アニソンの元祖とは?知っているようで意外に知らないアニソンの歴史を紐解く

TBSラジオで毎週金曜日8時30分~午後1時まで放送の「金曜ボイスログ」
シンガーソングライターの臼井ミトンがパーソナリティを務める番組です。

このnote.では番組内の人気コーナー
「臼井ミトンのミュージックログ」の内容を書き起こし。
ちなみにyoutube版では動画も公開しているのでそちらも是非。

アニソンの元祖とは?知っているようで意外に知らないアニソンの歴史を紐解く

日本で最初のアニソンとは?

6月17日、番組本編の特集が「ドラゴンボール」ということで、それにちなんで今回の音楽コラムではアニソンの歴史についてお話したいと思います。

アニソンと一口に言っても、アニメの主題歌、エンディングテーマ、劇中の挿入歌はもちろんのこと、そのアニメの世界観をイメージして書き下ろされたけれども劇中では実際には使用されずにCDでだけ聴ける曲もたくさんありますし、あるいはそのキャラクターを演じた声優さんがそのキャラクターのイメージ曲を歌うキャラクターソング、などなど、かなり多種多様な音楽を指す言葉です。

音楽のジャンル名のように語られるけど、実際ジャンルはロックだろうが
ジャズだろうがラテンだろうが童謡だろうが何でもよくて、要はアニメと
そのアニメに登場するキャラクターに関係する音楽の総称ですよね。
ではこのアニソン、日本で最初の1曲はどんな曲かというと・・・
昭和初期まで遡ります。
1929年、その名も「黒ニャゴ」という短編アニメーション作品。
これ、どういう作品かというと、黒ニャゴという童謡に、アニメーションがついたような。今の感覚で言うと、NHKみんなの歌みたいな作品です。
どっちかというとアニメというよりMusic Videoに近いイメージ。

で、実はその前年に、ウォルトディズニーが「蒸気船ウィリー」という
アニメ映画を発表するんですね。
この映画って、ミッキーマウスの映画第一作目ということで非常に歴史的なアニメ作品なんですが、それ以上に、フィルムに音声が記録された最初の
アニメーション映画という点で非常にエポックメイキングな作品なんです。

〝本当〟のトーキー映画として作られた最初の作品「蒸気船ウィリー」

というのも、これより前の時代っていうのは、映画って基本的にサイレント映画だったんですよ。セリフや音楽はなかったんです。フィルムには映像
しか記録できませんでしたから、音はなかった。上映の際にはオーケストラがその場で生で音楽を映像に合わせてつけていたんですね。あるいは活弁士と言って映画にその場で解説を加える人がいたりと。そういう時代です。

それが、1920年代後半に入ると、トーキー映画というのが登場します。
つまり、音アリの映画です。でも、当時はまだフィルムに音声を直接記録
することが出来なかったもんで、どうしたかというと、フィルムを再生開始するときにタイミングを合わせ「せーの」でレコードを一緒に再生したんですね。だから最初のレコードを再生開始するタイミングがズレたら、
そのあとずっとズレ続けるっていう・・・

やっぱりそれは非常に難しいということで、音声を光に変換してフィルムに焼き付けるという技術を世界各地の技術者たちは必死になって開発します。

で、1920年代も終わりになると、徐々にこの音声を映像と一緒にフィルムに焼き付ける方式での映画というのが作られるようになるんです。レコードを必死にタイミング揃えて再生しなくても良くなったわけですね。
ちなみにレコードでタイミングを合わせて音声を再生する方式を「サウンド・オン・ディスク」、そして、フィルムに直接音声を焼き付けちゃう方式を「サウンド・オン・フィルム」と呼びます。

そのディズニーアニメの「蒸気船ウィリー」に話を戻しますけど、
このアニメが画期的だったのは、世界で初めて、サウンド・オン・フィルム方式で製作されたアニメだったんです。
それまでも音声付きのアニメ、つまりトーキーのアニメというのはあるにはあったんですが、どれもレコードを一緒に再生する方式だったんですね。
つまり、アニメ自体はサイレント映画で、それにレコードをタイミング合わせて再生するだけっていう。
そういう擬似トーキーではなくて、本当のトーキーとして制作されたアニメがミッキー初主演作品「蒸気船ウィリー」なわけです。

日本では大藤信郎がサウンド・オン・ディスクで「黒ニャゴ」を

これに刺激を受けたのが、日本の大藤 信郎という男。日本のアニメ映画の
先駆者の一人である幸内純一さんのお弟子さんですね。
この蒸気船ウィリーを見て、俺も音声つきのアニメーションを作るんだ!と言って、作ってみたのが「黒ニャゴ」。

ただ、この当時は残念ながら日本ではまだサウンド・オン・フィルムの技術はありません。つまり、音声をフィルムに焼き付けることは出来なかった。なので、この「黒ニャゴ」というアニメ、映像自体はサイレントなんです。最初に画面上に「ハイ!このタイミングでレコードを再生してください!」みたいな指示が出て、それに合わせてレコードをかけると、曲とシンクロ
したアニメーションになるっていうそういう仕掛けですね。

なので、さっきも言ったように非常にMusic Videoに近いノリというか、
歌の世界をアニメーションで表現したもの、という感じです。
アニメーションの技術的にもまだ黎明期ですから、曲に対して短いイメージ映像を作って当てるだけで精一杯って感じですよね。

でも、現代でアニソンって言ったら、やっぱりアニメーション作品の主題歌や挿入歌として作られたものっていうイメージじゃないですか?
劇としてのアニメに対して、オープニングやエンディングに歌を入れる。
そっちの方の元祖はおそらくなんですが、戦時中に作られたアニメ映画
「フクチャンの潜水艦」。
この映画は主題歌として「フクちゃん部隊出撃の歌」、挿入歌として、
「潜水艦の臺所」が制作されまして、映画自体、実は戦意昂揚のため海軍省が作ったそうです。もちろん主題歌・挿入歌ともに勇ましい軍歌調です。

ただアニメを流すだけでは足りない、これの前後に勇ましい軍歌を流して
国民の戦意をより盛り上げよう!という。
これが皮肉なことにアニメの主題歌の元祖ですね。

「アニソン」で外せないのはやっぱり『鉄腕アトム』

トーキーアニメーションのテクノロジー面から見るアニソンの誕生の瞬間。そしてアニメ劇に対するテーマソングという面から見るアニソンの誕生を
説明してまいりましたけれども、今で言う「アニソン」に一番直結する
ルーツとして次に挙げなければならないのは、1963年に放送開始した
鉄腕アトム」でしょう。

鉄腕アトムは、アニソンのみならずアニメ放送の基本を作り上げたという、つまり30分の番組を毎週放送するというフォーマットを国産のアニメで初めて確立した作品でもありまして、この主題歌はソノシート120万枚売り上げたっていうから国民的な大ヒットですよね。
高速道路が出来、新幹線が出来、オリンピックがあり、というまさにそういう時代です。

毎週決まった時間にちょっとずつ放送してストーリーを進めてゆく。
そしてオープニングとエンディングでは必ず同じ曲がかかる。
このフォーマットが鉄腕アトムによって確立されて以降、アニメがヒットすればその主題歌のレコードが売れる!というビジネスモデルがこれで成立したわけですね。
オバケのQ太郎のオバQ音頭、魔法使いサリー、巨人の星、などなど。

アニメは子ども向けから大人まで楽しむカルチャーに

60年代頃っていうのは、アニメは完全に子どものためのものという基本的なムードがありましたから、合唱団が歌ってる感じのものだったり、あるいは歌のお姉さんっぽい感じというか、音楽的にも明らかに子供向けに作られている曲調が多かったんです。
これが70年代に入ると少しずつ音楽的にも多様性を帯び始めます。
というのも、まずアニメ自体が子供だけじゃなくて青少年から大人まで楽しめるカルチャーとして確立してくるわけです。

さらに、TheBeatlesやグループサウンズ、ニューミュージックに演歌と
レコード産業もまさに花盛りなんですね。なので70年代から徐々にその時代時代で流行っているポップスの影響がアニソンの世界にも反映されるようになってきます。もっとも、宇宙戦艦ヤマトとかガンダムなんかは戦争モノなので、古式ゆかしい勇ましい軍歌系の主題歌ですし、そういう伝統路線は
ありつつ、多様性を帯びて来るわけです。
銀河鉄道999のゴダイゴだったり、ガンダムの挿入歌の「いまはおやすみ」などは普通のポップソングとして成立してますし、あるいはルパン三世の
テーマなんかは物凄いクオリティでジャズインスト曲として未だに色あせることなく聴ける楽曲ですよね。

アニメ放送というジャンルが確立されて作品の数と質が上がって来ると、
それに伴って視聴者の年齢層が幅広くなります。そして、時を同じくして
レコード産業も大きく成長してますから、市場的にもマーケティング的にもこの2つが非常にうまい具合に結びついて、アニソンっていうのはもうそれ単体でカルチャーとして成立するようになってくるわけです。

さぁ、80年代、90年代に入るとさらにこの音楽業界・レコード産業との結びつきという点で大きく潮目が変わってさらなる変容を遂げるアニソンの世界ですが、今日のところはこれにてお時間となってしまいました。
この話の続きは、いつかまた本編の特集が漫画・アニメ系だったときにでもしようかな。

今日は、まだアニソンが子供たちのためだけに作られていた60年代のアニソンの代表曲を聴いていただきます。これ以降代々受け継がれていくことになるアニメ系音頭のルーツになるでしょう。
レコード200万枚、ソノシート400万枚の大ヒット曲です。「オバQ音頭」

youtube版では動画で同様の内容をご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=OYO7bJmphoI

金曜ボイスログは毎週金曜日8時30分~午後1時にて放送。
AM954/FM90.5/radikoから是非お聞きください。