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陶器さんの声


我輩は陶器である。
名前はあるようでない。

我輩は昔持ち主が課題で作られた。
指定された型を作って陶器みたいですを作るという課題だ、他の者がオブジェを作る中『実用できるものを作りたい』と風船を膨らませ、取ってを付けカップとして形作った。

『きめの細かく肌触りの良い素焼きが好きだけど、水が漏るとこまるし茶渋ごつくと取れないよな』
ということで、外は素焼き、内には釉薬を流し込まれ、焼き上げられた我輩は、外は頬染めたように焼け、内側に素敵な貫入もある、繊細なカップであった。


繊細過ぎたのだ、我輩をカップたらしめていた取っては欠けた。
粗忽な造り主を責めても仕方ない。
ショックだった、自己が崩壊したのだ物理的にも!我輩はカップから湯呑みになってしまった。

『取っては華奢にしたし、少し土が緩かったから、でもアレが一番愛らしかった』
そう、造り手は原因を知り得る。そして我輩は愛されていた。

呆然と我輩を見る。
『鼻みたい』
折れ残った部分を見て、ささっと顔を描かれ笑われた。

我輩は、愛されている。
昔はカップだった。

今は顔のある小物入れだ。
ある時は中に、茶を入れられカップに。
ある時は中に、菓子を入れられ、菓子入れに。
ある時は中に、重曹を入れられ、頭にフェイクグリーンのカツラを付けられ消臭剤に。
今の仕事はビニール袋入れである。

顔が、出来てからの方が長い付き合いである。
台所にあるのでシミができた、顔も鉛筆なので薄れてきた。

多くのモノが去った、兄弟もだ。

二寸先はどうなるやもしれぬ明日、体が緑に塗られるやもしれぬ。

だが我輩はビニール袋を提供しつづけ、主の気まぐれに付き合うだろう。

主、頼むからシミを増やさないで、割らないでくれたえ。



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