見出し画像

『正チャンの冒険』における正チャンのルックスの変遷 【後編】

こちらの記事は【後編】です。前編はこちらから。

前編では1923年8月31日に、掲載誌であるアサヒグラフが廃刊となり、それに伴って連載が中断してしまったところまでをご紹介しました。少し復習しておくと、以下のような特徴がありました。

  1.  顔:ほうれい線(っぽいもの)が強調されて描かれており、イメージより少し年齢が高め(誤解を恐れずに言えばオッサン)に見える

  2. 帽子:どちらかというとTPOを弁えた服装を心がけているようで、今では象徴のように思われている正チャン帽もたまにしかかぶっていない

後編では、その後1923年10月20日から、朝日新聞に活躍の場を移し、心機一転・連載再開されてからの正チャンの見た目の変遷についてご紹介していきます!

まず記念すべき連載再開第一回目(通算191話目)ですが、久しぶりに正チャン帽で登場し、我々を安心されてくれました。正チャンの復帰を街の人も心から祝っており、大はしゃぎしている様子が描かれています。

『正チャンのばうけん』第191話(「朝日新聞」1923年)

そして迎えた通算246話目。んっ!なんかこれはかなり正チャンっぽい!!というかその前からずっと本人なのですが、この正チャンはかなり我々のイメージする「the・正チャン」という感じがします!

『お伽 正チャンの冒険』第246話(「朝日新聞」1924年)

それまでのニット帽は塗りつぶしがされていることもあって、形状の詳細はわからないのですが、どうやら裾の部分の折り返しがない(もしくは目立たない)タイプ(以下「シングル」といいます)のように思われます。それに対し、本話のニット帽は折り返しががっつりとされているタイプ(以下「ダブル」といいます)で、そのことによってかなり正チャン度が高めになっているように感じます!!本話の掲載は1924年1月1日(元旦!!)とのことなので、連載開始より約1年を経て、造形としてはほぼ完成の域に入ったことがうかがわれます。

なお連載開始からちょうど1年後の正チャンの姿がこちらです。このときのシリーズの舞台が冬のモンゴルの砂漠ということで暖かそうな毛皮のコートを着用しています。1年を経てだいぶイメージが近づいてきましたが、まだきもち鼻の下が長めで、幼さの残る表情です。

『お伽 正チャンの冒険』第268話(「日刊アサヒグラフ」1924年)

その後、通算330話目で久しぶりにほうれい線ありの姿で登場します(何か政治家にも見えてきますね)。この頃になると服装に関しては、ダブルの正チャン帽にジャケット、ハイソックスも膝下で折り返すキリッとしたスタイルで、ほぼ完成しているのですが、この後もたまにこの顔が出てしまう時があります。緊張していると顔がこわばってしまうのかもしれません。

『お伽 正チャンの冒険』第330話(「日刊アサヒグラフ」1924年)


なお、余談ですが、同シリーズでは連隊長のコスプレでおもちゃの兵隊を勇ましく率いて作戦を成功に導く活躍を披露します。若干大男のように見えるかもしれませんが、これは突然成長期を迎えたのでも、威風堂々としたオーラがそう見せるのでもなく、単に比較対象となっている左側のキャラがおもちゃの兵隊だからです。

『お伽 正チャンの冒険』第330話(「日刊アサヒグラフ」1924年)

この頃は、正チャンの造形がほぼ完成したのに加え、お話の面においても「リスノオカアサン」や「ユメ(カゲエ)」など、かなり完成度が高いものが揃っており(個人的な感想です)、一つの正チャン黄金期であったのではないかと思います。

なお、その後も正チャンはいわゆる正チャンルックではなく、TPOに合わせたいでたちで登場することがありますが、この頃になると、どのような服を着ていても完全に正チャンとわかるようになっています。いわゆるキャラ立ちがしてきたということだと思いますが、特に特徴的なパーツがあるわけでもない(良い意味です)のに不思議なものですね。

逆にオトモのリスが正チャンの格好をする話があるのですが、こちらは服装は正チャンでも全然正チャンに見えません。尻尾が見えてしまっているせいでしょうか??

『水曜日の正チャン』第452話(「アサヒグラフ」1924年)

二度目の中断を経て1924年10月5日から連載が再開された後は、絵柄もストーリーもかなり洗練され、円熟の域に到達しているように見えます。

『お伽 正チャンの冒険』第492話(「朝日新聞」1924年)

そして連載開始2年半経過した1925年9月18日からスタートした新シリーズ(通算757話目)では、少し子供っぽく見えてしまう半ズボンをやめ、長ズボンにマンドリンという少しお兄さんないでたちで登場し、大人になりつつある姿を披露してくれます。

少年というより若大将といった趣のその姿。恋のひとつや二つしているのかもしれません。成長した姿が頼もしいような、少し寂しいような・・・。そんななか、1925年の10月31日でまた一旦連載は終了します。

『お伽 正チャンの冒険』第757話(「朝日新聞」1925年)

しかし翌1926年2月12日、タイトルも「正チャンその後」と新たに、朝日新聞誌上に正チャンが戻ってきました!そこではヒョウの毛皮を身に纏ったり、相変わらず世界を股にかけて冒険している姿を披露してくれ、我々をほっとさせてくれました(ヒョウの毛皮に関しては、実は○○なのですが・・・)!

『正チャンその後』第788話(「朝日新聞」1926年)

と、正チャンの見た目の変遷をまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか??マンガ文化自体が黎明期ということもあって、今よりも作中での変化が激しく、いろいろな想像をしてしまいますね!

正チャンの変化の激しさに対して、オトモのリスの造形が初回から最終回までほぼ変化がない点も個人的には興味深かったです。