新規事業に市場規模は役に立たない

仮想通貨の取引所を運営しているコインチェックの創業者である和田です。

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https://coincheck.com/ja/

最近友人の新規事業の相談にのる機会があったので、考えていたことを文章にまとめてみます。

「事業の拡張性」

新規事業が最大でどこまで伸びるかの算定において、既存の業界規模を参考にする方法はあまり役に立たない。

それよりも「事業の拡張性」「努力」が重要である。

例えば会計ソフトのfreeeが事業計画を作ることを単純化して想定してみる。普通に考えれば中小企業の会計方法をリプレイスするだけなので、 最大売上高 = 中小企業の数 * 会計ソフトに払えるコスト になる。しかし実際には現在そのようなビジネスモデルになっていない。

会計ソフトを使ってくれることを皮切りにして、労務管理のソフトや、会社設立支援ソフト、大企業向けの会計ソフトなどの周辺プロダクトを展開している。

会計ソフトで良い体験をした顧客は会社の資産となり、彼らに対して別のプロダクトを提案することができる。彼らは会計ソフトだけに課題を感じているのではなく、似たような他の領域に関しても課題を感じており、それらの領域の潜在的顧客となっているのである。

獲得した顧客や技術的優位性、運用ノウハウなどプロダクトによって生まれる自社の資産は数多くある。それらの資産を活かして別の領域に事業を発展させる「事業の拡張性」が、ビジネスを成長させる上では重要である。

逆にいえば、「事業の拡張性」が考えられないビジネスは、算定した市場規模を上回ることはない。

「努力」

ただし事業を始める前から「事業の拡張性」がどこまであるのかを推測することは難しく、時間をかけて考えても役に立たなくなることが多い。そうなったときに重要なのは「努力」である。1つ目のプロダクトが成功したあとで、自社の資産はどんなものか、現在市場にどんなニーズがあって、どうすればうまく他社に勝つことができるか、それらを必死に考え実行すれば、自然に売上は伸びていく。

私が2014年に創業した仮想通貨の売買サービス「コインチェック」では、当初はビットコインがオンライン上での決済手段になりうるのでは、そう考えて事業を始めた。

そのため、市場規模を推定する際には、VISAの総決済金額や、日本の中でのECの流通量もしくは海外から日本に輸入する形での越境ECの流通量等に着目していた。それらの流通量 * シェア率 * 手数料率が売上高になると算定していたからだ。

しかし実際にはどうか。サービス開始からしばらくしても決済の側面では仮想通貨はなかなか受け入れられなかった。その反面、投資対象として購入するユーザーは着実に増えていた。そこで、もともと考えていた決済の市場ではなく、投資家向けの市場をメインターゲットに決めたのだ。

当然投資家向けの市場をターゲットに事業を展開することをもともと考えていたわけではなく、様々な障害があった。

例えば仮想通貨市場には信用取引や差金決済取引、先物取引、レンディング市場など多くのトレーダー向けサービスが海外も含めれば存在している。これらは金融業界に精通していれば、仕組みや商品の中身について詳しく知っているが、普通の人は信用取引と差金決済取引(どちらもレバレッジを掛けることができる取引形態)の違いを説明できないだろう。

当時の私も普通の人と同様に、最初は全然分からなかった。貸借対照表という漢字を読み間違えるぐらいに金融に疎い状況だった。ただ、会社としては投資家向けの市場をターゲットにすると決めた以上、それらの分野について「努力」をして学び、開拓していく必要があるのだ。

その結果コインチェックでは、信用取引や貸仮想通貨などの日本初のサービスを出したり、新しい仮想通貨を積極的にリスティングしたりすることで多くのユーザーに使ってもらえることになった。

まとめ

以上のように、もともとの計画通りに事業が進む可能性は低い。また、事業を行っている途中でより良い新しい市場を見つけることもある。事業を成長させるためには、自分たちの進んでいる方向が適切なのかを常に自らに問いかけ、意思決定することが大切であり、当初考えていた事業計画や市場に囚われるメリットはまったくないし、そこに時間をかけて悩む必要はない。

※賃借→貸借

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