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あのころ

物心ついた頃からずっと絵を描いていた。好きな漫画を模写したり自分で漫画を描いたり。将来の夢は当たり前に「漫画家」だったし、10代の頃は学校の友人にはひたすらに隠しつつ同人誌を作った。

「ハチミツとクローバー」という漫画がある。

映画やドラマ、アニメ化もされた人気作品なので、一般にも有名だが、美大を舞台にした青春漫画だ。

物語の終盤で、天才的に絵のうまいヒロインの女の子が事故に遭い、右手を怪我してしまう。

絵を描くことで世界とつながってきた彼女は、静かに絶望する。

あの頃わたしは、そのヒロインの境遇を自分に当てはめて、

「そうだよね、描けなくなったら、わたしも死ぬな」

と、思った。

そのくらい、描くことは、あの頃のわたしにとって身近であり、生きることと同義だった。

でも、社会人になりぱったりと描かなくなった。それから十数年。

絵が描けなくなるくらいで死ねると思ったあの頃の自分に、自分で驚いてしまった。そして、あんなに毎日毎日絵を描いていたのに、そのことすら十数年も忘れていたという事実にも驚愕した。

人の興味は変わるんだなぁと。

ただ、それだけのはなし。

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