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浮世絵のDNA

「浮世絵はどこに行ったのか?」という素朴な疑問が、以前からありました。版画プロジェクトの発起人である版元から今の時代なりの方法で浮世絵や新版画に続くような木版画を作ってみたいというコンセプトを聞き、すでにどんな形として浮世絵が存在しているのか、伺ったことと合わせて考えた事をまとめてみました。

現代でも、浮世絵版画を制作する工房がいくつかあります。工房では、有名な浮世絵作品を再現したり、現代美術のアーティストやプロの画家にオーダーをして元絵を描いてもらう事で、新たな版画を制作しているそうです。

また最近になり、浮世絵を現代に蘇らせるアートプロジェクトが始まっていて、ゲームのキャラクターなどを浮世絵木版にするというポップな発想の作品も制作されている事も教えてもらい、浮世絵の新しい波が来ていると感じました。

「浮世絵ヒーローズ」
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翻って、浮世絵には本来、人気の歌舞伎役者や芸者、ファッション、観光などの流行や風俗をいち早く絵で紹介するメディアとしての役割がありました。北斎や広重もイラストレーターの描く挿絵やカットのような仕事も数多く残しています。今となっては希少となり高額で取引されている浮世絵も、江戸時代には巨大な市場で膨大に摺られていたために芸術的な意味での価値は存在しませんでした。そんな玉石混交の状態だったからこそ絵師や職人が凌ぎを削る中で神品と言われるような作品も生まれてきたのだろうと思います。

メディアとしての浮世絵木版の文化を衰退させた原因のひとつは、イギリスの産業革命の影響で、最新の印刷と写真の技術が普及したことだろうと言われています。明治大正期の木版画は美術品としての価値を高めていく事に重きを置いて、西洋絵画のテクニックを取り入れて写真に対抗するようにリアルになっていきました。吉田博や川瀬巴水を代表とする新版画の作品は今見ると新鮮な驚きと感動があり、人気が再燃しています。版画プロジェクトの版元と摺師の方に話を聞くと、当時の浮世絵や新版画の彫りの技術を現代で再現することはとても難しいそうです。

浮世絵や新版画が世界で強く愛され続ける理由は何故なのか考えてみると、世界的に美術の価値基準を大きく変えた功績があるのではないかと思います。有名なことではありますが、浮世絵を筆頭にした日本美術はそれまで知られることのなかった19世紀末のヨーロッパの芸術家達に多大な影響を与えていきました。漫画やアニメの浮世絵や絵巻の影響を見る限り、外国に渡っていった表現方法が形を変えて戻ってきた部分も大きいと感じます。そういう意味では、DNAとしても浮世絵は現代でも色んな場所で形を変えて生き続けていると言ってもよいのかもしれません。

インターネットの発達によってあらゆる表現が思わぬ形で影響しあい細分化していく事で、様々な化学反応を起こるようになっています。そんな世界に飛び込んで、浮世絵木版というフレームで切り取ってみる今回のプロジェクトは、とても面白い試みになるのではないかと感じています。僕だけでなく、垣根を超えた色々な作家さんも参加される予定なので、いち浮世絵ファンとしてもどんな作品が出来るか楽しみにしています。