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【フィデウア】失敗が生んだ奇跡の傑作スペイン料理があった

何気なくつぶやいたパスタのパエリア「フィデウア」が、予想外に珍しがられているので、ちょっぴり紹介しておこう。

パエリアとは

この料理を簡単にまとめると「パスタを使った魚介のパエリア」となる。でも、これだけでは脳裏に『フィデウア』が浮かんでこないはず。まず、「パエリア」とは何なのかを知っておきたい。

「パエリア」とは本来、バレンシア一帯で米料理を作る時に使った取っ手付のある平底の浅い鋼製の調理器具の名前に他ならない。フライパンの事を「サルテン=sartén」と呼ぶのだが、私の義母は普通のフライパンのこともずっとパエリアと呼んでいた。「サルテン」のラテン語が「パエリア」なのだそうた。ただ、一方では、米がアラブ経由でスペインに伝来したことから、アラビア語の”baqiyah”が語源ではないかという説もあるので真偽のほどは分かっていない。

つまり、このパエリア鍋を使った米料理が「パエリア」と呼ばれている。感覚的に、お鍋で作る料理が鍋料理で、「今晩は寒いし、お鍋が食べたいなぁ」というのと同じだと思えばいい。

米料理の呼び名について

ここで気になるのが米料理の呼び名。スペインでは、素材の米そのものを意味するスペイン語が「アロス=arroz」で、米料理も同じく「アロス」と総称されている。ちなみに、スパゲッティやマカロニなど全部が「パスタ=pasta」で、パスタをつかった料理は全部ひっくるめて「パスタ」と呼ばれている。

先ほどと違って、調理器具ではなく食材そのものの名前が料理名として使われている例である。

では、パエリア鍋で作った米料理「アロス」は全部「パエリア」なのかというと、そうではない。パエリア鍋で作った米料理でも「アロス」と呼ばれるものがあるのだ。

いくつか例を挙げてみたい。

Paella Valenciana(バレンシア風パエリア)
Paella de marscos(魚介のパエリア)
Paella Mixa(ミックスパエリア)
Arroz Negro(イカ墨のパエリア)
Fideua(パスタのパエリア)

現地の米料理専門店には、こういったメニューが並んでいる。先の3品は説明のとおりパエリア鍋で作られた米料理で「パエリア」の名がついている。しかし、特に5番目に注目してほしい。「パエリア」でも「アロス」でもない怪しげなネーミングが登場する。「フィデウワ」である。

『フィデウワ』誕生説

商売上手のバルセロナ人によって、パエリアの故郷がバルセロナであるかのように世間に知られてしまっていることも多いのだけれど、パエリアにの発祥地はバレンシア近くの片田舎。15世紀から16世紀、農牧人たちが、手持ちの食材で簡単に作って食べられるものをと、大きなフライパンで自分の畑で取れた野菜、小屋で育てた鶏や兎を使って米を炊いていたのが始まりだとされている。おそらく、出来上がったパエリアをそうして食べたのだろう、バレンシアでは、一つのパエリアを木のスプーンで突っつきながら食べる食文化が残っている。

これに対して「フィデウワ」は、バレンシアからさらに南の海岸沿いの顔ディアという漁村で、赤海老や手長海老、アンコウの切り身などでパエリアを作っていたところ、後は米を入れるたけという時に肝心の米がないのに気がついた。そこで、苦し紛れに米の代わりに小さく折ったパスタを入れたのが事の始まりらしい。このことから、「フィデウワ」の名前は、細身のバーミセリパスタ「フィデオ」に由来している。

どこにでもオッチョコチョイはいるもので、そういう人のお陰で、偶然、誕生する料理というものが実はたくさんある。リンゴの酸味とカラメルがたまらない「タルト・タタン」の原型が、落っことして逆さになったアップルパイだったというのは有名な話である。あぁ、愛すべきオッチョコチョイ。

本場の『フィデウア』

そう言えば、数ヶ月前だったと思う。東京で本場の味を出来るだけ忠実に日本で表現したいと頑張っているスペインレストランの知り合いから問い合わせがあった。

本場のフィデウワは海老がメインで全体的にサフランと海老でオレンジっぽい仕上がりになり、具も豪華で彩色鮮やかなパエリアに対してビジュアル的に劣ってしまう。メニューに表記する時に、「魚介のフィデウワ」と書くと、どうしても「魚介のパエリア」と比較してしまって、料理とのイメージギャップが出てしまうという相談だった。

なるほど。初めてだったり、恥ずかしがり屋のお客さんだとメニューで勝負をすることもあるわけだから、一発で心を射抜くコピーを考えないといけない。策として、必要以上に魚介を想像さえないように、「海老」にポイントを置いて、アリオリソース付にしてみるのはどうかと提案しておいた。

きっと彼らのことだから、伝統を踏まえた、且つ、センスのいい「フィデウワ」として紹介してくれているのだろう。

ここまで書いておいて言うのも何だが、投稿写真の「フィデウワ」には実は小さいムキエビが入っているのだが存在感なし。失敗。ケチってはいけない。

しかし、メッカと呼ばれる場所の「フィデウワ」というのは本当に地味なのだ。写真を見て友人が言う。「スペインのソバメシみいなもん?」

以前、米が足りず、パスタで補足してパエリアを作ったことがあったとは言わないでおこう。ただ、万が一、数十年後に日本で「ソバメシ・パエリア」が流行ったら、著作権は放棄するのでコソッと教えて欲しい。

(そんな事よりも私は、イカ墨のパエリアだけどうして「アロス」なのかが気になって仕方ないのよ!)

という、重箱の端をつっつくのが大好きな食いしん坊の方々。そのうちどこかでご説明するのでお楽しみに。

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ご安心を!パエリアの話は一筋縄では終わりません。

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ハルコ / スペイン発891便

スペイン在住。食品・食器輸出/ライフ&グルメライター/食コーディネーター。ワイン片手にアラフィライフ満喫中のラテン系関西人。スペイン『食』を日本に伝える会社『オルカ・スペイン』代表 自称:バレンシアのオカン お問い合わせはこちら→hkataoka@orkaspain.com

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