「染まりて、青」
ICレコーダーの録音ボタンが押され、インタビューが始まる。
一番最初は、インタビュアーのナレーションが入り、このインタビューの趣旨とその対象について説明される。要約すると、こうだ。
とても珍しい症例が見つかったので、その発症までの経緯を記録する。
直接的な要因として認めがたいが、心因性の何かが影響していることは、認めざるを得ない、と。
その胡散臭さからか、正式に学会に発表された痕跡も無く、録音データ自体の出所も不詳。
そんなことから、ネタ的に出回っているモノではあるが、フィクションとしては面白いので、紹介したい。
以下は、インタビュアーはT氏、語り手はSさん(両名とも仮称)のインタビューを、録音データから私が起こしたものである。
―――まずは、いつ頃からその兆候があったのか、からお願いします。
はい。
一番最初に、その兆候があったのは、確か眼鏡を新調した時だったと思います。
なので、去年の夏のことになります。
この眼鏡もそうですが(今掛けてる眼鏡を指しているらしい)、私は比較的大き目の眼鏡が好きで、セルフレームのとか何本か持ってるんですが、基本的に同じ感じのです。
で、フレームが大きいと、はっきり見える範囲が広くて良いんですよ。
フレームが、と言うかレンズが小さいと、真正面は良いんですけど、パソコン使ってると手元が見えにくいとか、階段を降りる時足元が見えにくいとか、色々あって。
難点としては、やっぱりちょっと重いことと、逆に余計なものが見えると言うことです。
―――余計なもの、と言いますと?
あぁ、オカルト的なものじゃないんですけどね(笑
眼鏡をかけてない方だとわかりにくいかも知れませんが、レンズは透過するだけでなく、反射もするんです。
だから、例えば斜め後ろにあるものが、何となく見えたりするんですよ。
普通なら、それほど気にならないんですけどね、光ってるものとかあると、前方にある物だけじゃなく、後方にある物も視界の隅でチラチラする感じになっちゃうんですよね。
そう、あれも一番最初はそんな感じで・・・。
―――そのアレと言うのは?
良くわからないんですけど・・・青いものなんです。
あ、なんかあるな、と思って意識すると、見えなくなるんですね。
でも、気づくとまた、視界の隅に青いのがあって。
なので、形とかも良くわからなかったんですよ。
しばらくはそんな感じだったんですけど、いつからか、何となくそれが大きくなって・・・。
あぁ、近づいてきたのかな?とか思ったんですけど。
―――それでも、正体はわからなかった?
えぇ。
意識を向けると消えちゃうのは、相変わらずで。
でも、別に怖いとか無かったんですよね。
あぁ、優しい青だなって。
―――ちなみに、眼鏡を外された時にも見えていたんでしょうか?
えっと・・・そうですね。
さっきお話した、ちょっと大きくなってきた頃は、見えませんでしたね。
でも、その内に・・・私、結構目が悪いので洗面台の鏡ですら、ぼんやりとしか見えないんですよ。
朝起きて、顔を洗うじゃないですか?
で、顔を上げると、鏡の中に青いのがいて、サッと逃げていくのがわかったんです。
慌てて眼鏡をかけたんですが、見えなくて。
―――そんな正体不明のものが見えていても、怖くはなかった?
はい。
とっても優しい青なんですよ。
こう、心が安らぐって言うか。
―――今も、そう思われますか?
はい。
Tさんから見たら、私の目、こんなになっちゃって、気持ち悪いかもしれませんが(眼鏡をずらして、T氏に見せているらしい)。
今、私の見えている世界は、青くて、とっても綺麗なんです。
それに、とっても・・・心が落ち着くんですよね。
インタビューは以上だが、この後にT氏のナレーションが二つ入っている。一つは、インタビュー直後、もう一つは数日後のものだ。
それに拠れば・・・。
Sさんの眼球は、虹彩、瞳孔、強膜に至るまで、濃い青色に染まっており、色による部位の区別が出来ない状況。
細菌等の病原体、染色剤等の薬品の検査、遺伝子解析まで行ったものの、その原因は全くの不明である。
このインタビューは、発症直後に行われたが、この数日後、Sさんは倦怠感等の症状を訴え、意識障害により緊急入院。
消化器、循環器など、全ての臓器で機能不全を起こし、そのまま帰らぬ人となった。
まるで、何もかも―――体中の臓器までもが、生き続けようとする意欲を失ったかのように。
なお、死亡時のSさんの体は、眼球と同様、髪や歯に至るまで全身が青く染まっていたが、その死に顔は、安らいだ笑顔だったと言う。
ー完ー
だいぶ遅く・・・ほんとにギリギリになりましたが、AzulFabrica+spinnさんの青2用小説です。
今回は「涼しさ」を求められていましたので、ホラーで。
ろくに推敲も出来ないままアップするのは、どうなんだ?とは思いますが(汗
じわじわと、涼しくなると、良いな・・・。
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