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『正チャンの冒険』読者投稿欄のご紹介(6)

おはようございます。季節の変わり目で寒暖の差が激しい日が続きますが、皆様くれぐれもご自愛くださいませ。正チャンは100年以上経った今でも変わらず元気です!今回も読者投稿欄を紹介させてください!


朝日新聞 1924年3月21日朝刊

正チャン僕の住んでいる北朝鮮にも来てください。虎もいます、またクテという狼みたいな動物もいます、早く退治に来て下さい。来ると決まれば僕は同級生にそういって皆でご案内いたします、そうしてステーションまで僕らはお迎えに出ます。僕は今脱腸の手術で入院していますが、もうじき退院しますから、それから大いに活動するのです、では待っていますよ

朝日新聞 1924年3月28日朝刊

記者様、只今東京は塵がひどいとのことその中でご活動をなさる皆様はさぞかしなみ大抵の事ではないでしょうね、お身体をご大切にご勤務をなさいませ。一度正チャンとリスさんを連れて大連へ見物に来て下さい、その時はおいしい支那料理をご馳走いたします。終に皆様のご健康を●に大連の空よりお祈り致します、皆様へよろしく

時代的なこともあるのでしょうが、いろいろなところからお手紙が来ていて、正チャンの活躍がワールドワイドになってきています。このほかにも樺太などからもお手紙が届いておりました。

活躍のワールドワイド化に伴って、次のような投稿も来るようになってきました。

朝日新聞 1924年4月23日朝刊

私たちの親愛なる正チャン、今アメリカで排日運動が大変盛んなそうですが、この日本の善良な小国民の総代となってアメリカに行って下さいな、そうして「世界の国民は皆仲良くしましょうよ」って言って下さいな、正チャンならどんな人でも、きっと聞き入れてくださるわ、待っててよ。

朝日新聞 1924年5月6日朝刊

機知と胆力情誼に富む正チャンを一冒険家で終わらせては日本の大損失であります、外交界不振の折から是非外交官になって真に情誼厚い国交の回復を計って下さい

その愛される人柄や、情けぶかさ、冒険に向かう勇気、困難にめげずに立ち向かう精神力等を買われ、アメリカその他の諸外国との外交に是非正チャンを、とのご意見です。

当時の国際情勢の一端を垣間見れ、すごく興味深いとともに、正チャンの読者からの評価の高さに驚きます。近年でも一世を風靡し、国民的キャラクターといわれるようになったキャラは多数登場しましたが、彼 / 彼女 / それを政財界へという声はあったでしょうか??

ドラ○もん、クレヨンし○ちゃん、サ○エさん、ちび○子ちゃん、両○勘吉、コ○ン、悟○、ル○ィ、炭○郎、、、皆 全国民に愛されるキャラクターですが、外交となるとどうでしょう?ギリギリし○ちゃんがいけそうな気がしなくもないですが、疲れてるせいかもしれません。

ということで、まんがの世界を飛び越えて活躍を期待されるキャラクターも珍しいと思います。正チャンがいかに当時の人々に愛されていたかよくわかる投稿ですね!

さらに正チャン待望論は外交問題を超え、政治経済全般に及びます。

朝日新聞 1924年4月6日朝刊

正チャンとリスが一生懸命に活動してくれるにつけ今の世の人心の荒び方に気づく、思想善導、やれ精神作興などなど巷にラッパを吹いて叫ぶものがいくらあっても、人心に深い哲学なり宗教が芽まないとだめだ、けれども今は高い理想は後回しにしてまず衆生を度すために日常の経済生活をずっと安く楽にしてくれればそれでよい、人心はみるみるうちに太平を祝うようになる、衣食足って礼節を知る文化の開発もそれからのことだ


朝日新聞 1924年4月11日朝刊

正チャン、ちかごろ非常に人の心があらび、落ちつきがなくなりましたからあの「ハルノウタ」の国にかけた黄金の鐘をはこびおろし力一ぱいうちならして楽しい気持ちにさせて下さい。


ただ一方で上の1924年4月11日朝刊には、このような正チャン待望論に待ったをかける投稿も掲載されています。

正チャン僕はフンガイすることがある、それはこのメモ欄にこの頃大人が乱入して小面倒なことを言う 僕は心外に耐えない、以後かかる子供の世界の撹乱者は追い出してしまえ

マ、マ、マ、マッタ、マッタ、腹を立てないで下さい、子供になってくる大人や、子供さんにも聞かせたいと話しに来る大人は大抵のことは子供の●●を見せて仲間に入れてもいいでしょう(記者)

外交や人心の荒びが「小面倒」ってことはないでしょうが、子供たちのヒーローである正チャンを大人の世界に巻き込まないでくれとのご意見ですね。記者さんもタジタジです。

いずれにしても、当時正チャンが、老若男女を問わず、愛され、何かを期待される存在であり、非常に大きな存在感を持っていたことが感じられます。

そしてその反響の大きさゆえ、批判的なご意見もいただくこととなります。

朝日新聞 1924年4月16日朝刊

正チャンの絵は漫画として全く値うちがない

画は総て漫画だときめ込んだら間違いますよ、お伽正チャンは新しい試みの「絵ばなし」です(記者)

「全く値打ちがない」とはかなり厳しいお言葉ですが、これは、正チャン以前で「漫画」というと、主に一枚絵の風刺画(社会や政治を風刺した画)が多く、そう言った意味で子供向けのファンタジーである「正チャンの冒険」は価値がない、と言った趣旨ではないでしょうか(研究者ではないので、間違っていたらすいません・・)?

記者さんも、正チャンは従前の風刺画とは異なる「新しい試みの「絵ばなし」」なんだと返答しています。

このやりとりでも正チャンの冒険が、当時かなり画期的な作品であったことがわかります。

この辺りの事情に興味がある方は、川崎市市民ミュージアム学芸員の新美琢真さんによる記事も合わせてご確認くださいませ。

さて、今回は思いもかけず、全体をとおしてかなりシリアスな展開になってしまいましたので、最後に皆大好き・メタ的な小ネタで締めくくりたいと思います。

朝日新聞 1924年3月18日朝刊

正ちゃんの妹ちゃんも出してちょうだい

正チャンには兄弟も姉妹もないのです。どうぞ仲良くしてやって下さい。(記者)

正チャンには兄弟姉妹はおらず、一人っ子であることが判明しました!また、投書では「正ちゃん」となってますが、記者の方からの返答では「正チャン」となっており、こだわりある正式名称として、チャンがカタカナの「正チャン」が使用されていることがわかります。

朝日新聞 1924年5月4日朝刊

正チャンのほんとの名は何と言うのですか、それからリス君には名がなくて可哀そうですから、よい名をつけてあげて下さい。

正チャンはやっぱり正チャンと言わないと返事をしません、リスの名ですか・・・そうですね利助もおかしいな(記者)

皆も気になる正チャンの本名ですが、ぼかされてしまいました。判明せずです。リスについては、シンプルに「リス」が名前だと思っていたのですが、違くて、名前がないようですね。もう皆に「リス」と呼ばれているのでそれでいい気もするのですが。。危うく「利助」に決まりかけてますが、もしそうなっていたら、今までリスと呼んでいた正チャンがどうやって呼び方を突如変えるのか、、、その展開も見てみたかった気がしますね!