昨年公開した記事では株式投資の神様ウォーレン・バフェット氏の生まれる前の米国証券史とネブラスカ州が米国の経済史において担った地理的な要素を解説しました。

今回はこの続き、ウォーレン・バフェットが誕生してから幼少期、青年期の話です。

幼少期

商才溢れる子ども時代

フランス・ユグノー系*の両親の元でネブラスカ州オマハに生まれたウォーレン・エドワード・バフェット。

幼少期は決して裕福ではない家だったとされており、父ハワードは高校時代から新聞配達などをして家計を助けたとされています。

ウォーレン・バフェット(以下、ウォーレン)が5歳になる頃、祖父はオマハで小さな食料品雑貨店を営んでいました。

幼いウォーレンは5枚入りのチューインガムをばら売りしたり、お小遣いで6本入りのコーラを25セントで購入し、それを1本5セントでばら売りして全て売り切れば20%の利益を得る事を覚えます。

6歳で自らの銀行口座を開設し、こうしたスモールビジネスで得たお金を自分で管理するようになります。

数学が得意だったという母の影響もあり、幼い頃から計算が得意だったというウォーレン。

また小学生に上がると、フットボールの試合でピーナッツやポップコーンを売り、近所のゴルフコースに行っては池の中に入ってしまった沢山の誰も見向きもしないゴルフボールを発見して、それを拾ってパッケージにして売るということを商売にしていました。

家計を助けるためでも、自分の遊ぶお小遣いを稼ぐためでもなく、彼は家族で旅行に出かけた時でさえ、他の旅行客にお菓子をセールスするほどの入れ込みようでした。

11歳の時には銀行預金の残高は120㌦に達し、これは当時の一般の大人1か月分の給与に匹敵する額で家族の誰もが驚いたとされています。

ある日、母が「なぜそんなにお金が欲しいの？」と質問すると11歳の彼はこう答えたそうです。

彼にとって「お金」は「自立」を意味しており、お金があれば人生で自分のやりたいことが出来るという価値観が既に根付いていたのです。

また父親に頼み、競馬に関する書籍やデータを読み漁り、まだ競馬新聞のなかった時代に競馬場では有力馬の情報を掲載した手製の新聞を発行して、アメリカ最年少の競馬予想屋にもなったとされています。

何事にも研究を徹底するウォーレンの原点を知ることが出来る貴重なエピソードですが、しかしこの予想ビジネスは販売許可を得ていなかったとして禁止されてしまいます。

またお小遣いで競馬をする際にも1日1レースだけに参加。
更に負けるレースには参加しないことを信条としていました。

しかしまだ幼かったウォーレン少年は負けた怒りから更にレースに参加。
トータルで175㌦の負けを経験し、感情に飲まれるとロクなことがないと悟ったそうです。

小学生にとって所か、大人にとっても一月分の給与に匹敵する大金を一日で失ったウォーレン少年…よほど懲りたのか、以降の彼の人生で競馬のエピソードは出てきません(笑)

父が子に与えた影響

ウォーレンの父ハワードは地元ネブラスカ大学を卒業後、ユニオン・ステート銀行の証券仲介業ブローカーとして就職するも、1929年の世界恐慌によってアメリカは第一次世界大戦の戦費に匹敵する額を株式市場は失っていました。

ハワードは自らも投資していた資産も仕事も失った厳しい状況の中、世界恐慌の暴落が始まった10か月後にバフェットは誕生しています。

ハワードは自ら証券会社を立ち上げ、「極端なくらいに質素なやり方で、しかし着実に努力する」ことを信条とし、数年がかりでバフェット家の生活水準を中流階級にまで押し上げる事に成功します。

幼少期のウォーレンはこの極貧時代の両親の苦労と努力する姿を見て育ちます。

またハワードも類まれな投資センスを持っていました。市場がダラダラと下がり続ける世界恐慌後の市況で安全性の高い資産を中心に顧客の資産を運用しリターンを生み出し、会社は着実に成長。

ハワードはこの成功に甘んじる事なく、地道に証券ブローカーとして仕事を続け、地域の人々からの信頼を勝ち取っていきました。

1930年代当時のアメリカはどこも生活の苦しい家庭が殆どでした。ハワードは元々熱心な共和党員(支持者)でしたが、ついにはネブラスカ州の下院議員選挙*に立候補。

絶対的不利という前評判を覆して当選。これを機に証券会社の経営をしながら、政治家としての地位を固め3期12年に渡って議員として活躍をしたとされています。

証券投資との出会い

父ハワードがウォーレン自身に与えた影響の中で最も大きなものは何と言ってもハワード自身の仕事でもあった証券についてウォーレンの関心を引き出した事でしょう。

後にロイターの取材に対し、子どもたちへのアドバイスとして金融教育の重要性を語る中でも次のように語っています。

ウォーレンは10歳の頃に父の仕事に付いていき、ニューヨーク証券取引所(NYSE)を見学したことをきっかけに父の職場(証券会社)に出入りするようになります。

ウォーレン少年は株券や債券を楽しそうに見つめ、黒板Black Boardに株価が次々に更新されて行くのを見て興味を持ち、自宅では自分なりに株価チャートをつけ、何か隠されたパターンがあるのではないかと考えるのが日課だったとされています。

まるでアインシュタインが父親からもらった方位磁石を手に「なぜ一定の方角を指すのか？」と考え続けていたエピソードにも似ている話ですね。

小学5年生の時には「世界年鑑」を読み漁り、米国のみならず世界の主要都市の人口を全て暗記していたとされています。

彼は11歳の時に姉ドリスと一緒にお小遣いを集め初めての株式投資に挑戦します。
結局自分たちで企業を絞り込むことはできず父ハワードに銘柄を選定してもらいある企業の株式を1株38㌦で3株購入。

しかし株価は取得直後から下落を始め、27㌦まで値下がり…

この時代は既に触れたとおり1929年に始まった世界恐慌の只中にあり、NYダウ工業平均はダラダラと下がり続け1932年7月8日までに9割も下落。暴落前の元の水準に戻ったのは1954年までかかりました。

当然ながら父ハワードの証券会社も顧客の資産が大きく育たなければ大きく儲ける事もできないために、大儲けとまでは行っていない軟調な時期でした。

これ以上下がったら大変だと怖がった姉ドリスを見て、ウォーレンは1株40㌦に価格が持ち直すまで株券を握って隠していたといいます。

しかしウォーレン少年たちが売却をしたその数年後、この投資をした会社は株価を1株200㌦まで上げていました。

ウォーレンはこの時に「株式投資には忍耐が必要だ」と、後に一生の財産を得たと振り返り、父から教えられたこの頃の経験を自らの人生の3つの教訓(5つの教訓)を学んだと語っています。

またウォーレンは高校の卒業アルバムの自分の写真の下に「株式ブローカー志望」と書き残しており、父の影響、そして11歳の時に始めた株式投資への強烈な印象が様々なビジネスを通じてより具体的に膨らんでいたのかもしれません。

反抗期の反省

12歳の時に父が下院議員(共和党)に当選したため家族はワシントンD.C.へ引っ越しますが、ウォーレンは新しい街での暮らしに馴染めず、オマハに戻って祖父の家から中学2年まで通います。

中学では飛び級をしますが、1学年上の生徒とは馴染めず、不良仲間とつるんでスポーツ用品店で窃盗を繰り返し、「万引きし放題だった。(中略)ゴルフボールは何百個も盗んだ」と自伝で振り返っています。

父は息子の素行の悪さを単に叱りつけることはせず、あまりに目に余る行為だった時には「このままなら一番好きな金儲けを禁止する」とだけ言いました。

彼は父のこの忠告に「これはいけない、あれはいけないと言われるよりずっと、私には堪えた」と振り返っています。

我が子のことをよく理解している忠告ですね(笑)

深く反省したウォーレンは新聞配達ワシントンポストのアルバイトを続け、13歳で所得税を申告して仕事に必要だと自転車を経費控除。彼はその後も数々のスモールビジネスを学生時代に立ち上げます。

スモールビジネスでの成功