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肝油ドロップを口に入れたまま歌は歌えない

先日、デパ地下を歩いていたときのことだ。
私の目に「肝油ドロップ」の文字が目に飛び込んできた。

懐かしさとともに古い記憶が呼び覚まされた。

私は、幼稚園で先生が口の中に一粒だけ入れてくれるこのグミのようなものが大好きだった。

好きすぎて食べるのがもったいないと思うほどだった。

ある日、私は肝油ドロップを噛まずに上の歯の歯茎と上唇の間に入れておくという密かな試みを始めた。

噛まずにそこにキープして、できるだけ長く味わいたいと思ったからだった。

当時、缶入りの肝油ドロップを幼稚園経由で買っている家もあって、私はたいそう羨ましく思っていた。お友達の家で肝油ドロップの缶を目にする度にどうしてうちの親は買ってくれないのだろうと。だからと言って、「買って」とも言い出せず、ただただ幼稚園でもらえる一粒の肝油ドロップを毎日楽しみに生きていた。

私の試みは帰りの会が始まるまでは、成功に近づいていると思われた。だいぶふやけてはいたが。

だが、帰りの会の歌を歌う段になって、バレた。
さすがにふやけた肝油ドロップをキープしたまま歌を歌うスキルを幼稚園児の私は持ち合わせていなかった。

「美和ちゃん、お口の中に何か入っているの?」

「・ ・ ・」

「お口を開けてごらんなさい」

「あ!」


口から飛び出る私の大切な肝油ドロップ・・・。


「まあ、美和ちゃん、まだお口の中に入れていたの??」


かあぁぁぁっと恥ずかしさで顔が赤くなる。

(せんせい、なんでいっちゃうの?)
(せっかく、セッカク・・・)

恥ずかしさのあとに悲しい気持ちが押し寄せてきた。


その日以来、肝油ドロップの味はちょっと苦みが加わったような気がした。


最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
また、次のnoteでお会いしましょう。

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