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<本編>

5年に一度の年金制度審議会を経て2020年5月に年金制度改正法が成立し、2022年度から新しい年金制度が施行されます。

日本では健康保険制度(診療点数)改正は2年ごと、公的介護保険制度(介護報酬)は3年ごと、年金制度改正は5年ごとに改正が行われています。

特に健康保険制度と公的介護保険制度は高齢期において頻度高く利用される社会保障制度で自己負担にも直結するため、細かな制度変更がされています。

年金は人口動態や出生率、経済状況などを反映しながら緩やかに改正されていきます。

法案が国会で成立すると一般的に2～3年後までに周知され、施行されます。

2022年4月に年金制度改正法が施行されることで私たちの働き方や将来の年金、それに対する備え方はどのように変化するのでしょうか？

文章を読むのが苦手な方は下記オンラインセミナーをご利用ください。

年金手帳は2022年4月から廃止

年金加入年齢に到達すると配布される年金手帳ですが、何度かの年金制度の改正の間に問題*もありましたが、年金加入履歴のシステム化がされたことで年金手帳そのものの基本的な役割が2022年3月末を持って終了します。
(基礎年金番号の開示では引き続き利用可能)

2022年4月以降に年金制度に加入をされる方、または紛失等で再発行を希望される方には「基礎年金番号通知書」*が発行されますが、主には政府が進めているマイナンバーカードに紐づけられることになります。

これによって手帳交付にかかっていた諸経費が節約される予定です。

人口減少社会において日本の行政などがデジタル化されることで社会的生産性を高めていく必要がありますので、今更マイナンバーに反対する議論は…(以下略)

長い人生、盗難や災害などで手帳の紛失などは起こり得るリスクですから本人確認によってきちんと年金加入履歴等は確保されておくことは大切です。

またそもそも論ですが、みなさん年金の履歴や受給年金額の試算ができる「ねんきんネット」へログインできる状態になっていますよね？

働いて年金納める人が少ないなら"現役世代の定義"を変えよう

医療の進歩や生活環境の改善に伴って、かつて還暦60歳で赤いちゃんちゃんこを着てお祝いをした"高齢者"のイメージは今やありません。

2016年10月には『ライフシフト-100年時代の人生戦略』が出版され世界的に「人生100年時代」というキーワードが認知されるようになりました。

2017年に安倍首相(当時)へ高齢社会問題についての提言をまとめていた一般社団法人日本老年学会は「高齢者の定義」を准じゅん高齢者・高齢者・超高齢者に改めることを発表し、世間は騒然としました。

日本国内の高齢者の定義も法律ごとに異なり、社会的な定義の見直しは社会保障を含む新しい時代に向けた改革の基礎として、大いに注目をされました。

2017年9月には首相の諮問機関「人生100年時代構想推進室」が発足。

2018年7月、「働き方改革推進法」が成立し、2019年4月の施行によって高齢期における働き方への改革が始まりました。

こうした動きの中で「確定拠出年金制度」の税制改正(2017年)、「つみたてNISA」(2018年)の制度スタートも行われていました。

2019年には『老後2000万円問題』で10年に一度くらいやってくる金融リテラシーの低い一部の国民の年金不安に着火、金融庁渾身の自作自演はメディアによって年金制度への無理解と、不安、そして政府に対する不信感を募らせる結果に終わりました。

振り返ると自民党政権は2007年、麻生太郎首相(当時)に「消えた年金問題」に端を発して批判を浴び民主党政権に敗れて下野したのですから今回も火消しに躍起でした。

日本の年金制度の厳しい現状と、老齢時代の長期化という時代の変化に適応するためには自助努力が必要という至極まっとうな報告書を受け取らないと麻生副総理・金融担当大臣は断行。

喉元過ぎれば熱さを忘れるかのごとく、「老後2000万円」というキーワードのインパクトだけを残して、殆どの国民は再び問題の先送りが行われました。

しかし実際には国・行政はアプローチ方法を見直したにすぎず、日本の年金制度が持続可能な状態ではない事は様々な面で露呈しており、2020年には年金制度改革法案が可決されます。

ここで可決された法案が施行されるのが2022年4月～となり、年金制度改正においてこの高齢期の働き方にも影響を与え始めています。

①年金加入対象者と加入年齢制限の見直し

日本の年金制度は2022年2月現在、20歳以上の全員が加入義務のある国民年金(老齢基礎年金)と給与所得者が事業所(勤務先)を経由して労使折半で加入義務のある厚生年金(老齢厚生年金)、自助努力の各種年金制度(国民年金基金/確定給付年金/確定拠出年金・iDeCo/厚生年金基金/中退共・退職等年金制度や個人年金保険など)が階層構造になっています。

これまで20歳から60歳までだった国民年金は65歳へ、働き始めてから70歳までの厚生年金は75歳まで加入年齢が延長されることになりました。

また勤め先の常時雇用の従業員数にもよりますが、アルバイトやパートタイム・派遣社員などの非正規労働者も従業員501名以上の会社の場合、月収8.8万円以上がこれまでは厚生年金の加入義務がありました。

2022年10月から常時雇用の従業員101名以上の従業員がいる事業所にも拡大適用され、今後更に6.8～5.8万円以上の方が対象となる方向で調整中です。

パートタイム・アルバイト・非正規雇用を含め働く人が増えるということを前向きに「あなた自身の年金がもらえる」と厚労省は説明しています。

労使折半(会社と労働者で50％ずつ)だからあなたは少ない負担で社会保険に加入できるんですよと魅力を丁寧に説明してくれています。

しかしこれは勤務先からすれば会社負担の分は労働者に賃金として還元して支払うはずだった分を社会保険料として支払わざるを得ないだけです。

昨今話題の日本人の賃金アップがなかなかしない原因はそもそも企業が賃金アップをしてあげたいと思ったら月3万円*アップまでしないと月1万円アップにならないだけです。

(月1万円ずつの2万円は労使折半で社会保険料として支払われる構造)

また共働きが増え、これまでの専業主婦(主夫)が厚労省の言う通り「自分の年金」に加入すると以下のようになります。

(給与天引きだから払わないという選択肢などそもそもないのですが…)

夫が会社勤めで、妻が専業主婦(パートタイム)のケース。

存命の時には夫が6万+12万=18万円、妻が4万+5万円=9万円で世帯で27万円の年金収入が入ってきたご夫婦です。

先に夫が亡くなると老齢基礎年金(6万円部分)は18歳未満の子がいないと受け取れず、夫の厚生年金部分と重複する「妻自身の年金」も受け取れません。

妻の老齢基礎年金(4万円)と夫が存命だった時の老齢厚生年金の4分の3(9万円)だけになるので、多い方どちらかだけのみ支給という仕組みによって厚労省が主張する「自分の年金」とは何処に？という話になります。

でもこれが国の年金のモデルケースなんですよね…。
不思議なことがあるものですね。

②高齢者でも希望すれば働ける社会へ

またこれら年金制度の加入年齢の引き上げに伴って、希望すれば高齢期にフルタイムなどから退職後でもアルバイトなどをして収入を得ることが推奨される社会へと変わっていきます。

これを後押しするためにこれまで労働収入が税・社会保険等が引かれる前の総支給額で月収28万円以上だと受け取れる年金額が減らされてしまっていた「在職老齢年金」を見直し、月収47万円以上だと減額される制度に改めます。

働く意欲を削ぐ悪法と言われていた在職老齢年金、月収47万円以上はなかなかガッツリ働かなければ到達しないと考えられ働く高齢者を増やす効果が期待されています。
(実際、単純労働をする労働人口は絶対数が減ってきているため)

尚、多くの方が誤解をしていることがありますが、この在職老齢年金の基準額28万円/47万円が適用されるのは年金受給と同時に受け取る給与額で、年金が減らされるというのは厚生年金(老齢厚生年金)の話です。

国民年金(老齢基礎年金)の話ではないので、これを考慮すると国民年金と厚生年金のどちらを繰り下げるのかの選択肢が変わってきますね。

これまでの在職老齢年金の問題は、冒頭に挙げた労働意欲の低下だけでなく、65歳以降で働いた場合に70歳まで老齢厚生年金としての受給額が変更されませんでした。

それが在職老齢年金に該当する場合、年一回改訂されていくという仕組みに変更されます。

超過分の1/2が減額されるという仕組み、毎年反映された老齢厚生年金に適用されていくのでこの後で説明する受取時期の繰り越しと併せて減額額も大きくなっていくことになりますのでご注意ください。

③年金繰り上げ・繰り下げ制度の見直し

公的年金制度は給付額を満額で受給開始できる年齢を65歳としていますが、それより早く受け取れる繰り上げや、それより遅く受け取れる繰り下げ制度も選択できるようになっています。

60歳から受給権(10年以上加入)を満たしていると受給開始できるため、案内は60歳になる3か月ほど前から届きます。

請求手続きをすると受給開始となり、自動的に請求された月時点から繰り上げ・繰り下げとして扱われます。(提出は現在、郵送によって完結します)

これまで1か月前倒しするごとに0.5％受給額が減る繰り上げ制度が0.4％に軽減され、1か月繰り下げするごとに受給額が0.7％増える繰り下げ制度が現在の70歳から75歳へ拡大されます。

65歳時点での支給額を100％とした場合、繰り上げ・繰り下げをすると70～142％になっていた年金支給額ですが、76％～184％に改正されます。

一度請求を出してしまうと繰り上げ・繰り下げは変更できず、一生そのままの支給率のまま固定されてしまいます。

資産状況、趣味やライフスタイルごとの収支バランスや持ち家の有無・築年数、リフォーム等の頻度や状態、民間保険の加入状況などによってこの後の「働き方」にも大きな影響を与えます。

また今回の改正によって「70歳以降に請求する場合の5年前時点での繰下げ制度」というものが新設されました。2023年4月～施行となります。

例えば65歳時点で年額100万円の老齢厚生年金の方が70歳以降まで働くので年金の繰下げを選択*しました。

70歳時点で年金を請求すると年金額は繰下げによって、年額142万円が終身受取となります。

これに対してまだまだ働こう、75歳まで働こうとか80歳まで働こうという方もいます。80歳まで繰下げると年額184万円が終身受取となります。

一方で「70歳以降に請求する場合の5年前時点での繰下げ制度」を利用すると「繰下げ」をなかったことにして、70歳以降に受給する年金額は100万円のまま*にすることが可能です。

そして65歳～70歳までの未受給額の100万円×5年=500万円の一括請求をして一時金*として受け取ることが可能になります。

この仕組みにどれくらいの需要があるのかは分かりませんが、年金制度が「年金保険」という保険の仕組みを用いた社会保障制度であることを改めて思い出させてくれます。

例えば65歳時点では「生涯現役」何歳までも働けるだけ働こうと思っていたけど、70歳で健康に自信がなくなってきて引退時期を早めたりなどでライフプラン、ワーキングプランの修正が必要になったりする場合に保険の仕組みを用いたフレキシブルな選択肢が増えることは歓迎されるのではないでしょうか。

人生100年時代だからと誰もが健康で長生きとは限らないのですから、長く増額されて受け取る事だけでなく、長生きできないかもしれない、例えばガンなどの大きな病気をして治療などのためにまとまった一時金があることで休業や療養・治療に充てられる資金を持てることも考えられます。

そしてこうした年金制度の改正に併せて、2022年5月から確定拠出年金(iDeCo/企業型DC)の制度も変更になります。

そして企業型確定拠出年金の受取開始年齢も最大10年超の拠出期間で最短60歳、最長で70歳までだったものが75歳までに延長されます。

確定拠出年金制度は任意加入ですので、選択肢が広くなることは大いに結構です。

しかしこれは言い換えると、それほど日本の公的年金が危機的な状況(受給額ゼロになるような破綻はないが基準となる受給額が大きく減る)が差し迫っている裏返しとも言えます。

また懸案の企業型DCのうち、現在はiDeCoとの併用ができないマッチング拠出型については引き続き改正議論がされるようですが、これについては社会保険料の負担とも連動するので一概にどちらが得かという議論は無駄だと思います。

(その人の資産状況やライフプラン、キャッシュフロー分析、リスクマネジメントの備え方によるので)

これを実現するために補助金というばらまきのオンパレードです。

年金制度は確かに数字の上では繰り下げをした方が確かにお得という結果になりますが、大切なのは支給率がどれだけ増えるかではなく、その支給額や手元の資産・ライフプランやリスクマネジメントの状況で働くのを辞めても生活と何をしたいのかという目的や目標が人生の最後まで持続するかという主観と客観的視点という二つの視点です。

ここが殆どの人にとってぼやけていて、曖昧なままなんとなく老後(退職後)が不安と言っているのです。

そして自分事に対して主観ではなく客観的視点が求められるのが私たちファイナンシャルプランナーが提供するライフプランにおける老年学ジェロントロジーです。

ここである3人の退職年齢を過ぎた人たちの退職後の人生を覗いてみましょう。

何歳になっても働けるだけ働きたいセカンドキャリアを築いた女性