わかこ

ikiteru

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最近の記事

はじまらなかった日々

LINEの通知って、やけに生々しい。画面の上から覗き込むように、突然現れる予想もしなかった名前。たとえばそれがお風呂上がりのだらしない格好でスマホをいじっている時なんかだと、見られているわけでもないのにひどくどきどきして恥ずかしくなることがある。通知を開き、たった数文字を何度かなぞって、最適解を探す。 それが、途端に「どうでもよく」なった。 当然、なにか返事をするつもりでトークルームを開いた。けれど、急に頭がまっさらになって、そのままスマホを放り投げた。 これ、返さなくて

    • サンタクロースになった日のこと

      2度、サンタクロースになったことがある。 最初は、両親を相手に。2度目は、恋人でも友達でもないあの人に。 2人の予定がたまたま合う日。12月23日の夜。24日ではないところにかえって清々しさがあって、居心地がいい。 クリスマスなんて知らないような顔をしながら年末らしい番組を見て、鍋をつついて笑いあう。もちろん、お酒も飲みながら。 鍋もあらかた片付いたころ、いつものように彼がシャワーに向かう。 それが、自分のなかで決めた合図だった。 今だ!と、私はサンタクロースに変

      • 偽者のままで遊ぼう ゆびきりをしながら針を飲み込むように

        あふれだすマジックアワー 魔法ならもっとじょうずに泣けないのかよ 変わらないもの いかさまのキスをしたあと髪の毛をいじる癖とか やさしさは甘えるための言い訳で三日月みたいな背骨をなぞる うつくしい夢を見るためできるだけ銀河を深く深く吸い込め 特別じゃないはずのひと ウィルキンソン はっ、と弾けてそれでおしまい 溶けていく星空のこと 見たこともない色たちをもっと教えて 残像が絡まる前に手を振った ネオンがすごくださくてよかった 液化する街のにおいを憶えてる せめて

        • 停止線まであとすこし

          夢のなか流星群をつかまえて叫んだたったひとつの願い 頭上には月しかなくて完璧な夜を迎えに行くため歌う 三崎口行きの電車で嗚咽、嗚咽 好きの証拠はまだ変わらない ひさしぶり、なんて現実めいたこと言いたくないし言わないでいて 自転車のうしろで触れた懐かしい体温 匂い 心臓の音 しいたけに猫のかたちの切れ込みをいれる背中の丸い輪郭 痛いのはおんなじなのに まだそんなつらそうな顔して笑うんだ しあわせ?と聞かれてすぐに頷けない 終わってしまうことが怖くて 「ダニが死ぬ

        はじまらなかった日々

          はらぺこよわむし

          カラメルをつぶすためにと買うスプーン つぶされるために買われるプリン 思い出に勝てないことを知ってから過去になるため身支度をした 輪郭をなくしたきみをこねてみる パン生地みたいで笑ってしまう いちどでも止まり木にしてくれたこと信じさせてね くぼんだおなか シロップは追加しますか ゆっくりと恋のかたちを見失う朝 届かないままで歌えばさみしいね 届けばもっとむなしいけれど 見たこともないのにきみがからあげを頬張っている画をおもいだす ぼんやりとしたままの目で体温をや

          はらぺこよわむし

          雨が背骨をかじりつづける

          雨が背骨をかじりつづける

          045

          あんまんをきれいにやぶる 冬なのにチャイナタウンの風ぬっこいな すっごいね これ灯台のひかりなの やっぱここって横浜なんだね スーパーの名前をひとつ覚えても なんの役にも立たない あおば 手を繋がない言い訳に持っているロールティッシュがめちゃくちゃ重い 天井がやたらに低い商店街 世界はのこり7パーセント 文字だった 音階だったその場所にふたりで立って、とっても静か 思い出がむだに多くてマンホールひとつとっても鈍器に等しい 坂が急すぎるせいじゃん わかるけど わか