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聴かせて!「PROS」のわがこと

今回お話を伺ったのは香川大学の学生プロジェクトで活動する学生のみなさんです。ただし、一般的な学生の活動内容としてはちょっと特殊かもしれません。
普段私たちがなかなか接点を持つことはないけれど、でも実は身近なお話だったりするのです。
(学生のみなさんが活動するに当たってはお互いの個人情報保護のため、本名ではなく通称を使用しており、この記事でも通称でご紹介しています。あらかじめご了承ください。)

「聴かせて!みんなのわがこと」とは?
香川県内でとても素敵な活動をされている個人や団体にスポットライトを当て、「共感の輪が広がっていってほしい」という想いから、その活躍や想いなどの わがこと(我が事)をインタビュー形式でお届けします。

Vol.10
さぬき再犯防止プロジェクトPROS

学生が主体となって「出所者支援」

—みなさんは香川大学の学生さんなんですね

しょうさん:はい、私は大学院の1年生で、他の2人は学部生です。PROSには全部で20名ほどが在籍していて、私たちも含めほとんどが法学を学んでいます。

かっきーさん:私は1年生の秋から参加して、いま4年生です。

まっちゃさん:いま2年生です。1年生の春からPROSに入りました。

—まずはPROSのことについて教えてください

しょうさん:PROSは今年で発足して4年目になります。罪を犯して刑に服し、刑期を終えて出所した方の支援活動をメインとしています。

出所者の方は更生をめざし、仕事に就くなどして社会の一員として活動する中で地域や仲間とのつながりを回復していくんですが、現実的には世間の目は厳しく、難しい面もあります。特に高齢者の方や知的障害者の方はその傾向が強いです。

私たちは支援の専門家ではないですが、学生なりのスタンスで支援ができればと思い、活動しています。それによって再犯率が下がり、ひいては安心で安全に暮らせる社会をつくることに貢献するのが私たちの目的です。

インタビューの様子

—そのような支援活動があることを初めて知って、正直驚きました
学生さんだけで活動しているのですか?

しょうさん:いえ、運営は学生がやっていますが、やはり学生だけで出所者の方と関わるのは難しいので、顧問の先生をはじめ地域生活定着支援センターの方や弁護士、精神科医などの専門家の方にサポートしていただいています。
わたしたちはprosiliverとお呼びしています。

PROSの顧問である平野先生(法学部教授)が出所者の再犯防止に関して、専門家の方と協働されるなかで、学生による支援活動のお話が出て、参加を呼びかけたのがプロジェクト設立のきっかけになっています。

—具体的にどのような活動をされているのでしょうか

かっきーさん:ひとつは茶話会の活動があります。月に1回程度、出所者の方と折り紙をしたりパンケーキを焼いたり、楽しい雰囲気で過ごしてもらうようにしていて、現在は4名の方との交流があります。
その人が楽しめることを見つけたり、一緒に遊んだという思い出を作ってもらったりすることが、社会とのつながりの第一歩になると考えています。

また、再犯防止という観点から少年犯罪や依存症など毎年テーマを変えて勉強会をしたり、映画の上映会をしたり、とさまざまな広報活動もしています。
例えば、今年のテーマは依存症なのですが、自助グループにいる方の話や薬物の使用者だった方の話を聞いたり、こどものゲーム依存について学んだり、といった感じです。

パンケーキを焼いて、出所者の方と楽しく交流

「再犯防止」の大切さ

―みなさんはなぜこの活動に参加されたのでしょうか

しょうさん:最初は平野先生からのご紹介がきっかけでした。学部生のときに合理的な犯罪対策を考える「刑事政策」について学んでいて、再犯率の高さが気になったのと、実際に居酒屋でたまたま居合わせた人が出所者だったことがあって、なんとなく身近なことだと感じていたので、ぴったりな活動だと思って参加しました。

あと、大学2年生のときにコロナでサークルの活動がなくなり、居場所がなくなって精神的にしんどい時期を過ごしたのもあります。困ったことがあっても誰にも相談できず、学部生のころはずっとストレスを抱えていました。
居場所の必要性を身をもって体感したので、PROSが居場所づくりをしていると聞いて、自分もそんな活動に携わりたい、と思ったのも理由のひとつですね。

かっきーさん:刑事法の授業で再犯率のことを知って、目からうろこだったのが最初のきっかけでした。
私の場合は大学入試の頃からコロナで、サークルにも入っていなかったのでやることもなく、なにかやりたいなと思っていたところに、先にPROSに入っていた友達に声をかけられて参加するようになりました。
友達がPROSの活動で忙しそうに、でも充実している様子を見て、居場所があっていいな、と思ったんですね。

まっちゃさん:私は推薦入試で入学したんですが、その時に大学のことを調べている中でPROSの存在を知ったのが最初です。
その時は自分には関係ない世界のことかなと思っていたんですが、調べていくうちに再犯防止の活動に興味を持って、参加したいと思うようになりました。

—そうか、みなさんはコロナが直撃した世代なんですね…
ところで、再犯防止という言葉は普段あまり意識することがないと思いますが、重要なことなのですね

しょうさん:そうなんです。実は、日本では犯罪そのものは減少しています。その一方で再犯率は年々増えてきていて、この数年は50%近い状況になっているんです。

例えば、出所しても頼れる親族がいない高齢者の方や知的障害者の方は、就職が難しいということもあって社会とのつながりが持ちにくく、経済的な苦しさもあって再犯に手を染めることが多いんです。

かっきーさん:それと、薬物使用については多くの人から「本人の心の弱さ」が原因と思われがちですが、実はさまざまな背景があって精神的に追い込まれていることが原因だったりもしますし、薬によって脳が正常に働かなくなることが薬の再使用に繋がることもあります。

啓発キャンペーンの影響もあり、世間一般に薬物は怖いものというイメージが強烈に植え付けられています。使用したことで社会から排除するのではなく、当人はあくまでひとりの人間ということを知ってもらい、本人を支援して再使用を防止したいんです。

ー障害者の方や高齢者の方は社会的にも弱者となりやすいですが、このようなところでも弱い立場なんですね

しょうさん:それもあって、PROSの活動は障害者の方や高齢者の方を中心に支援しています。また、薬物を使用されていた方への支援も茶話会を通じておこなっています。

初めて聞くようなことばかりで、わがことスタッフも衝撃を受けました
確かに多くの人が知っておくべき問題だと感じます

ひとりひとりが生きやすい社会ってなんだろう

―活動においてみなさんが大切にされていることはなんでしょうか

まっちゃさん:ひとつは「居場所と出番」ということです。
出所者はどうしても「社会から受け入れてもらえないかもしれない」と不安や孤独感を感じやすいんです。
茶話会に来てもらって「自分を受け入れてもらえた」「ここは自分がいてもいい場所なんだ」という安心感を持ってもらいたいですし、そこから自立支援のグループや就職活動に踏み出して行く力になればと思っています。

しょうさん:prosilverの方に言われているのですが、学生は意識して「支援する側とされる側」という上下関係が生まれないようにしています。むしろ年齢の差もあって出所者の方から学生に何かやってやりたい、やってやろうという気持ちが生まれてくるんだ、と活動を始めてから気がつきました。
それこそ、出所者の方にとっては「自分たちの出番だ!」ということになりますよね。

かっきーさん:「なんとかしてあげないと!」という気持ちが先走ると、お互いにしんどくなって、最後は共倒れになってしまいますよね。
お互いが安心して楽しく参加できる「居場所づくり」を一緒にしている、と思っています。

—学生ならではの支援ですね、なるほどです

しょうさん:あともうひとつは、自分たちの活動の立ち位置です。
日々のPROSでの活動を通じて、どうしても世の中には法律で人を裁くだけではカバーできないことがある、ということを感じています。

罪を犯す人をただ悪人と見なして、刑罰によって懲らしめるという単純な勧善懲悪的発想では物事は解決しないということ。そこを柔らかく包み込むのが福祉なのかなと。
だから私たちPROSの活動は、「法律的なもの」と「福祉的なもの」の中間であるということを意識しています。

ただ、その一方で被害者の方のことを忘れてはいけない、というのもあって、双方の気持ちを知り、想像することも大事だなと思います。
ひとりひとりが生きやすい社会ってなんだろう、と考えれば考えるほど、難しさも感じますね。

大学祭でCAPIC(刑務所作業製品)の展示も

多くの人に知ってもらうことから

—これからどんな活動を進めていきたいですか

まっちゃさん:まずは多くの人に、こんな活動があるんだ、と知ってもらうことが大事だと思っています。上映会やさまざまな関係機関との交流を通して、地道に輪を広げていきたいですね。

かっきーさん:茶話会の活動はもちろん続けていきたいです。ひとりの人とずっと関わっているわけではないですが、「居場所と出番」づくりを通して、誰ひとり取り残さない社会の実現を目指したい。これはSDGsの考え方にも繋がると思っています。
あと、個人的にはいま就活中なのですが、これからも更生保護の分野に関わっていきたいと思っていて、そのためにもPROSでの学びを通じて正しい知識と幅広い視野を身につけていきたいです。

しょうさん:PROSができた当初はそれほど注目も期待もされていなかったけど、活動を続けるうちに周りの人やいろいろなところから声がかかるようになっています。
再犯防止の取り組みを多くの人に知ってもらって、意識してもらえるようになる、そのきっかけにPROSがなれるなら嬉しいですね。


取材を終えて

「だれひとり取りこぼすことのない社会を」
「『居場所と出番』をつくりたい」
彼女たちがこの活動を始めたきっかけはさまざまですが、この想いが根底にありました。法学に興味を持ち、再犯率の高さを知り、この活動に参加するようになったそうですが、それ以前に、人を想う気持ちの大きさを感じずにはいられませんでした。

先生や大人の力を借りている、としきりにおっしゃっていたものの、彼女たちから発せられる言葉はとにかく、「ブレない」。地に足がついている、という感じでした。
学生主体の活動とはいえ、本気で情熱を持って取り組んでいるからこそ、人の心を動かすパワーを持つ言葉として発信できているのだろうと思います。

活動内容も、そして活動している彼女たちの姿勢からも、本当に刺激を受ける時間となりました。これからの活動も応援しています!

わがことスタッフと一緒に
貴重なお話をありがとうございました!

さぬき再犯防止プロジェクトPROS
mail:preventreoffensesanuki@gmail.com


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