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「#スポーツビジネスサミット in 北海道 から学んだ 『 “越境力” の大切さ』 」 #コラム #volleyball2 #vabotter #バレーボール #ヴォレアス北海道 #vleague #Vリーグ

 2018年12月22・23日に札幌市及び、旭川市で開催された北海道スポーツビジネスサミット。学生向けのプレセッションを含め、全てのセッションに一般参加してきました。

 この企画は、V.LEAGUE V3に属するプロバレーボールチーム「ヴォレアス北海道」を運営する、株式会社 VOREAS 代表取締役の池田 憲士郎 氏が、福岡で以前開催されたスポーツビジネスサミットに一般参加した際、その開催意義に強く共感し、ぜひとも北海道の地でも開催して欲しい、と熱望したことから実現した企画のようです。

 企画の実現に向け、スポーツビジネス業界では知らない人はいないという岡部 恭英 氏をはじめとした、パネリストの方々に登壇を依頼したところ、話がトントン拍子に進み、「スポーツを文化に」を企業理念としている株式会社 VOREAS がサミットを主催する、という形で話がまとまったようです。


 私は普段、バレーボールのアナリストとして活動しており、データ分析やコーチングを主業としています。選手やスタッフ陣に対して、主にプレー面でのサポートをすることが多く、スポーツビジネスの分野には疎いため、この企画のことをツイッターを通じて知り、興味を持ったものの、最初は参加を正直ためらいました。

 ですが、バレーボールの発展のために何か活かせることがあるのではないかと思い、参加を決めました。

 結果的には、名だたる登壇者の方々から刺激的なお話を聞くことができ、参加して正解だったと感じました。

 そこで得たこと学んだことを、バレーボールに関心のある一人でも多くの皆さんに還元したいと思い、記事を投稿することにしました。

[登壇者]
太田 雄貴
国際フェンシング連盟副会長 / 公益社団法人 日本フェンシング協会会長
(旭川)
・小川 太郎 氏
株式会社 北海道日本ハムファイターズ ボールパーク構想推進担当
(札幌・旭川)
・三上 大勝 氏
株式会社 コンサドーレ 取締役・ゼネラルマネージャー / 一般社団法人 コンサドーレ北海道スポーツクラブ代表理事
(札幌)
・富山 浩樹 氏
サツドラホールディングス株式会社 代表取締役社長
(札幌)
池田 憲士郎
株式会社 VOREAS 代表取締役
(札幌・旭川)
村中 悠介
DMM.com COO / シントトロイデン(サッカーベルギー1部リーグ)会長
(札幌)
福田 拓哉
九州産業大学 准教授
(札幌・旭川)
・西谷 義久 氏
株式会社 ディー・エヌ・エー スポーツ事業本部 戦略部 部長
(札幌)
岡部 恭英
Jリーグアドバイザー / TEAM マーケティング(UEFAチャンピオンズリーグ)ヘッド・オブ・アジアセールス
(札幌・旭川)


◎ サミット概要

 サミットでは登壇者の方々が、所属団体の事業について具体的に紹介しながら、その根底にある「ビジョン」を発表していく形式でした。

 ここでは、登壇者の方々の発表の中から個人的に印象に残った内容について、その概要を紹介していきたいと思います。


小川 太郎 氏(日本ハムファイターズ)
 皆さんご存じかもしれませんが、日本ハムファイターズ(以後、日ハム)は、新しいボールパーク建設を計画しています。日ハムは企業理念として「スポーツコミュニティ」を掲げていて、ボールパーク建設計画もその延長線上にあるもののようです。

 日ハムが掲げる「スポーツコミュニティ」とは、

・スポーツと生活が近くにある
・コミュニティを実現させる
・地域と共生していく


の三つのビジョンを実現させるものであり、計画中の新しいボールパークも単なる「球場」にとどまらず、そこに人が集うことで新たなものが発見できたり、北海道の発展につながっていくような「地域のコミュニティ」にしたいという狙いが、根底にあるようです。

 エンターテインメントとしてのプロスポーツの価値は、地元地域に対して「人の集い、賑わい」という面から、どのような貢献ができるかという点にある、と日ハムは考えているようです。

 札幌ドームに代わる「自前の」球場を持つことで、試合開催日だけでなく試合のない日も地域の方々と、より生活に根ざした形で共生していく、という新たな領域に挑戦していくとのことでした。


村中 悠介
氏(DMM.com / シントトロイデン)
 2017年11月、DMM.com がベルギーリーグ所属のシントトロイデンの株式の約99.99%を取得し、同社 COO(*1)の村中 悠介 氏がシントトロイデン会長に就任しました。

 数あるヨーロッパサッカークラブの中で、シントトロイデンを選んだ理由については、

・外国人枠の有無
・立地
・前オーナーの理解
・リーグ育成システム
・資産状況

これらの条件を満たしたため、と説明されていました。

 またビジョンとして掲げるのは

・3シーズン以内に、プレーオフ1(6位以内)に進出
・日本人選手・指導者・スタッフがチャンピオンリーグやヨーロッパリーグに挑戦できる環境を提供する
・グローバルスポンサーの獲得など、スポーツビジネスにおいてこれまでにない事業スキームを創出する
・日本のテクノロジーをベルギー、そして欧州に展開する
・アカデミーに積極的に投資し、トップチームのメンバーに育て上げる
  

の五つだそうです。


 バレー界でも、石川 祐希 選手や柳田 将洋 選手を筆頭に、海外に挑戦する選手が増えていますが、海外挑戦のハードルが下がったわけではないと思います。

 国際大会で活躍した選手のみが海外に挑戦しているというのが現状で、そうではない選手が挑戦するのはまだ難しいでしょう。

 豊田合成トレフェルサの古賀 太一郎 選手や川口 太一 選手のように、所属チームに籍を残したまま、海外クラブでプレーするというスキームは、既にバレー界にも存在しますが、村中氏のシントトロイデンでの試みはバレー界にとって、新しい海外挑戦スキーム考案のヒントになるのではないかと思います。


 今後これらのビジョンを実現すべく活動していくとのことでしたが、既にクラブ運営事業から学んだことがあり、それは、

・移籍金収入に対する意識の違い
・スポーツサイド特有のスピード感
・ローカライズの難しさ
・働き方と文化の違い
・優れたJリーグの文化

だそうです。


池田 憲士郎
氏(株式会社 VOREAS)
 関東で就職した池田氏は、父親の会社を継ぐために地元旭川に戻った際、地元の元気の無さに驚いたそうです。そこで地元を活発化させるべく、ご自身がプレーしていたバレーボールを軸にした事業運営を始めたのが、現在の株式会社 VOREAS です。

 株式会社 VOREAS は、三つのビジョンを掲げています。

・民間資金によるアリーナ建設
・アジア圏内まで見据えた VOREAS アカデミーの展開
・エキシビションマッチなど、アジア圏の国際交流

 二つ目の VOREAS アカデミーですが、バレーボールだけではなく他の様々なスポーツも視野に入れているそうです。

 三つ目のアジア圏の国際交流に関しては既に、ヴォレアス北海道のお披露目として開催した最初のエキシビションマッチで、香港のチームと国際試合を実現しています。


 池田氏は日本のスポーツに欠けている「アート」の要素についても言及されていました。

 日本では企業のシンボルは「創業者」であるケースが多いが、海外では「ブランド自体」がシンボルになっていることが多いため、名前を見るだけでどういったものかわかるようになっているそうです。

 こうした「アート」の要素の大切さを見出した株式会社 VOREAS は、チームのシンボルマークロゴやウェアなどの部分にこだわっているそうです。

 昨年ヴォレアス北海道が、豊田合成トレフェルサとエキシビションマッチを開催したのはご存じでしょうか?

 このイベントは、“V-THEATER” と銘打って開催されていました。

 そこに込められた意味は「ヴォレアス劇場」というエンターテインメントの中でバレーボールの試合をメインに据えつつ、会場の演出やグッズ等でも楽しんでもらいたいという、ヴォレアス北海道の目指す新しいスポーツビジネスを体現したものだったそうです。


◎ サミットに参加してみて感じたこと

「プロはうまくて当たり前、それにプラスしていかにファン(お客様)を満足させられるか」

 これは、サミット開催前のプレセッションで、スポーツビジネスについてド素人だった私に一番突き刺さった言葉でした。

 皆さんも感じたかもしれませんが、実はこれ、いたって普通のことを言ってるだけなんですよね。ですが、こういう風に考えているスポーツリーグ、チーム、選手、スタッフがどれくらいいるでしょうか?

 日本のバレーボールは長らく、企業スポーツとしての福利厚生で行われてきました。そのため、最優先事項は「勝つこと」で社員の士気を高めることにあったと思います。

 しかし、V.LEAGUE に所属する企業チームの多くは、「一般社業を行わずにプレーに専念する」実質的なプロチームです。そう考えると、プレー以外の面でファンを沸かせるというのが、V.LEAGUE の本来あるべき姿なのかなと思いました。

 その代表がチームで言えばヴォレアス北海道がそうだと思いますし、選手で言えば豊田合成トレフェルサの高松 卓矢 選手だと思います。

 日本の V.LEAGUE がプロ化を本気で目指すのであれば、プレー以外の面でファンを満足させられることも必要になってくるでしょう。


「応援してください!」だけでは足りない!? より強固なスポンサーシップを築くには?

 プロスポーツに欠かせないのが、スポンサーの存在です。

 プロスポーツのスポンサーと聞くと、企業にスポンサーになってもらえるようチームからお願いしに行くイメージがある人がほとんどではないでしょうか?

 実際、従来はチームとスポンサーとのつながりは、そうやって生まれていたのでしょう。

 しかし、スポンサー側のメリットは「広告宣伝のみ」であり、特にバレーボールのように観客動員数が決して多くはないスポーツでは、企業がスポンサーになったとしても正直、宣伝にすらならない可能性もあります。

 V.LEAGUE にも特にV2・V3では、スポンサーからの出資でチーム運営を行うクラブチームがいくつか参戦していますが、多くのチームがこうした理由で思うようにスポンサーを集められていません。


 ではどうすれば、より強固なスポンサーシップが築けるのか?

 1つの答えとして提案されていた方法は、

「チームが『ビジネスパートナーとして』スポンサーとつながる」

ことです。

 企業にお願いする立場だったチームが、自らビジネスを提案し、企業と「対等な立場で」つながり、共に利益をあげていく。そして、得られた利益から何%かをスポンサー料として手に入れるというビジネスモデル。

 これがうまくいけば、自らスポンサーに名乗りを上げる企業も出てくるかもしれませんね。まさに win-win の関係!!


「スポーツで地域を盛り上げる」の “真の意味

 「スポーツで地域を盛り上げる」というフレーズは、皆さんも聞いたことがあると思います。V.LEAGUE の多くのクラブチームが掲げるコンセプトです。

 では、それって具体的にどういうことなのでしょうか?

・エキシビションマッチや V.LEAGUE の試合を開催する
・バレーボール教室を開催する

 V.LEAGUE のチームでは、これらがよく行われているかと思います。ただ、これだけでは不十分といいますか、もっとできることはあると思いました。

 たとえば、サミット概要で紹介した日ハムが掲げる新しいボールパーク構想は、野球だけを楽しむ空間をイメージしたものではないと感じました。スタジアムを中心に、その周辺もコミュニティ、人と人とのつながりが生まれやすい空間になっていると思います。

 バレー界でいきなりこのような大きなプロジェクトを実行できる団体は、ないかもしれませんが、いずれはバレー界でも成し遂げたいものです。


 では、そのために我々には何ができるのか? と考えてみましたが、

「地域の地元企業や自治体の課題に、クラブが一緒になって取り組んでいく」

 シンプルにこれだと思います。


 またしても日ハムの例になりますが、こんな取り組みをしているようです。

・ファイターズ読書促進全道キャンペーン「グラブを本に持ちかえて」2018小学生試合招待企画「本を読んでファイターズを応援しよう!」


 北海道が抱える学力の問題に日ハムが一緒になって取り組んでいる良い例だと思います。

 バレーボールでもこういう取り組みをしているチームがあるかもしれませんが、もっとたくさん出てきてもいいと思います。


 「地域を盛り上げる」というのはスポーツ界では、その存在意義として、よく謳われることですが、私自身その意味するところを深く考えたことはありませんでした。

 プロチームとして、プレーで観客を沸かせるのはもちろんですが、ただでさえ観客動員数が少ないバレーボールではそれだけでは限界があると思います。もちろん、集客の努力は最大限しなくてはいけませんが、別の視点から「地域を盛り上げる」ということについて考えてみるのも重要だなと感じました。


スポーツ選手のセカンドキャリアも「転職」にすぎない

 スポーツ選手のセカンドキャリアの問題については、皆さんも記事などで目にしたたことがあると思います。一般的な職業とは異なり寿命が短いプロスポーツの現場では誰しもがいつかは考えないといけない話だと思います。

 しかし、「スポーツ選手」も「教員」や「弁護士」などと同じで、「一つの職業に過ぎない」ということを忘れがちなのではないでしょうか?

 スポーツ選手が引退後に別の職業に就くといっても、ただの「転職」にすぎない、ということだと思います。

 では、普通の「転職」と何が違うのか?

 それは、「一人の社会人として」働く能力(これを「社会人力」と以下では呼びます)の差ではないかと考えます。競技だけをやってきたスポーツ選手は、「社会人力」を育むことが難しい環境にあるのが、日本のスポーツの現状ではないでしょうか?

 セカンドキャリアのポストを用意することも重要ですが、選手のその後の人生も考えると、「スポーツ選手」という職業の段階から、徐々に「社会人力」を身につけられるような環境を、リーグやクラブが提供するということが今後のバレー界では求められているのかなと感じました。


◎ おわりに

 サミット概要では紹介できませんでしたが、登壇者の発言の中に「越境力」という言葉がでました。おそらく造語だと思います。

 これは地域、国、職業など、自身が属する「世界」を越え別の「世界」に飛び込める力。恐れない度胸や勇気のようなものだと私は解釈しました。

 またこれは同時に、越境してきたものを受け入れる力も必要であると思いました。


 最初にも書きましたが、私はこのサミットに参加するまで、スポーツビジネスについて触れたこともなかったので、こうした会に参加すること自体、正直とても不安でした。

 スポーツビジネス界隈の方の「世界」のようなものもあるかもしれない、部外者の私が果たして受け入れてもらえるのだろうか ・・・? などと考えましたが、飛び込んでみるとそんなことは全くなく、今となっては参加してみてとてもよかったと思っています。


 越境してみないとわからないことはたくさんあります。バレー界もリーグが新しくなりましたが、まだまだ色んなことができると思います。

 皆さんも失敗を恐れず「越境力」を発揮して、バレー界を盛り上げていきましょう!

(*1) Chief Operating Officerの略。日本では「最高執行責任者」と訳される。「CEO(Chief Executive Officer、最高経営責任者)」が企業の経営全般に対して責任を持つのに対し、COO は日々の業務執行の責任を請け負う。
『MBA用語集 グロービス経営大学院』より)

photo by ヴォレアス北海道

文責: 三上 岳
高校までバレーボール選手としてプレー、大学からアナリストとして活動。オーストラリアでバレーボールコーチング留学を半年間経験後に、国内外でアナリストとして活動中。

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