倫理審査の準備

ランチの際、一人の研究者が倫理審査に苦労した話をしてくれた。書類が行ったり来たりでとにかく時間がかかったとか。

「え、この前担当者に聞いたら2ヶ月前でいいって言われたけど?」「そんなのんびりしてたら危ないよ!!」

それを聞いて焦り、午後はひたすら倫理審査の準備に費やすことになった。しかし、審査書類を作る以前に、審査項目の確認・関連の手引き、トレーニング教材が山積。研究資料以外でこんなにたくさんの英語の書類に一気に目を通したのは久しぶりな気がする。

なぜ私に倫理審査の準備が必要かというと、夏に現地調査を予定しているからだ。統計資料収集も一部行うものの、大部分はインタビューを用いた調査をしたいと考えているため、インタビュー対象者の尊重・保護の観点、収集資料の適切な管理といった観点から、適切な研究計画を整えているか、チェックされることになる。

(一気に目を通したとはいえ)まとまった時間をとってこれを考え、現地調査計画を整えるというのは非常に重要なトレーニングであり、欧米の基準での審査を体験できるというのはとても良い経験になると感じている。調査の本筋とは関わらないところで時間と根気を要する面倒な作業ではあるものの、今後に絶対に活きる経験だということを思い出し、前向きに取り組んでいきたい。

一方で、こうした倫理審査の仕組みが、あまり私たち人文社会系統の学問に沿った形で整えられていないのには課題を感じた。(人・動物を問わず)被験者への侵襲性が高い医療系・生物系や心理学系の実験がベースに組み立てられた審査スキームであり、随分とやりにくい。私の場合ある程度対象を絞ったインタビュー調査なのでまだやりようはあるものの、参与観察などの場合に、長々とした・形式張った研究の説明書きを読んで(聞いて)もらい、相手の同意を得るというプロセスはどの程度現実的なのか。形式を満たしつつ、最後まで関心を持って読んで(聞いて)もらえるサイズの書類を作るのはなかなか腕が問われるところである。

といっても、ある程度人文系・社会系に合わせた説明書きやテンプレートも用意されてきているので、単に制度設計の過渡期にあるだけなのかもしれない。しかし、優先順位で言うならば、形式的な文書作成能力を鍛えるよりも、verbal・nonverbalを問わず、被験者の様々な反応から、相手に害を被らせていないか、相手が十分に研究内容を理解し、自発性を失わずに協力してくれているのかを読み取る能力を鍛える方が優先であろう。

今は書類の準備に必死で他のことまで手を出せないものの、今感じたことを心に留め、将来なんらかの形で倫理審査システムの改善に役立てていけたら。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?