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ゴーギャンの妻(短編)

母はその《事件》について一気に話し始めた。父の悪口を言うときには,悲しげだが,どこかいつもテンションが高くなる。帝国ホテルのラウンジ階の茶褐色の絨毯に窓から差し込んだ昼光が調度品の翳をつくっていた。

「あなたの父親は、顔色ひとつ変えずに、その死んだ赤ちゃんをぐいと持ち上げて、裏庭にスコップで穴を掘って、その胎児というか赤ちゃんをポンと放り込んで、埋めたのよ。ちょうど物置小屋の真ん前あたり。『畜生、頭が気味悪く青く光りやがったからスコップで頭を割ってやった。』とかいうものだから、おばあちゃんは震えが止まらなくなって、寝込んじゃって。いま思ってもゾッとするわ。」

 母の話は、想像していたより衝撃的だ。間違っても愛情深いとなどと思ってはいなかったが,高杉和夫という人間はそこまで冷血だったのかということと、胎児が青く光ったということ。
 実は僕も、昆虫類が好きでよく捕まえて遊んでいたのだが、それらは死ぬときにうっすら青く光ってみえた。最初のころは大人に、青く光るというと気のせいだとか、無駄な殺生をするからバチが当たったとか言われるので言わないようにしていた。父も同じだったことになる。DNAか?
 
 青く光るのは虫が死んでからとはかぎらず「ああ、もう死んじゃうな。」と思ったときにも、うっすらと青く光る。カブトムシを捕まえてきたらスイカの皮をやったが、喜んで吸っていると思うとすぐ死んでしまう。無知だったが水分過多で死んでしまうらしい。暗い部屋だとそれがボーっと青く光るのがわかった。

母に1年ぶりに会うことになってこんな話を聞かされるとは。母の電話は常にろくな話ではない。今回も電話での呼び出しだった・・・。

>続く
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