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スタートアップに適したコスパの良い社内システム構成を考えてみた

先日開催された「リーグオブ情シス」というイベントの第1回に登壇させていただきました!
ありがたいことに視聴者投票1位をいただきましたが、25分の発表時間では説明しきれなかった箇所もあるので、その振り返りと補足をnoteにまとめておきます。

また、今回の設定が「設立5年、従業員数150名のITベンチャー」ということもあり、自分なりに「IPOを視野に入れたスタートアップベンチャーに最適なコスパの良い社内システム構成」を考えてみたので、同じような会社の情シスや経営者の方々の参考になれば幸いです。

リーグオブ情シスとは

リーグオブ情シス(以下LoI)公式のイベント紹介は以下の通り。

仮想の企業、必須システム、一人あたり月額予算の条件のもとで、様々なサービスを組み合わせて「僕がかんがえたさいつよの情報システム」を各チーム25分(質問込)の持ち時間でプレゼンするイベントです。

LoIでは毎回 当日発表ルール を設けます。後述する通常ルールに加えて、当日具体的な企業の業種や現行のシステム・ビジネスの状況などが共有され、イベント開始から30分間、資料や構成の修正時間が設けられます。

つまり、「仮想の企業を対象にシステム構成の提案を作成し、リアルタイムに経営者役にプレゼンし、視聴者投票で順位を決める」という、「情シス/コーポレートエンジニアの天下一武道会」のようなイベントです。

提案内容や価格について気になるところがあれば、経営者役や視聴者の方々から鋭い質問がバンバン飛んできてその場で回答しなければならないですし、登壇するだけで鍛えられる素晴らしいイベントでした。
リアルタイムで視聴していた人数も300人を超えており、オンラインとはいえ情シス関連でここまで大規模なイベントはなかなかなかったのではないでしょうか。

条件

今回は「スーパーリーグ」ということで、あらかじめ与えられた条件は以下の通りでした。

企業規模: 100~200名
業種: 創業3〜6年くらいのITベンチャー
一人あたり月額予算: 10,000円

この予算内で、必須システムは以下の通り。

メール
社内コミュニケーションツール
Identity Provider
Mobile Device Management
Microsoft Office
Security (EPP, EDR, etc...)
SFA or CRM(何らかのサービスによる内製可)
勤怠管理

当日追加発表された詳細な仮想企業の設定等は、アーカイブ動画でご確認ください。

提案資料

実際の登壇資料はこちらのスライドをご覧ください。
社内システム選定のコンセプト、構成図、予算表もこちらにまとめていますので、目を通していただいている前提で以降の説明を進めます。

システム構成図・予算

今回作成したシステム構成は以下の通りです。

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これらの費用を積み上げ、予算は以下の通り。

全社合計(150名):1,129,080円/月
従業員1名あたり :  7,527円/月

必須要件のシステム以外に、ナレッジ・電話・CSなど業務上必須と思われるツール類を追加した上で、今回のルールの「ひとりあたり10,000円/月」を大幅に下回ることができました。

システム選定の補足説明

ポイントはG SuiteをIdPとして使用し、SAML連携できないSaaSについてはGoogle認証を使用することで擬似的にIdP連携させているところです。コストを抑えつつ、ほぼすべてのSaaSでMFA必須にすることができ不正アクセスへの対策が強固になっています。

当日は25分という時間制限もあり、すべてのシステムの選定理由を説明することはできなかったので、主なシステムの選定理由のみを解説しました。
それ以外のツールについても、ざっと選定理由を補足していきたいと思います。

■共通選定基準
可能な限り国産ではなくグローバルなSaaSから選定します
国内でのみ展開しているツールとグローバルで展開しているツールでは、インフラの信頼性、運用体制、集まるIssueの数などに雲泥の差があります。
バックオフィス系のツールは国特有の法律や文化などの影響が強いので国産の物が好まれますが、IdP・MDM・EDRなどセキュリティ関連や技術変化が速い分野の製品はグローバルでシェアが高いものを選んでおいた方が間違いないでしょう。
上記に加え、SAML or Google認証に対応しているSaaSを選定しています。

■財務会計:弥生会計(パッケージ)
ここだけオンプレです。
経理担当それぞれのPCに弥生会計をインストールし、データをクラウドストレージに置くことでクラウドライクに使用します。

クラウド会計といえばfreeeですが、経理の方々にPoCしてもらった結果、「どうしても機能面で不足している部分があり、先々を見据えるとfreeeでは厳しい」という結論になることが何度かあり、経理担当者や税理士法人が使い慣れていることも多い弥生会計を選定しました。
(私も経理の実務面までタッチできていないので、具体的にどの機能が足りていないかまでは把握できていませんが)

財務会計はどこの会社でも最初に入るシステムなので、情シスが入社した時には既に導入されているでしょうし、課題が出るまでは導入済みの物を使用しても良いかと思います。

■管理会計:スプレッドシート
単一事業のSaaS提供会社ということで、管理会計はまだスプレッドシートで運用できる規模だと思います。
後に紹介するboardで顧客ごとのステータス管理による見込や目標の管理もできるので、簡易的な管理会計としても利用できるかもしれません。

■経費精算:スプレッドシート
外勤営業も少ないので交通費精算も経費精算も数は少なく、そこまで高機能はシステムは不要なため、スプレッドシートでの運用でも十分でしょう。
ジョブカンに経費精算のオプションもありますが、通常のワークフロー単体と比べて倍額になってしまうため、わざわざオプションを入れるほどでもないかと思います。

■勤怠:ジョブカン勤怠
勤怠管理は給与支払に関連するためIPO審査や内部統制でも見られることが多く、何かしらシステムが必要です。
ジョブカン勤怠は安価な割に36協定設定やシフト管理など様々な勤務形態にも対応できるということで選定しました。

■給与:外注
このフェーズでは給与計算スキルを持つ従業員を自社で抱えることも難しく、給与計算は社労士に外注するのが現実的ではないでしょうか。
給与明細WebはSmartHRを使う想定です。

■労務:SmartHR
100人を超えてくると各種労務手続きや年末調整の負担が大きくなってくるので、労務管理のシステムが必要かと思い追加しました。
上位プランでないとSAML連携できないのが辛いところですが…

■評価、採用:スプレッドシート
まだ組織も評価フローもそこまで複雑ではないので、人事評価システムやタレントマネジメントシステムが無くても、スプレッドシートで評価は運用は可能かと思います。
採用についてもまだアナログ運用でいけそうですが、今後一気に採用を増やすつもりなら早めにツールを入れたいところ。

■法務:Word
B2BのSaaS提供会社ということで、サービス申し込みをWebから行うようにしておけば個別にNDAや契約書を取り交わす必要もないですし、官公庁やイレギュラーケースへのリーガル対応にWordが使えれば十分かと思います。

■電話:Dialpad
電話がまったくない会社はさすがに考えられないので追加しました。
オンプレでPBXを持ちたくないので、ピュアクラウドであるDialPadを選定。固定電話は使用せず、PCやスマートフォンからソフトフォンとして使用します。
アナログPBXやSIPに比べて通話品質は落ちますが、カスタマーサポートがWeb対応メインで電話がそこまでクリティカルでないのであれば支障はないかなと判断しました。

■コミュニケーション:Slack
ベンチャーの変化スピードや意思決定の速さを支えるためにも、チャットツールはマストでしょう。安価なチャットツールもありますが、ChatOpsやiPaaSによる業務効率化も見据えて拡張性の高いSlackを選定しました。

■ナレッジ:Kibela
GitHub Wikiでも良いかなと思ったのですが、IT企業であれば非エンジニアも使用することが多いと思うので、別途Kibelaを選定しました。
低コストでGoogle認証対応のツールということでesaとKibelaが候補でしたが、esaは記事ごとに権限設定ができないのでKibelaを選定。

■カスタマーサポート:Zendesk Support
カスタマーサポートのメール対応ツールとして導入。
カスタマーサポートは事業規模と共にスケールしていくので、大手企業での導入実績も豊富でスケーラビリティの高いZendesk Supportを選定。
規模が小さいうちはメーリングリストやメールディーラーなどでも運用可能だとは思いますが、どこかで頭打ちになって移行が必要になるので、早い段階からちゃんとしたツールを入れておいた方がいいでしょう。

■販売管理:board
販売管理というよりは、簡易的な売上管理と見積書・注文書・請求書発行ツールです。
最上位プランが5,980円/月で50名と格安で、スタートアップには最適ではないでしょうか。
請求書の一括予約発行が現状ではできないので、請求先が増えてくるとMisocaや楽楽明細など請求書発行に特化したツールへの移行検討が必要かもしれません。

■SFA/CRM:内製
コンセプトで説明した通り、SFA/CRMはプロダクトの内部管理ツールとしてプロダクトサイドで内製した方が効率的だと考えています。
Salesforceやkintoneなどのプラットフォーム製品を購入して、情シスが内製する会社も多いかもしれませんが、それらのライセンス費用が非常に高価な上、開発・運用を情シスが抱えるのはまだ現実的ではないかと思います。
取引先も営業も少ない業態のためSFA/CRM自体の必要性が低く、スプレッドシートやboardでまだ管理できる規模かもしれません。
事業規模が大きくなってくると、SFA/CRM・販売管理・管理会計をまとめて刷新してERPを導入する一大プロジェクトが立ち上がってくるかもしれません。

余った予算を何に投資したいか

今回提案した構成はあくまでコスト重視の最小構成だと思っています。
ルールの条件である「ひとりあたり10,000円/月」を下回っているので、余った予算をどこに投資したいか考えてみました。

MDMは後からの移行が大変なので、最初から最終形を見据えてIntuneやJamfを入れておいた方がいいかもしれません。
使用するSaaS数と従業員数が増えてくるとアカウント発行・削除の負荷も膨れ上がってくるので、早めにプロビジョニング対応したIdPやIDaaSを導入しておきたいところ。
EMS E3を購入してAzure ADとIntuneを導入するのが安価かつ拡張性も高いかと思います。

スライドでも解説している通り、スタートアップベンチャーではセキュリティリスクよりも経営リスクの方が大きいと考えています。
過剰に社内システムや人件費に投資して黒字化の足を引っ張っては元も子もないですし、まずはコストを抑えて安定した黒字化を目指すべきでしょう。
売上や利益が堅調になってきた段階で、次はどこに投資すべきか経営陣と話しつつ戦略を練っていくのが良いのではないでしょうか。

おわりに

LoI第1回に参加して、自分なりに「スタートアップに適したコスパの良い社内システム構成」を考えることができて、非常に良い機会になりました。
当日アーカイブもYouTubeに残っているので、よければぜひご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=DlQWkTtoxV4

4組の登壇者が、それぞれまったく違った内容になっていて、ここまで提案内容に差が出るのかと面白かったですし、自分にはない視点も多く非常に勉強になりました。
そしてみなさん発表も質疑応答も上手い!
緊張して喋りがたどたどしくなっている自分はまだまだだなと痛感しました。

そしてLoI第1回の解説編のイベントも企画されているので、改めてどのような指摘を受けるのか、こちらもハラハラドキドキしながら楽しみにしています。
https://league-of-infosys.connpass.com/event/184055/


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