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子宮/あこがれ/呪い

 子宮に自民党/統一教会の悪魔がいると思っていた。アンフェで出生賛美の悪魔が内膜をガリガリと削る。反出生主義の話をした月は、生理痛が悪化する。そのような馬鹿げた陰謀論を信じそうになるほどの痛みだった。
 どんなにラフに生きても毎月痛みはやってきて、その度に子宮のことを考えざるを得なくなる。しかしそれだけではなく、わたしは子宮に対してひとよりも多くの愛憎を抱いているような気がする。自分の詩のテーマにしたり、笹川真生さんの曲がすきだったり、バウマンに影響を受けて卒論を書いたりした。あるいは淫紋が描かれたポルノが好きとか、そういうくだらないことも入ってくるだろう。わたしにとって子宮はあこがれで、呪いだ。

 日記を書いていた。毎日書くわけではなくて、書きたくなったときだけだ。そこから子宮について書いていた部分を引用する。

2022/6/13(月)

バウマンの『レトロトピア』*1 について むずかしい言葉を使って平凡なことを言っていたなというのが正直な感想だった ホッブス「万人の万人に対する闘争」への回帰、資本主義の拡大(ポスト資本主義)による格差・不平等への回帰、同族主義への回帰、子宮への回帰の4章立てだった 未来か見えないから閉じて、もどって、排除して、回帰で過去を理想にって感じ まあそれはそうだよね 子宮への回帰は反出とフィルターバブルとかが関わってきてちょっと面白かった 生まれたくなかったということ、ユートピアとしての子宮 本質的な孤独と孤独に耐えられないということ 人はだれかに必要とされてはじめて人になれる、と聞きました そのときぼくは死にたいな、とおもいました*2 そんな孤独をまぎらわすために、ひとはナルシストになるらしい 自分について知りたくなるという PC診断もMBTI診断も自分を知りたいからやるんだと思う 既成の型にはめたがるような傾向は現代の傾向なんだとおもう ナルシシズムの先が完全な自己充足状態らしい それがフィルターバブル フィルターバブルのなかにも他者はいるけど、同質な他者はもはや自己とおなじということだろうか むずかしいけどおもしろい あまりよくないことだけど、みんなはだれかに罪の意識を投げてしまっている 生き急ぐ、死に急ぐ、切り刻むことがありきたりな型にはめられたらすぐにフェードアウトしてしまうかもしれない*3 保守に、過去志向になっていくわれわれにもはや未来はない、としたらかなしい

*1 ジグムント・バウマン『レトロトピア』

*2 在り処/ぼくのりりっくのぼうよみ(人はだれかに必要とされてはじめて人になれる、と聞きました そのときぼくは死にたいな、とおもいました)

*3 CITI/ぼくのりりっくのぼうよみ(生き急ぐ 死に急ぐ 切り刻む ありきたりな歌に消えてフェードアウト)

2022/8/1(月)

マジで腹痛すぎる 死ぬのかもしれない 寝れないし 一昨日くらいに反出生の話したから罰なのかな 子宮に自民党の悪魔でもいる? アンフェで出生賛美の悪魔が内膜をガリガリ削ってる 痛すぎゅ♡♡♡ ごめんなさぃ……♡♡ 産みましゅ♡♡♡ って言えば治る? 本当に助けてください ちな産まない

2023/4/25(火)

 親は確かに愛してくれていたんだと思うが、不仲な両親の橋渡し役にさせられていた感と親の完璧主義による良い子にしていないと愛されない感覚がずっと離れない わたしはクソ真面目に育ってしまって、逸脱したことは何一つやらなかった それすらもコンプレックスになった 知識だけは大人になってしまって、経験はひとつもない 結果的にコネも頼れる人脈もなくなって、これまた生きるのが下手だと悲しくなる インナーチャイルドは確実に苦しんでいて、今もそのまま存在する 良い子じゃないと愛されなかったはずなのに、良い子だと愛されない世界に来てしまった わたしは、わたしはちがう、ちがうんです ここじゃないはず じゃあ 何? もう子どもには戻れなくて、目を擦っても就活は立ち塞がっている ぜんぶ失敗、ぜんぶ失敗してしまったよ お酒をあんまり飲まなくて、タバコも吸わなくて、セックスもやらなくて、車にも乗れなくて、代わりに女児みたいなみずいろの服*4 を着ていても、身体の成長には押し流されていく

*4 天使界隈(女児みたいなみずいろの服)

2023/8/16(水)

君生き*5 を見た エディプスコンプレックスとマザーコンプレックスがぐちゃぐちゃになっている映画だと思った それは気持ち悪いけど、それをさらけ出す勇気は私にはないから、多分宮崎駿は結構凄いんだと思う
母性のディストピア*6 を読んだ事は、確かに役立った てか母性ディストピアを読んで、私って結構ジブリの作品見てたんだなーって思った 思えば初めて見に行った映画もポニョだった パパとママといった気がする 弟はいたか覚えてない そこでも書いてた通り海はママなのかもしれない
真生さんの音楽を聴く上で、海と子宮と言うモチーフに自覚的になった(もしかしたらデスストランディングのせいかもしれないが、さらにということだ) 滞る夜*7 では海はママじゃないって言ってる でもだれかのうみ/さまよって*8 の英語タイトルはOnly the light is a real virginで、歌詞の「あの光だけが本当に処女で」と言う部分が抜き出されていた 実はこの映画を見て思い浮かんだ曲がこの曲だった 誰かの海をさまよう事は多分禁忌で、もしかしたら宮崎駿の海もさまよってはいけなかったのかもしれない 戻れなくなるから、戻れなくなるから、戻れなくなるから! 映画館から出てきた私が彼の海から戻れたのかはわからない 物理的にはもちろん戻れたんだけど、でも今この文章を書いてるわけだから
幼少期のママに会いたいかと言われたら、私はあんまり明瞭な答えは用意できないと思う と言うのも、ママの過去がどんな感じだったか全然想像がつかない でも駿もそうだったんだと思うし、作中で、真人も母を失っているからきっとわからなかったんだと思う わからないから、この興味が湧くと言われたら、それは少しわかる 私もママの人間的な部分が見えるとなんだかすごく嬉しい! だから多分会ってみたいのかもしれない 私はパパに似てる人間だから、多分ママのことを好きになる 駿と同じなんだと思う 私はママの二の腕が好きで、ふにふにしてるとなんだか変な気分になるときがある いけないなぁって思ってこれはエディプスコンプレックスだって思う
私は私は機械みたいになったママしか知らなくて、パパとママが仲良かったときのことすら記憶が薄れていく! ポニョを見たとき、パパとママは何か話してたっけ 話してたはずなのに思い出せない ママは何を諦めたの? 我慢して無料メイドをしているの? そうしたら爆発も無理がないし、私も同じ螺旋に取り込まれていくのかな 怖い怖いよ、私きみのこと嫌いになっちゃう パパに似てるきみ!
真人の父は、恋人みたいだと思った カッコつけ屋さんのブルジョワジーで、お金で解決しようとしちゃう 他人の痛みに鈍感だけど、その一方で、家族に対しては真摯で、優しい バカにしてないよ、褒めてるわけでもないけど 強いて言えば愛憎かな 君のそんなところが嫌いで、だいすきだ あのキャラクターの声キムタクだし かっこいいよ
この映画はパパと一緒に見に行った パパは映画代も出してくれたし、飲み物もおごってくれた だからってパパ大好きってほど無邪気じゃない パパは何を思ったのかな 感想についてはあんまりしゃべらなかったというか、しゃべるのが憚られたっていうか、パパを傷つけちゃう気がしたからやめたの ワラワラとか言うかわいい精子を礼賛できるほど私は無邪気じゃない、やっぱり
さまよって、さまよっていることを私はわからない、わからないし、これからもさまよい続けていくのだと思う わたしのうみは、たまにこうやって、誰かのうみと交流して、新しい流れが生まれる。今日はその一端だったんだと思う新しい流れが生まれる。今日はその一端だったんだと思う

*5 「君たちはどう生きるか」/スタジオジブリ

*6 『母性のディストピア』/宇野常寛

*7 滞る夜/笹川真生

*8 だれかのうみ/さまよって /笹川真生

2023/8/22(火)

お腹が痛い変な夢ばっかり見た怖い寒い暑い苦しいお腹が痛い 戻りたい子宮は戻れる対象ではなく自分が次に生み出す番痛い痛い子どもになれなかった罪の痛み一生なれないから準備しなくていいしないで痛いだけ理不尽 女だから?ただ戻りたい愛おしいことに性別は関係ない ねぇママ奥まで巻き戻して! 罪罪罪罪、なんで私だけ? 射精するたびに罪はあらわれないのに? 痛い 女 だ もう子どもではない ことの絶望 ただの大人の女は痛い痛いの罰

2023/8/26(土)

深い深い不快不快、ボボボボボボボボみ゛さ゛え゛ *9 とにかく不快で快か不快かしかない赤ちゃん返りした 痛い痒い暑いなか痛い子宮からわたしがうまれて君たちはどう生きるか解らない! 35800g鬱病の赤ちゃんですよ なんであたしばっかり*10 ←ホンマごめん、あたしばっかりじゃない 勝手になにかやって勝手にしんどくなるのがとても得意です 悲劇のヒロインじゃなくてかなしいモンスターだからかわいくないかわいくなくたっていいよ? わからないぐちゃぐちゃで優先順位も TypeCの脳がほしい!*11 産まれ直し、直した 酸性の膣と/だが私、が とどいた届いたきみは 入ってくれてありがとうぁ?*12

*9 溺れ死ぬボーちゃんのモノマネ

*10 Geranium/picco(なんであたしばっかり!)

*11 日本の九月の気層です/笹川真生(Type-Cの脳が欲しい!)

*12 広末涼子の手紙(入ってくれてありがとう)

2024/1/10(水)

パパとカレーを食べた パパはまともな話ができないのに、免許合宿の関連で車の話になると途端に饒舌になった これはけっこう良い車で、こういう歴史があって、ふーんって適当な返事をしても話し続けるからうんざりした、り、誰かに似ていてキモ、と思った わたしはパパのこういうところ(自分の好きな領域の話しかできない、自分の気まぐれでキモく愛して自分の気まぐれでまったく愛さず説教ばかりする)がきらいで、でもやっぱり自分に似ている欠片が見えるから好きだ、けど総合的に見るとかなり離れたい のに また同じようなひとが好きだ ごめんねごめんね/きくお*13 に、なる 再生産、再生産し続けて無限だ このようなことが繰り返されてきたのだという 実は時間も世代もなくて、わたしはそれを終わらせる 終わらせるから良いのだけど、仮にこれを続ける道を選んだらまたわたしが生まれるのだろうか もうなにも望めないほど、わたしの子宮はわたしで満たされていますか じゃあ、それでは、ママの子宮は何で満たされていたのだろうか わたしはママですか あるいは 数千年前のだれかですか 見た目も性格も、パパに似ていると言われて育った けど わからない カスのガイジがカスのガイジを探して得た快感の先を想像できない、そのような営みの先に存在している から 終わらせる 絶対に わたしは苦しんで死のうと思う ひとりで生きるのと、どっちがマシかな

*13 ごめんねごめんね/きくお

 わたしはどうしようもなく、子宮にもどりたかった。あこがれとも言うべき甘美さがあって、やり直したい、生まれたくないという弱さだ。生物的に、わたしはもう産む側である。でもインナーチャイルドはまだそこにいるし、産まれてくるきみを慮れるほど余裕がない。ときに自分が生まれてきた性別を呪ったりするが、それは本質ではないし無駄な争いを生むだけだからやめたいと思う。ただ自分が幼稚なばかりに、男だったらピュッってして女に全部やらせてたのになーと思ってしまうことを止められないときがある。これは自分の弱さに起因するevilだ。

 日記を書いていたころから(いまもたまに書いているが)かなり反省した。でも根本的な考えが変わることはそうないような気がする。この強固な思想のせいで、社会にうまくとけこめない、役割を演じられない、うつを治せない、きみと結ばれることがかなわない。呪いが解ける日が来れば良いと思う、が、きっとこのままひとりで生きていくのだろう。

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