愚者は売上と総資産を語り、賢者は利益と純資産を語る

今日ツイッターでこんなツイートが回ってきました。

表現の仕方は違うものの、僕が昔から思ってきたことです。(負け惜しみ)
「年収1000万円です。総資産は3億円あります。」
この人はお金持ちでしょうか?
「年商10億円です。総資産は100億円あります。」
この会社の経営は順調でしょうか?儲かっているでしょうか?
もちろんこういう記事を書く以上「これだけでは判断のしようがない」というのが正解になるのですが、年収で男を判定する女性だけではなく多くの人はこの2つの情報だけでこの人はお金持ちだなとかこの会社の経営は順調だなとポジティブな方向に判断するんじゃないかと思います。
「可愛いは作れる」とはよく言ったものですが、法人個人問わず「売上」や「総資産」もある程度は粉飾せずとも意図的大きく見せることができます。

売上を大きく見せる方法1「消化仕入」

デパートがよく行っている取引の手法です。簡単に言うと売上と同時に仕入を計上する方法です。
西武や東武、マルイなどのデパートで実際に買い物をするのはあくまでその建物に入っている「テナント」と呼ばれるお店です。
例えばデパートで洋服を売っているお店があるとします。この時陳列されている洋服は誰のものか?ということを考えるとどうでしょう。

①デパート内で売っているんだからデパートのものだ
②その洋服のお店の商品なんだからそのお店のものだ

正解は②のお店のものです。仮に洋服が売れる前に服が破けても、売れ残ったとしてもデパート側に損はありません。その商品をどうにかするのは各テナントです。
それでは1着10,000円のコートが売れたとしましょう。その瞬間にデパートはそのテナントからコートを仕入れ、消費者に売ったことになります。仮にデパートとテナントとの間でその商品の取引価格を8,000円としていた場合はデパートとしては10,000円の売上と8,000円の仕入が同時に計上され2,000円の利益が残ります。しかし、感覚としてデパートは何もしてないのに10,000円の売上を計上するのはおかしいと思いませんか?しかし契約上そうなっているので今までデパートはこの10,000円を売上として計上していたのです。
(今後は「収益認識に関する会計基準」ができたことによりここでいう2,000円がデパートの売上になっていくことになります。)

売上を大きく見せる方法2「赤字販売」

消化仕入はとっても実務チックでめちゃくちゃマニアックなお話なので「まあこういう方法もあるんだな」程度に思ってもらえれば十分です。
一方赤字販売は理屈はとても簡単です。単純に仕入れた額より低い額で販売すればいいんです。
現時点(2019年11月)では任天堂switchが大人気です。売価は33,000円程度ですね。(switch liteは22,000円程度)
ではswitchを33,000円で仕入れ、10,000円で販売したとしましょう。恐らくとんでもない量が売れるでしょう。しかし、当然ながら売れば売るほどマイナスです。1,000個売れれば売上は10,000,000円ですが仕入は33,000,000円で、損失が23,000,000円になります。
こうして無理やり売上を作り、自社の売上を大きく見せることは可能と言えば可能です。

総資産を大きく見せる方法「借金」

こちらはさらに余計な小細工は必要なくなります。
貸借対照表の見方を思い返してもらえればわかりますが、総資産は負債+純資産で表すことができます。例外なくこの計算式は成り立ちます。
つまり総資産が増えるということは負債もしくは純資産のどちらかが増えるということに他なりません。(負債が増えても純資産が減るという可能性もあるのでその反対は必ずしも成り立ちません)
個人で関連がありそうなのは住宅ローンですね。3000万円の住宅ローンを組むことでその分の現金という資産が手に入り、その現金と交換に住宅という資産を手に入れることができます。この瞬間この借りた人の総資産は少なくとも3000万円増加します。3000万円の資産というと聞こえは良いですが、その裏には同額の借金があり、純資産は1円も増えていません。

意外と貶められやすい「売上」と「総資産」の罠

上で挙げたのは代表的な例ですし、消化仕入はアレですが言われれば当然の話と理解できると思います。
ですが、意外と陥ってしまうのが冒頭で挙げた件だったりするわけです。
「年収1000万円です。総資産は3億円あります。」
この人はお金持ちでしょうか?
お金の使い方が荒く宵越しのお金は持たない人かもしれません。投資のために多額の借り入れをしていてその返済にヒーヒーいっているかもしれません。
「年商10億円です。総資産は100億円あります。」
この会社の経営は順調でしょうか?儲かっているでしょうか?
売上を大きく見せるために赤字販売をしていて損益計算書の当期純利益は20億円の赤字かもしれません。。売掛金の回収が焦げ付き、不良債権ばかり残っているかもしれません。不良在庫が貯まりに貯まっているかもしれません。個人同様に投資のために多額の借金をしているかもしれません。
例えばエアバッグのリコールにより戦後最大の経営破綻とまで言われているタカタ(現在はTKJP)の2018年3月期の決算は売上が1240億円、総資産が2798億円です。これだけ見れば層々たる数字に見えますが、実際はリコールに係る特別損失が7416億円あったことにより当期純損失が5097億円となり、純資産はマイナス5086億円と見るも無残な債務超過の状態です。
(ちなみに、2019年3月期では事業譲渡したことにより特別利益が6644億円計上され当期純利益が4505億円となっており、債務超過の状態は変わらないもののマイナス532億円までは減っています。ただ、事業は殆ど売っちゃったでしょうしどうするんでしょうね…)

自分のことを良く見られたい、そう思うのは人情だと思います。オタクもツイッターやオタク同士の飲み会ではクソみたいなことを言ってるのに接近戦やラジオメールでは一切そういうこと言わない(書かない)ですよね。そういうことです。
会社としても自分の会社を大きく見せたい経営は順調だと思ってもらいたいという気持ちはどの社長にもあると思います。
これらはあって然るべき思いなので否定する気は一切ありませんが、売上や総資産の額だけをもって良い悪いを判断するのは危険だということです。
また、さらにあるのがネットに蔓延っている本当かどうか極めて怪しい「儲け話」。これもまさに「売上」のみにフォーカスしていることが特徴として挙げられます。
「働かずに月収100万円!!」なんてワード、魅力的に思わせたいんでしょうけど怪しさ満点すぎてちっとも魅力的じゃないのは逆に面白いですが、月収にだけフォーカスしているのがおわかりでしょうか。
1000%無いと思いますが万が一100万円が毎月入ってきたとしても上で挙げた赤字になるような状況では意味が無いですよね?でも月収100万というのは事実だったわけで何も騙していないということになるわけです。

まとめ

売上と利益、総資産と純資産の違いについてみてきました。多少はこれらの違いについて理解できたのではないでしょうか。
売上や年収がどんなに高くても損失になっているかもしれない。総資産がどんなに多くても純資産はマイナスかもしれない。もちろん年収や売上は多いに越したことはありません。でもそれだけじゃ良い悪いは判断できないということです。売上/年収や総資産はあくまでもその会社/人のある一面にすぎません。

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