの親戚筋だと知り、ちょっとショックを受けてしまった。

例をあげれば、自分の彼氏の従兄弟が実はキアヌ・リーブスだったような気分……。

スペインとイタリアのソースの違い

スペイン人にとってアリ・オリとは、ニンニクとオリーブオイルをベースに作るモッタリとしたソースを指し、ニンニクもオリーブオイルも全く加熱しない生のまま。

モルテロ(乳鉢)でニンニクを潰し、クリーム状になったところでオリーブオイルを少しずつ加え入れて乳化させる調理法で、バレンシア一帯では魚介系のパエリア、カタルーニャにおいては魚介料理他、面白いところではカタツムリ料理にまで付いてくる。

これに対してイタリアのアーリオ・オーリオは、スペインでいうようなソースとして独立したものではなく、ぺペロンチーノを例にすると、ニンニクと唐辛子を弱火で加熱し、パスタの茹で汁を少量加えて乳化させて作るオイルソースとなっている。

アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノについては、私ごときの貧弱な文型頭脳では科学的にレシピ分析ができないため、敬愛する樋口直哉さんのnoteをお借りする。(樋口さん、勝手にお借りしてすみません。)

つまり共通点は、ニンニク、オリーブオイル、乳化というポイントしかない。しかし、ネーミングが同じで両国に同様の乳鉢が存在することを考えると、起源が同じものであるという可能性は強い。

早速、世界の食文化オタクの一人として首を突っ込んでみる。

ソースの歴史

時代は古代エジプトにまで遡る。この頃から既に、穀物を砕いたり、薬を調合するのに使われた乳鉢や、ニンニクとオリーブオイルを使ったソースの原型らしきものが食されていた形跡があり、以後、ローマ人の手によりイタリアをはじめイベリア半島に持ち込まれた。

イベリア半島南西部のアンダルシア(アリカンテ辺りという説も存在する)を起点に北上し、フランスやバレアレス諸島に伝わったものとされ、現在のスペインのアリ・オリが、古代エジプトで食されていた原型に近いとされている。

面白いことに、スパイスやハーブを磨り潰すことを目的とする乳鉢の使用方法は、ヨーロッパ諸国で今もなお受け継がれているのだけれど、隣国イタリアでは、ある時点からニンニクとオリーブオイルのソースと乳鉢は別々の道を辿り始めたらしい。

スペインのアリ・オリのように加熱をせずに磨り潰すだけのソースは、イタリアにおいてニンニクとオリーブオイル、さらにバジルとチーズを加えるペスト・ジェノベーゼを除いてほとんど見当たらないのだけれど、イタリア食通の方、いかがなものだろうか……。

ネーミングから見る各地方・国のニンニクとオリーブオイルのソース

alioli     カタルーニャ語
allioli    バレンシア語
ajolio    アラゴン州
ajoaceite バレンシア州、ムルシア州、アルバセテ州でのカステジャーノ語
aïoli   プロバンス地方-フランス
aglio olio   イタリア語

スペイン各地および隣国での呼ばれ方を比較するとこうなる。

いずれもニンニクを意味する ajo, ali, alli, aï  とオイル(この場合オリーブオイル)を意味する oli, olio の複合語となっていおり、この他にもajiaceite, ajaceite と場所により微妙に変化する。

ところが、いずれもニンニクとオリーブオイルからなる生のソースで、イタリアのアーリオ・オーリオだけが加熱調理するオイルソースになっているのが気になる。

そこで、共通点であるニンニク、オリーブオイル、乳化の中から思い切って三つ目の乳化を削ぎ落とし、単純に、食材としてのニンニクとオリーブオイルにポイントをおいてみる。

アーリオ・オーリオとアヒージョの関係

ガーリックの効いた良質のオリーブオイルで好みの食材を調理するスペイン料理アヒージョをご存知ないだろうか。

グツグツと煮えたガーリックオリーブオイルの中で踊るエビやシャンピニオン。食材から滲み出る旨みが溶け込んだオリーブオイルソースを残すのは厳禁。すっかり具の無くなったオリーブオイルもパンに浸して一滴残らず胃の中へ。

いつの間にか『日本アヒージョ協会』とやらも誕生したようで、日本の食材を使った「牡蠣」「シラス」に「明太子」入りのアヒージョなんかも登場し、本家本元のアヒージョどころではない騒ぎになっている。

この料理だが、アヒージョAjilloというのもやはりニンニクを意味する。

ネーミングからすればオリーブオイルの存在が無視され、アヒージョの定義は「ニンニクやその他の食材を使ったソースの類」であるので、オリーブオイルの影はやはり薄い。

ただ、調理面から言うと、世界有数のオリーブオイル産出国というお国柄、ニンニクを低温でじっくりと過熱して香りを出す際にオリーブオイルを使用するのが一般的で、同時に唐辛子を加えるレシピも多い。

つまり、本質的には、名前の語源が同じアリ・オリよりも、アヒージョのほうがずっとアーリオ・オーリオに近いことになる。

名前に囚われていたのでアーリオ・オーリオとアリ・オリは親戚だという根源を探していたのに違ってしまった。

何だか、キアヌ・リーブスのDNA鑑定をしてみたら、実は彼の父親が隣のおじさんだったというような衝撃。

ともあれ、読んでいただいた方には、次にイタリア料理かスペイン料理を食べに行った時に話すネタが増えたのではないかと思う。

ところで、イタリアではどうしてジェノベーゼ止まりになってしまったのだろう?

地中海を挟むギリシアではどうなっているのだろう?

あなたの知らない世界だらけの食文化。
首を突っ込んだら抜けなくなる面白さ。

ネットを使って簡単に世界を繋げられる今の世の中。
四方八方に散らばった食文化の糸先を繋げていけたら絶対に楽しいに違いない。

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