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バレンシア陶器祭り ~ ふらり散歩

皆様、ようこそ。
本日は、スペインの陶器祭りにご案内します。

《本日の訪問地:マニセス(バレンシア)SPAIN》

バレンシア市の国際空港の位置するマニセスは、「パテルナ焼き」「アルコラ焼き」と並ぶバレンシア三大陶器の一つ「マニセス焼き」の産地として知られている小さな町。

例年、この町では、陶器祭りが数日にわたって開催され、目抜き通りには数々の店が立ち並び、小さな工房やアーティストたちの作品を直に購入できる機会として、知る人ぞ知るレアなお祭りとなっています。

ここで少し、歴史について触れておきましょう。
お楽しみ前の頭の体操だと思って、お付き合いください。

地中海を隔てたアフリカ諸国や中近東諸国とヨーロッパ諸国を繋ぐ玄関口であるイベリア半島へは、古代より様々な民族が足を踏み入れ、何世紀にもわたって征服、奪回を繰り返してきた。その中でも、8世紀にも及ぶイスラム支配による影響は、現在でも文化・芸術面で根強く残っている。

後ウマイヤ朝の支配下(756-1031)にあった頃より、既にマニセスは陶器の生産拠点であり、アラブ人たちの陶芸文化は、イベリア半島の南玄関口であったアンダルシア地方からバレンシア地方のマニセスの町へと伝わっていった。

陶芸に適する良質な土と、灌漑用水路を有するという条件に恵まれたマニセスの陶器は、14世紀にはバレンシアの重要な産業として発達し、以降、この地を起点にイタリア、フランス、トルコをはじめとする地中海沿岸諸国、果てはバルト海沿岸諸国にまで輸出されるようになっていったという。

バレンシアは、13世紀にアラゴン王ジャウマ1世の手によってイスラム教徒からの国土奪回を成し遂げられたが、当時、アラゴン地方やカスティージャ地方で盛んであったキリスト教建築様式とイスラム教建築様式文の融合によって誕生したムデハル建築様式の片鱗は色合いやモチーフとしてタイルなどの装飾物にも取り込まれている。

焼き物の絵柄にご注目。ローマ風の野鳥や小動物、城やガレー船といったモチーフに、唐草模様や幾何学紋などが組み込まれ、西洋的なデザインとイスラム文化のエッセンスが絶妙にミックスされているのがわかります。

素朴でシックな色合いが印象的なソカラッツは、マニセスに伝わる伝統的な焼き方。ソカラッツという呼び名は、パエリアでは鍋底の「おこげ」の部分を指す名前と同じ。この日は、木枠に入った壁かけや、ペンダントなどの装飾品も露天販売されていました。

写真の左右に見える薔薇の花をモチーフにしたイヤリングやチョーカーも全て手作りの陶器たち。「えっ、安っす!」を連呼することになるので、しっかりと財布の紐を玉結びにしておくことをオススメします。

少し前に、スペインのアリ・オリについて書きましたが、アリ・オリ作りに必須のモルテロ(乳鉢)も並んでいました。絵柄は一つ一つ手描きです。

よく見ると、モルテロの上部の四つの突起のうちの一つに溝があるのがわかるでしょうか。アリ・オリを作るときに、少しずつオイルを注がないと分離してしまうため、オイルをこの溝に沿わせながら、モルテロの中に注いでいくための工夫がされているのです。

手の込んだ装飾要素の強いヨーロッパ的な新しいスタイルが誕生するのは20世紀以降。写真のような大掛かりな香炉も、当時は多く作られていたようです。

更に、面白い作品を発見したので、いくつか紹介しておきます。

お洒落な蚊取り線香立てと香立て。蚊取り線香が必要ない時期にはオブジェとして飾っておけます。蚊取り線香、あるんですよ、スペインに。

焼き物の特性である極小の気泡穴を利用した浄水器。耐熱性も非常に高いので、冷たい水を入れておくと、かなりの時間キープしてくれるスグレモノ。

ミニチュア好きにはたまらない陶器セットは25€也。

バラッカと呼ばれるバレンシアの農家を象ったミニチュア。ちゃんとオレンジの木がある。いろんなバージョンがあって見ているだけで楽しい。

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こちらは作業風景。
期間中は、無料陶芸体験ができたり、普段はなかなか見れない作業工程を見れたりする。

交差させながら網んでいく陶器。寸分違わず綺麗に編みあげていきます。


絵付けをしている最中。手書きの絵が、焼きあがると鮮やかに生まれ変わのです。


薔薇の花のアクセサリーを作るおばあちゃん。横にいるのはお孫さんで、おばあちゃんが作るのを見よう見まねで作っているのが微笑ましい。

編み模様の陶器を製作するのにパスタマシーンを使うとは目から鱗。細いスパゲッティーを編んでから成形していきます。

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しかし、驚きはこれだけではなかったのです。

小さなテントに老若男女が挙って列を作っているので立ち寄ってみたら、
なんと、なんと、なんと!

アリ・オリ コンクールが開催されるんです!

もう、荒くなった鼻息と一緒に、火まで噴きました。


やるわ!アタシ!

優勝しなくても、テレビくらいには出れるかもしれない!!


しかし、運命とは皮肉なもの。

「そろそろ行かないと、晩ご飯の予約に間に合わんで……」

と、背後から消防士登場。メラメラと燃えていた炎は消え、自分の顔がモノトーンになり、目の前に黒い縦線が何本も一気に降ってきました。

そ、……そうやった。予約があった……。
無念じゃ……。

後で聞くと、やる気満々だったのがバレバレで、身の危険を感じて早めにストップをかけたらしいです。また、晩ご飯がなくなると。

実は、すでに参加費を握り締めて、空席もチェックしていたことは内緒。次回はストップかかかる前に申し込んでやる。

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いよいよ、コンクールがスタート。
参加者全員、一心不乱にアリ・オリを作る。
潰す!擦る!オリーブオイルを加えてまた擦る!!

あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


それにしても、ラフなスタイルとは対照的に、強烈な気合がスゴイ。
何でもないことに気合を入れすぎて、肝心な時に気合が入らない素敵なスペイン人たち。

陶器好きの方も、そうでない方も楽しめるバレンシアの小さな陶器祭り。観光ガイドには載らない面白さが隠されているんです。

きっと、来年もここに来る!

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